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2022.8.24
鑑賞前に知っておきたい!カンバス画って?特徴、作品鑑賞のコツ
カンバス画はキャンバス画とも呼ばれ、布の上に絵を描く絵画技法です。
ヨーロッパにおいては、近世以降それまでの板絵(パネル画)に代わって絵画の支持体として普及しました。
ジョルジョーネ『三人の哲学者』, Public domain, via Wikimedia Commons
この記事では、ローマの大学院で美術史を専攻する筆者が、カンバス画の描き方、特徴、鑑賞のコツを詳しく解説します。
カンバス画の描き方
Art Graphics, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ポイント①布選び
カンバス画はまず布を制作するところから始まります。
カンバスの布は絵画層と直接接触しているため、布自体が崩れてしまうと絵画が失われてしまう危険があります。
そのためカンバスに利用する布選びや布の織り方は非常に重要なポイントで、布自体が傷むことがなく、木枠に強く固定してもゆるまないような頑丈な布が必要です。
例えばシルクは丈夫で耐久性に優れていますが、板に張ったときに緩んでしまって絵画のベースには不向きでした。
ルネッサンス以降にカンバス画が普及すると、亜麻が使用されるようになり、18世紀の紡績業の機械化が進むまでは手作業で糸から作られていました。
ポイント②下地を塗る
布が完成したら、たゆみやしわがないように木枠ピンッと張りつけ、その上に下地(石膏やグルー)を塗り整えます。
下地は、絵具が過剰に布に吸収されることを防ぐ役割がありますが、画家によっては布地をあえて隠さずに芸術表現の一部とする場合もあります。
時代や地域によって用いられる下地や絵具は異なりますが、一般的に油絵具であることが多く、アクリル絵具も使用されます。
カンバス画の特徴
ティントレット『弟子の足を洗うキリスト』, Public domain, via Wikimedia Commons
特徴①年代特定のヒントになる
カンバス画は時代により布の制作方法や下地、絵具の質が異なるため、カンバス自体を監査することは年代特定のヒントになります。
カンバス画が広く普及したのは15世紀以降と言われますが、その歴史は古く紀元1~2世紀古代ローマにまでさかのぼります。
この時代は木製パネルに描かれる絵画が主流でしたが、アレクサンドリアで発見された肖像画の中にはカンバス画技法に近い試みが確認されています。
参考:1~2世紀ごろ描かれたミイラ肖像画(Fayum portraits)。Louvre Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
中世には、布に石膏やグルーで加工をしてテンペラ画をほどこす方法が生まれ、これは教会の旗として利用されました。
時代によってカンバスの用途や技法は変化してきました。
これは美術史家にとって、「本物の作品」を見つけるためのヒントになります。
例え絵自体が限りなく本物に近く判断がつかないとしても、カンバスが機械織りであれば産業革命以前の作品ではないということがわかりますよね。
カンバスの時代ごとの特徴を把握していれば、絵画の推定制作年代とマッチしているかどうかで贋作を見つける判断材料になるのです。
特徴②芸術の個人化を普及させた
カンバス画のもう1つの特徴は、芸術が宗教的側面から独立し、個人の収集趣味として普及する手助けになったという点です。
木板を組み合わせて作る木製パネル板絵は高価で、一般的には教会などの宗教的依頼によって制作されていました。
15世紀以降に普及したカンバス画は板絵よりは手ごろな価格であり、個人の美術収集家から好まれました。
カンバス画の普及は技術的な理由だけでなく、芸術の個人化という時代の流れとも関係していたのですね。
カンバス画を鑑賞する際のコツ
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ『エジプトへの逃避途上の休息』, Public domain, via Wikimedia Commons
カンバス画を鑑賞する際には、近づいて布の質感をチェックしてみてください。
カンバス画には、布の折り目をあえて隠さずに自然に表現に取り入れている作品と、完全に織り目を隠して写実性を重視した作品があります。
ルネッサンス期には、写実性を追求するため、芸術家は織り目を下地加工で完全に隠すことを目指しました。
下地は絵画層を崩れにくくする役割もありますが、美的な理由によっても処理が異なります。
芸術家によってはカンバスの質は非常に重要で、織り目の種類まで慎重に選択していました。
絵画部分だけでなく、カンバス自体にも目を向けてみると新しい発見があるかもしれません。
カンバス画を見つけた際は、作品に近づいてみて、布の折り目を目視できるかチェックしてみてくださいね!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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