STUDY
2026.9.24
なぜ絵画にうさぎ?「国際うさぎの日」に見たい!実は奥深い、うさぎの名画たち
9月の第4土曜日は「国際うさぎの日」。長い耳とふわふわの毛がかわいらしい"うさぎ"ですが、絵画のなかでは単なるかわいらしい動物として描かれているとは限りません。
目次
野うさぎ, Public domain.
うさぎそのものを主役にした作品はもちろん、人物と一緒に描かれたものや、物語の脇役として登場するものなど、その姿はさまざまです。宗教的・象徴的な意味を持つこともあります。
今回は「国際うさぎの日」に合わせて、うさぎが登場する絵画を5作品ピックアップ。少年と寄り添うかわいいうさぎから、人間のような姿で描かれたうさぎの絵について、その意味や背景に注目してみましょう。
9月の第4土曜日は「国際うさぎの日」
毎年9月の第4土曜日(または日曜日)は「国際うさぎの日(International Rabbit Day)」。
「国際うさぎの日」はうさぎについて知り、その命や暮らしについて考えるきっかけとなる日で、うさぎの保護や適切な飼育について呼びかけるイベントなどが開催されることもあります。
横を向いた子ウサギ, Public domain.
「国際うさぎの日」が設立された背景には、世界各地でうさぎを取り巻く問題があります。ペットとして飼われていたうさぎの飼育放棄や、化粧品の開発のためのうさぎへの動物実験、毛皮を目的としたうさぎの狩猟なども問題の一つです。
こうした現状について知り、うさぎへの理解や保護意識を高めるための啓発の日としても知られています。
ただし、「国際うさぎの日」に必ず行うべき活動が決められているわけではありません。うさぎを飼っている人やうさぎ好きの人が、いつもよりうさぎについて考えたり、魅力を楽しんだりする日でもあります。
絵画のうさぎにはどんな意味が?
うさぎは、古くから複数のイメージや象徴的な意味を持つ存在でもありました。
特にキリスト教や聖書では、繁殖力の高さからうさぎが「多産」や「豊穣」「繁栄」といった肯定的な意味を持つ一方、性的な欲望を表す存在として描かれる場合もあります。また、警戒心が強く逃げる姿から「臆病」という印象を持たれることもあります。
日本でもうさぎは古くから描かれてきた動物です。神聖な存在として扱われることもあり、「かちかち山」などの昔話にも登場してきました。絵画や工芸などの芸術作品にもたびたび取り入れられ、特に浮世絵では、愛らしいうさぎを描いた作品が多くあります。
うさぎは昔から人々の身近にいた動物でもあるからこそ、時代や文化によってさまざまな姿で美術作品に登場しています。
「国際うさぎの日」に見たい、うさぎの名画5選
国際うさぎの日にちなんで、うさぎの描かれた5つの名画を紹介します。うさぎが持つ意味を踏まえて、作品を見ていきましょう。
ヘンリー・レイバーン『少年とウサギ』
『少年とウサギ』(ヘンリー・レイバーン), Public domain.
最初に紹介するのはイギリスの画家、ヘンリー・レイバーンが描いた『少年とウサギ』です。1814年ごろに制作されたとされる油彩画で、少年とうさぎの仲睦まじい様子を描いています。まさにうさぎの可愛らしさが際立つ作品です。
本作は風俗画の一部である「ファンシー・ピクチャー」となっています。ファンシー・ピクチャーとは、日常の人々の暮らしを描く風俗画のなかでも、空想的な要素や物語性を取り入れた作品を指します。
絵に描かれているのは、うさぎを大切そうに抱える少年の姿。少年はまるでうさぎを守るように腕の中へ抱き寄せながら、タンポポの葉を与えています。うさぎを野生動物として描くのではなく、少年にとって大切な存在として表現していることが分かります。
実は、この少年にはモデルがいます。レイバーンの継娘の息子であるヘンリー・レイバーン・イングリスです。少年の穏やかな表情と、腕の中でおとなしくしているうさぎ。両者の距離の近さからも、ペットとして飼われていたうさぎと、それをかわいがる少年との関係が伝わってきます。
徳川家光『兎図』
『兎図』(徳川家光), Public domain.
画家だけでなく、有名な歴史上の人物もうさぎの絵を描いています。それが江戸幕府第3代将軍・徳川家光です。
家光の『兎図』は、墨の濃淡を生かして描いた水墨画で、中央には切り株の上にちょこんと座る一羽のうさぎが描かれています。大きく黒い瞳でまっすぐ正面を見つめ、とても愛嬌がある姿です。
また本作の構図には、中国の思想家・韓非が著した『韓非子』に登場する故事「守株待兎(株を守りて兎を待つ)」が関係していると考えられています。
「守株待兎」は切り株にぶつかって死んだ兎を偶然手に入れた農夫が、再び兎がやって来るのを期待して、農作業をやめて切り株を見張り続けたという故事です。一度得た幸運に頼り、努力せずに同じ結果を期待することを戒めるときに使われます。
かわいらしい一羽のうさぎを描いたように見えますが、その背景に中国の古い故事があると知ると、少し知的な印象を受けます。
歌川芳藤『清元落人 おかるとかん平』
『清元落人 おかるとかん平』(歌川芳藤), Public domain.
一風変わったうさぎの日本画として紹介するのが、歌川芳藤による『清元落人 おかるとかん平』です。本作は明治時代に流行した「兎絵(うさぎえ)」の一つ。兎絵とは明治初期に制作された浮世絵版画で、うさぎを題材にした風刺画などを指します。
当時の東京や大阪では、愛玩用のうさぎを飼うことが流行していました。1872年ごろからその人気が広がると、うさぎの売買や交換をする市まで開かれるように。うさぎブームに便乗するかたちで「兎絵」も数多く制作され、人気を集めました。
『清元落人 おかるとかん平』は、歌舞伎の演目をうさぎに置き換えて描いたユニークな作品です。題材となっているのは、歌舞伎や日本舞踊の演目として知られる「道行旅路の花聟」。『仮名手本忠臣蔵』に登場するおかると早野勘平が、山崎へ落ちのびる道中を描いた物語です。
歌川芳藤はおかると勘平を、なんとうさぎの姿で表現しました。さらに、画面の後方にいる太夫や三味線弾きまでもうさぎとして描かれています。人間が演じる歌舞伎の一場面を、うさぎたちが演じており、ユーモラスな趣のある絵です。
他にも兎絵は多くありますが、うさぎブームは長く続いたわけではありません。1873年になると、うさぎの飼育や売買に対する統制が行われるようになり、次第に熱狂も落ち着いていきました。それとともに、兎絵の流行も終息へ向かっていきます。
当時の人々のうさぎ人気を知ってから眺めると、明治初期の流行を映し出した作品としても楽しめます。
アントニオ・コレッジョ『レモンの聖母』
『レモンの聖母』(コレッジョ), Public domain.
イタリア・ルネサンス期の画家、アントニオ・コレッジョによる『レモンの聖母』には、緑豊かな果樹園で過ごす聖母子が描かれています。
絵の奥には、黄色い実をつけたレモンの木が並び、豊かな自然に囲まれた空間が広がっています。そのなかで聖母マリアは岩の上に腰を下ろし、膝の上に幼いイエス・キリストを抱いています。
聖母の足元に目を向けると、2羽のうさぎが寄り添うように遊んでいます。一見すると、穏やかな場面にかわいらしいうさぎを添えたようにも見える本作。実は描かれたうさぎには、キリスト教における象徴的な意味が込められています。
2羽のうさぎは「純潔が欲望に打ち勝つこと」を表していると考えられており、実は作品の主題と深く関わる重要なモチーフであると分かります。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『聖愛と俗愛』
『聖愛と俗愛』(ヴェチェッリオ), Public domain.
ティツィアーノ・ヴェチェッリオによる『聖愛と俗愛』にも、脇役としてうさぎが描かれています。メインになっているのは白いドレスを身につけた女性と、隣に座る裸の女性です。裸の女性は愛の女神ヴィーナスと考えられており、2人の間にはキューピッドの姿も見られます。
本作はヴェネツィア共和国の十人委員会の書記を務めていた男が、若い未亡人との結婚を記念して依頼したものと考えられています。結婚を祝う作品であることから、男女の愛や結婚に関わるさまざまなモチーフが絵に取り入れられています。
画像拡大、2羽のうさぎ, Public domain.
注目したいのが、左側奥の風景です。白いドレスの女性の後ろには、壁に囲まれた城や集落のような場所へ向かって坂道が伸びています。そこに小さく描かれているのが2羽のうさぎです。
さらに右側にも、うさぎが描かれています。馬に乗った2人の男性が、猟犬を連れて狩りをしており、その先には野うさぎとみられる動物の姿も。そばには羊の群れや羊飼い、寄り添うように座る恋人たちも描かれています。
画像拡大、猟犬に追われるうさぎ, Public domain.
本作は結婚をテーマにした作品であることから、脇役のうさぎが子孫繁栄や欲望といった、結婚と深く関わる存在として描かれていると見ることができます。
【まとめ】国際うさぎの日は、絵画のうさぎにも注目してみよう
野原のうさぎ, Public domain.
9月の第4土曜日は「国際うさぎの日」。うさぎはかわいらしい姿だけでなく、「多産」や「豊穣」「子孫繁栄」、「臆病」など 複数の意味を持つ存在として絵画に描かれてきました。
国際うさぎの日をきっかけに、ぜひ作品の中にいるうさぎにも注目して、アートを楽しんでみましょう。
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アートの美しさや面白さを身近な視点で伝えます。お気に入りの絵画はミレーの『オフィーリア』。フリーランスのライターとして幅広いジャンルで執筆経験あり。趣味は観劇と洋画/海外ドラマ鑑賞。ヴァイオリンを習っています。
アートの美しさや面白さを身近な視点で伝えます。お気に入りの絵画はミレーの『オフィーリア』。フリーランスのライターとして幅広いジャンルで執筆経験あり。趣味は観劇と洋画/海外ドラマ鑑賞。ヴァイオリンを習っています。
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