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STUDY

2026.2.12

絵巻物とは?日本独自の美術表現にみる魅力や種類を紹介

絵巻物は日本の美術史において、物語と絵画を融合させた独自の表現形式です。平安時代に誕生してから約千年にわたり、人々の生活や信仰、歴史を記録し続けてきました。

Toshogu_Engi_Emaki_(Kishu_Toshogu)紙本著色 東照宮縁起絵巻, Public domain, via Wikimedia Commons.

国宝や重要文化財に指定された作品も数多く存在し、平安時代から江戸時代までのさまざまな物語表現を楽しめます。本記事では、絵巻物の歴史を辿りながら、その表現技法や、多種多様な作品の魅力を深掘りします。

絵巻物とは

絵巻物とは、紙や絹を横に長くつなぎ合わせ、絵とそれを補足する詞(ことば)を交互に描き記した巻物形式の作品です。単に絵巻と呼ばれることもあります。

大きな特徴は、鑑賞者が右から左へ時間軸に沿って作品を「読み進める」という、時間芸術の要素を持つ点にあります。

絵巻物の歴史

1024px-Genji_emaki_Yadorigi国宝・源氏物語絵巻「宿木(三)」の断簡。制作推定年代は平安時代末期。徳川美術館蔵。, Public domain, via Wikimedia Commons.

絵巻物の始まりは、日本が中国大陸の影響から脱し、国風文化が栄えた平安時代にさかのぼります。初期は宮廷の暮らしを題材にした作品が多く、物語文学が発展するにつれて、日本の風俗を描く物語絵巻が主流となりました。

絵巻物に用いられたのは「やまと絵」の技法です。繊細な色彩感覚と金銀を混ぜた顔料で、装飾的な美しさが追求されました。また、紙を横に貼り合わせる継ぎ紙(つぎがみ)の構成は、画面を横長に使う日本画の伝統的な形式を生み出し、独特な美しさを醸し出しています。

絵巻物の表現技法

絵巻物はその長大な画面を利用して、現代の視覚芸術にも通じる技法を生み出しました。

例えば、連続する出来事を同じ画面内に描き込む「異時同図法」による時間経過の表現や、連続した画面を読み進めるという体験は、まさに現代のマンガやアニメーション作品のルーツと見なされています。

日本四大・三大絵巻物とは

1024px-Chouju_1st_scroll-05鳥獣人物戯画・甲巻:カエルとウサギの相撲の場面, Public domain, via Wikimedia Commons.

絵巻物の中でも、以下の4作品は日本四大絵巻物として挙げられます。

・《源氏物語絵巻》
・《信貴山縁起絵巻》
・《伴大納言絵詞》
・《鳥獣人物戯画》

なお、上記のうち《鳥獣人物戯画》を除く3作品は「日本三大絵巻」ともいわれる名品です。いずれも国宝に指定されています。

【種類別】絵巻物の主なジャンルと代表的な作品

以下では絵巻物の種類を、主に描かれた題材によって分類しました。それぞれに魅力的な作品が存在します。

物語を描いた絵巻物

1024px-Nezumi_soshi_emaki_-_Harvard_Art_Museums_-_Ko-e鼠草子絵巻, Public domain, via Wikimedia Commons.

もっとも古いものでは王朝にまつわる絵巻物があり、中でも傑作といわれる《源氏物語絵巻》は、平安貴族の繊細な心情や宮廷の豪華な生活、風俗を伝える絵巻の最高峰です。

他には、古代から口承で伝わった民話や伝説などを指す「説話」を題材とした絵巻があり、当時の人々の信仰や教訓を伝える役割を果たしました。鎌倉時代にかけて編まれた『今昔物語集』のような説話集をもとに、これらを題材とした絵巻が制作されています。

室町時代には御伽草子(おとぎぞうし)という短編物語が多数生まれ、現代の『かぐや姫』で知られる《竹取物語》や、浄瑠璃の名前の由来にもなった《浄瑠璃物語絵巻》などが作られました。コミカルな話や親しみやすい物語が多く、庶民の間に広がる文化の担い手となりました。

寺社にまつわる絵巻物

Shigisan_engi_emaki_3,_everyday_life信貴山縁起, Public domain, via Wikimedia Commons.

仏教が社会に深く浸透する中で、各宗派の教義の布教や寺社の権威を示す目的からも、絵巻物が制作されました。その多くは「縁起絵巻」という名前で知られています。

その他に、高僧の生涯や功績を伝記として描いた絵巻物も、多くは関連する寺社が所蔵しているものです。また、お経を題材にした「絵因果経(えいんがきょう)」など、経典の内容を絵解きして、わかりやすく伝えようとした絵巻物も見られます。

合戦や祭礼を描いた絵巻物

1024px-Heiji_Monogatari_Emaki_-_Warriors平治物語絵巻 (三条殿焼討), Public domain, via Wikimedia Commons.

戦乱の時代には、合戦絵巻も多く作られました。その代表例である《平治物語絵巻》は、激しい合戦の様子をリアルに描いた質の高い作品です。

また、武士や庶民の動的な生活を描いた絵巻物として、祭礼絵巻があります。祭りの賑わいや当時の風俗を知る貴重な資料となっています。

異形や妖怪を描いた絵巻物

1024px-Hyakki-Yagyo-Emaki_Tsukumogami_1真珠庵蔵『百鬼夜行絵巻』(部分) 伝土佐光信(室町時代), Public domain, via Wikimedia Commons.

恐怖とユーモアが混在する、異形や妖怪を描いた絵巻物も重要なジャンルです。独創性が豊かな《百鬼夜行絵巻》もその一つに数えられます。

また、伝説の妖怪を討伐する物語を描いた《酒呑童子絵巻》は数多くのバリエーションが存在し、国内だけでもさまざまな「本」があります。また、酒呑童子退治の物語に関連して、《土蜘蛛草子》や《綱絵巻》といった作品もあり、歌舞伎や舞踊などの題材にもなっています。

その他の絵巻物

この他にも、風景を主題としたもの、年中行事を表現したもの、能を描いた「能絵」の絵巻物など、多種多様な作品が存在します。

絵巻物の鑑賞方法

1024px-Dojoji_engi_emaki_-_p4道成寺縁起絵巻, Public domain, via Wikimedia Commons.

絵巻物が作られた当時の人々は、絵巻物を持った両手を肩幅ほどに開き、右から左へと端から順に巻き取りながら鑑賞していたことがわかっています。美術館や博物館ではあらかじめ長く開かれた状態で展示されるため、立ったまま右から左に進んで鑑賞することが一般的です。

展示期間中には「巻替え」と呼ばれる展示替えが行われることがあり、複数回にわたって足を運ぶと、同じ絵巻物でも異なる場面を楽しめます。

絵巻物が伝える美と風俗を知ろう

豪華な国宝作品から、庶民の暮らしを描いた風俗絵巻まで、絵巻物の歴史は日本の文化史そのものです。あらゆる絵巻物を通して、私たちは当時の人々の心情や信仰、そして社会のあり方を知ることができます。

さらに、物語を追うように場面が展開する構図や、細やかな筆づかい、鮮やかな色彩など、時代ごとに異なる美しさも見どころです。美術館で出会った際には、物語を読むようにゆっくり眺めてみましょう。きっと、絵巻物の世界がより豊かに感じられるはずです。

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さつま瑠璃

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文筆家・アートライター。1994年神奈川生まれ。会社員を経て、2021年よりフリーライターとして独立。アートと日本伝統文化を専門としつつ、現代美術やカルチャーなど幅広いジャンルで執筆している。日本伝統文化検定2級。SNSでも情報を発信する他、Podcastでは伝統芸能にまつわるトークを配信中。

文筆家・アートライター。1994年神奈川生まれ。会社員を経て、2021年よりフリーライターとして独立。アートと日本伝統文化を専門としつつ、現代美術やカルチャーなど幅広いジャンルで執筆している。日本伝統文化検定2級。SNSでも情報を発信する他、Podcastでは伝統芸能にまつわるトークを配信中。

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