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STUDY

2026.9.28

これ何食べてる?パンにワイン、天ぷらまで。名画の食事をのぞいてみよう

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「これ、何食べてる?」

名画の中の食べものを見ていると、そんなことが気になってきます。実は絵に描かれた食事には時代の暮らしや流行、人々の価値観が詰まっています。

例えばルノワールの描いた果物やワインは、当時の人々にとってどのような存在だったのでしょうか。今回は名画に描かれた「食」を入り口に、絵の中の人々が何を食べ、どんな暮らしを送っていたのかをのぞいてみましょう。

『舟遊びをする人々の昼食』(ルノワール)

『舟遊びをする人々の昼食』(ルノワール), Public domain.

ピエール・オーギュスト・ルノワールの代表作『舟遊びをする人々の昼食』の舞台は、パリ郊外のセーヌ川沿いにあった人気の行楽地・シャトウにあるレストラン「ラ・メゾン・フルネーズ」。当時のパリ市民にとっては、週末に舟遊びや食事を楽しむ憩いの場所でした。

テーブル上にはワインや果物が並び、楽しげな昼食の風景が広がっています。特に目を引くのが、テーブルクロスの上にそのまま置かれたブドウ。当時のフランスではパン皿を使わない習慣があったことから、果物も気軽にテーブルへ並べられていたようです。

一方で近くには白い器が置かれ、ブドウや洋梨らしき果物が盛られています。しかし絵の中の人々は果物よりも会話やお酒に夢中な様子で、テーブルには複数のワインボトルに加えて小さな木樽も見られます。

また、手前で子犬と遊ぶ女性は、後にルノワールの妻となるアリーヌ・シャリゴ、奥で手すりにもたれている男性はレストラン店主の息子がモデルとされています。実在の知人たちを集めて描かれていることも、昼食の穏やかな空気を醸し出しています。

『田舎のダンス』(ルノワール), Public domain.

『風俗三十二相「むまさう 嘉永年間女郎之風俗」』(月岡芳年)

『風俗三十二相「むまさう 嘉永年間女郎之風俗」』(月岡芳年), Public domain.

月岡芳年の『風俗三十二相「むまさう 嘉永年間女郎之風俗」』では満月の夜、女性が建物の二階の縁側に腰掛け、串に刺さった揚げ物を頬張ろうとしています。串の先にはしっぽのような部分が見えることから、魚か海老の天ぷらでしょう。

『風俗三十二相』は、月岡芳年が手がけた美人画のシリーズです。各作品には「~さう」という女性の様子を表す言葉が付けられており「むまさう」「ねむさう」など、さまざまな表情や仕草が描かれています。副題によって、女性の生きた時代や立場が示されているのも特徴です。

『風俗三十二相「ねむさう 明治年間娼妓の風俗」』(月岡芳年), Public domain.

「むまさう」は現代の言葉でいえば「おいしそう」という意味。まさに女性が食欲をそそられている瞬間を切り取った絵です。副題の「嘉永年間女郎之風俗」は、描かれた女性が幕末の遊女であることを表しています。

絵に登場する天ぷらは、当時の江戸庶民に愛された人気グルメです。江戸初期から中期にかけては、魚介類に小麦粉をまぶしてごま油で揚げる比較的シンプルなものが主流でした。

しかし作品の舞台である幕末頃になると、衣に卵を使ったより贅沢な天ぷらも登場し、屋台だけでなく座敷でゆっくり味わえる店も増えていきます。

月を眺めながら天ぷらを口にする遊女の姿からは単なる美人画を超えて、当時の食文化まで伝えられています。何気ない一串の天ぷらにも、幕末の人々が楽しんだごちそうの記憶が詰まっているようです。

『牛乳を注ぐ女』(フェルメール)

『牛乳を注ぐ女』(フェルメール), Public domain.

ヨハネス・フェルメールの代表作『牛乳を注ぐ女』には、ごくありふれた台所の風景が描かれています。絵の女性は陶器の容器を両手でしっかり支え、別の器へ牛乳をゆっくり注いでいます。

絵の女性は、台所仕事を担当するメイドや女中と考えられており、質素な部屋の中で働く姿が描かれています。テーブルの上には大小さまざまなパンが置かれており、当時のオランダの家庭でよく見られた食事の材料です。

注目したいのはパンの食べ方。17世紀のパンは現在のようにふんわり柔らかいものばかりではなく、時間が経つとかなり硬くなりました。そのため当時のオランダの人々はパンを小さく砕き、牛乳に浸したり、一緒に煮込んだりして食べていました。

美術史家のランド氏は、絵の女性はブレッドプディングを作っているのではないかと考察しています。ブレッドプディングに決まった作り方はなく、硬くなったパンに牛乳や水をかけてリメイクする菓子です。現代でいえばパンを牛乳に浸して食べる感覚に近いかもしれません。

ブレッドプディング, Public domain.

描かれているのは特別なごちそうではなく、17世紀オランダの家庭で日常的に口にされていた素朴な食事です。当時の人々にとって牛乳とパンは身近で大切な食料であり、どこの家でも見られるような光景だったといえます。

フェルメールの名画として眺めると気づきにくいものの、そこには食事を用意する人の暮らしがリアルに描かれていました。

『寛政三美人「難波屋おきた」』(喜多川歌麿)

『寛政三美人「難波屋おきた」』(喜多川歌麿), Public domain.

喜多川歌麿の『寛政三美人「難波屋おきた」』には、若い女性がお茶を運ぶ姿が描かれた絵です。一杯のお茶から江戸の人々の日常や、茶屋の人気を垣間見ることができます。

描かれている難波屋おきたは、18世紀後半に浅草寺近くの茶屋で働いていた看板娘です。当時15歳前後とされ、その美貌が評判となって歌麿の美人画のモデルを務めるようになりました。

江戸の町では知らぬ者はいないほどの人気を集め「寛政三美人」の一人として名を残しています。寛政三美人とはおきたのほかに、富本豊雛、高島屋おひさを描いた美人画です。その中でも特に高い人気を誇ったのが、おきただったといわれています。

『寛政三美人』(喜多川歌麿)左:高島屋おひさ、上:富本豊雛、右下:難波屋おきた, Public domain.

美人で親切なおきたの存在によって、茶屋には多くの客が集まりました。江戸時代の茶屋は現在のカフェや休憩所のような役割を担っており、おきたが運んでいるお茶は、人々が気軽に楽しむ身近な飲み物だったといえます。一人の看板娘と一杯のお茶。その組み合わせが、当時の浅草のにぎわいを伝えています。

『果物籠と猟鳥のある静物』(バン・デル・アメン)

『果物籠と猟鳥のある静物』(バン・デル・アメン), Public domain.

フアン・バン・デル・アメンの『果物籠と猟鳥のある静物』には、台所の食材をのぞき込んでいるかのような光景が広がっています。石造りの場所に果物や野菜、狩猟で得た鳥が並べられ、食材の質感が丁寧に描かれているのが特徴です。

絵の中央にはモモやメロン、ブドウなどの果物を盛った籐の籠が置かれています。周囲には丸いウリやテラコッタ製のカップ、小ぶりのナス、皿に盛られたブドウやプラム。上部にはキジの仲間であるアカアシイワシャコや、シロハラサケイと呼ばれる猟鳥が吊るされており、当時の食卓に欠かせなかった食材が並んでいます。

17世紀のスペインで食材は、季節や収穫状況に左右される存在でした。特に猟鳥は狩猟によって手に入る貴重な食材で、現在でいえばジビエ料理に近いものの材料だったようです。

また、作品は「ボデゴン」と呼ばれる静物画の一例で、スペイン語で「静物画」を意味します。野菜や果物、肉など身近な食材を題材とすることが多いため、「厨房画」と訳されることもあります。当時のスペインではバン・デル・アメンのほかにも、サンチェス・コターンなど多くの画家がボデゴンを手がけました。

『狩猟の獲物、野菜と果物のある静物』(サンチェス・コターン), Public domain.

『果物籠と猟鳥のある静物』では食卓に上る前の食材そのものが主役。当時の人々が食生活や季節の恵みを大切にしていたことが伝わってきます。何を食べていたのかだけでなく、どのように食材を使用していたのか知ることができる一枚です。

『最後の晩餐』(ダ・ヴィンチ)

『最後の晩餐』(ダ・ヴィンチ), Public domain.

かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂の壁に描かれた作品です。キリストが弟子たちに「この中に私を裏切る者がいる」と告げた瞬間が描かれており、緊張感あふれる場面となっています。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会, Public domain.

白いテーブルクロスの上には大皿や取り皿、水を入れたフィンガーボウル(指先を洗う道具)、塩が入っているであろう小さな容器、ナイフ、そしてワインの入ったグラスが置かれています。長い年月のなかで絵の一部が傷んだため詳細は不明な点もありましたが、20世紀末の修復によって、皿の上には魚料理が描かれていることが確認されました。

『最後の晩餐』の食事は、ユダヤ教の重要な行事である「過越祭(ペサハ)」だったと考えられています。過越祭は、古代イスラエルの民がエジプトでの苦難から解放された出来事を記念する祭りで、現在でも大切に受け継がれています。

ペサハ, Public domain.

過越祭の時期には、酵母を使わないパン「マッツァ」が食べられます。現代のパンのようにふっくらしたものではなく、薄く焼いたクラッカーに近い食べものです。また、子羊肉や苦菜、卵などを盛り付けた「セデル」と呼ばれる伝統的な料理もあります。

『最後の晩餐』は劇的な物語に注目が集まりますが、テーブルに並ぶ料理に目を向けると、宗教的な習慣も見えてきます。世界で最も有名ともいえる食事の場面は、実は「何を食べていたのか」という視点から眺めても面白い作品です。

『豪華な食卓 』(ベイエレン)

『豪華な食卓 』(ベイエレン), Public domain.

アブラハム・ファン・ベイエレンの『豪華な食卓』は、その名の通り豊かな食べものや高価な食器が並ぶ華やかな静物画です。絵には銀製の大皿や金の杯、繊細な装飾が施されたガラス器、磁器などが所狭しと配置され、当時の富裕層の暮らしぶりが感じられます。

テーブルに並ぶのは大量のワインや大きな肉の塊、魚介類、外国から輸入してきた果物。単なるごちそうではなく、豊かさや社会的地位を示しているともいえます。

しかし『豪華な食卓』は豪華さを称賛するためだけに描かれたわけではありません。質素な食事を描いたシャルダンの静物画とは対照的な世界観ですが、その奥には「豊かさに溺れず節度を忘れてはならない」という教訓が込められています。

『銀のゴブレットのある静物』(シャルダン), Public domain.

教訓の象徴ともいえるのが、画面の片隅に描かれた懐中時計です。どれほど豪華な食事を楽しみ、財産を築いたとしても、時間は誰にとっても平等に過ぎていきます。やがて老い、死を迎える人間の運命を示す時計は、目の前の贅沢が永遠ではないことを語りかけています。

食欲をそそる料理や美しい器に目を奪われますが、作品が本当に伝えようとしているのは「人生の豊かさとは何か」という問いなのかもしれません。

【まとめ】「食」から見えてくる名画の物語

名画に描かれた食べものは、ただの背景ではありません。フェルメールの牛乳とパン、浮世絵に登場する天ぷらやお茶など、それぞれが当時の暮らしを今に伝えています。

「この人たちは何を食べていたのだろう?」という視点で絵を眺めると、これまで気づかなかった人々の思いや文化が見えてくるかもしれません。

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纏まりあ M.Matoi

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アートの美しさや面白さを身近な視点で伝えます。お気に入りの絵画はミレーの『オフィーリア』。フリーランスのライターとして幅広いジャンルで執筆経験あり。趣味は観劇と洋画/海外ドラマ鑑賞。ヴァイオリンを習っています。

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