STUDY
2022.10.12
西洋美術のモチーフになった「ギリシャ神話」3選!初心者向けにストーリーを解説
ルネッサンス以降、西洋美術の世界では多くの芸術家がギリシャ神話をモチーフにした作品を残してきました。
ゼウスやアポロンなど、有名な何人かの神々の名前を聞いたことがあっても、なかなか神話のストーリーまでは知らない人も多いのではないでしょうか。
ギリシャ神話のストーリーを知ると、作品に込められた意味がわかるようになり、西洋美術鑑賞が一層楽しくなります。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『エーコーとナルキッソス』, Public domain, via Wikimedia Commons
この記事では、ローマ大学院で美術史を専攻している筆者が、有名なギリシャ神話のストーリーを3つ紹介します。
1.エロスとプシュケ
Sailko, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
エロスとプシュケは、ラファエロの作品を代表として、新古典主義の時代にも多く用いられたギリシャ神話の主題です。
プシュケは美しい人間の王女でしたが、美の神アフロディーテの反感をかってしまいます。
アフロディーテは、プシュケが醜い男と結婚するように仕向けるため、息子であるエロスに愛の矢を放つように命じました。
参考:ラファエロ『アモーレとプシュケの間』ファルネジーナ荘, Public domain, via Wikimedia Commons
しかしエロスはプシュケを遠くから見ているときに矢で自分の指を傷つけてしまい、彼女に恋をしてしまいます。
エロスは「自分の姿をプシュケに見られない」という条件のもとプシュケとの結婚生活を始めましたが、しばらくして不安になったプシュケはエロスの姿を見てしまいました。
プシュケに姿を見られたエロスは姿を消し、プシュケは夫を探すためにアフロディーテから課せられた厳しい試練を乗り越える、というお話です。
エロスは、古代ギリシャ時代の紀元前8世紀頃には神の1人として畏怖の対象になっていましたが、紀元前5世紀には「美の神アフロディーテの息子」という属性が強まり美青年として描かれることになりました。
さらに時代が下った紀元前3世紀には「子ども」の要素が色濃くなり、いたずら好きの幼児としての姿が多くなります。
16世紀ルネッサンスには、紀元前3世紀の幼児エロスの姿がキリスト教の天使に応用され、「天使=羽の生えた幼児」という現代の認識につながりました。
2.ペルセウスのメドゥーサ退治
© Vyacheslav Argenberg / http://www.vascoplanet.com/, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
勇者ペルセウスは、貧しい家庭に生まれた青年です。
あるとき王に馬を献上するように命じられ、貧乏ゆえに馬を用意できなかったペルセウスは勢いで「代わりにゴルゴンの首でも持ってくる」と宣言してしまいます。
ゴルゴンとは、蛇の髪と黄金の翼を持つ三姉妹で、見るものを石に変えてしまう強力な力を持っているために人々に恐れられていました。
ペルセウスはニンフから空を飛べるサンダル、首を入れるための袋、姿が見えなくなる帽子をもらい、ギリシャの強力な女神アテネとヘルメスから金剛の釜と青銅の楯(たて)を借りて戦いの準備を整えます。
そしてゴルゴンのもとに向かい、まずは三姉妹の中で不死でないメドゥーサを標的に定め、メドゥーサの姿を直接見ないように青銅の楯の反射を利用して近づきました。
なんとかメドゥーサの首を切り落とすことに成功したペルセウスは、その帰りに出会ったエチオピアの王女アンドロメダを助けて結婚することになります。
アンドロメダの婚約者であった別の男が大軍を引き寄せて祝宴の場を襲撃しに来ましたが、ペルセウスは打ち取ったメドゥーサの首を袋から取り出して敵軍に見せつけ、みんなを石に変えてしまいました。
ペルセウスがメドゥーサを打ち取った際に青銅の楯の反射を利用したことから、ウフィツィ美術館にあるカラヴァッジョの作品では丸い楯にメドゥーサの姿が描かれています。
参考:ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ『メドゥーサ』, Public domain, via Wikimedia Commons
3.自分に恋して死んだナルキッソス
PeterWem, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ナルキッソスは、日本語でも使われる「ナルシスト」の語源となった名前です。
ナルキッソスは誰もが恋してしまうほどの美青年でしたが、高慢すぎる性格から自分に言い寄るものを冷たくあしらい続けていました。
ある日、ナルキッソスが水を飲もうと泉に向かってかがみこむと、これまでに経験したことのない強い恋慕を感じます。
それは水面に写った自分自身の姿に対する恋心でした。
ナルキッソスは自分にキスをしようとしてもそれはかなわず、毎日毎日泉を訪れるようになりました。
“叶わぬ恋”に取りつかれたナルキッソスは、寝食を忘れ、やせ細ってとうとう泉のほとりで息を引き取ってしまいます。
彼の身体があった場所には白い水仙の花が咲いたという伝説から、ギリシャ語では水仙のことを『ナルキッソス』と呼びます。
水仙の花ことばは、「うぬぼれ」「ナルシスト」です。
まとめ
美術作品にはギリシャ主題を基にしているものや、部分的にモチーフを取り入れて使用しているものがたくさんあります。
ギリシャ神話の世界を深めることで、作品鑑賞がより楽しくなりそうですね。
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-

STUDY
2025.11.19
古田織部とは?革新的な茶の湯と織部焼の魅力を知ろう
さつま瑠璃
-

STUDY
2025.11.18
アレクサンドル・カバネル──理想の美を描いたアカデミーの画家
国場 みの
-

STUDY
2025.11.12
クリムト《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I》―奪われた名をめぐる、芸術を超えた“人間の尊厳”の物語
つくだゆき
-

STUDY
2025.11.11
画家のパレットの進化を知ろう—制作を支えた道具たちとは?
Masaki Hagino
-

STUDY
2025.11.07
日本のアートの始まりは?縄文土器・土偶に見る美の原点
のんてり
-

STUDY
2025.11.06
「バーナード・リーチとは?日本を愛し陶芸と民藝に影響を与えた陶芸家」
加藤 瞳
このライターの書いた記事
-

STUDY
2025.09.30
イタリアの世界遺産の街7選!歴史と美術の面白さを在住者が解説
はな
-

STUDY
2025.09.24
【ターナーの人生と代表作】モネと似ている?印象派の先駆け?
はな
-

STUDY
2025.07.15
シャガール『誕生日』:遠距離恋愛を乗り越えた彼女への愛が爆発したロマンチックな作品
はな
-

STUDY
2025.07.09
ゴヤ『1808年5月3日、マドリード』恐ろしさの裏に隠された背景を読み解く
はな
-

STUDY
2025.07.07
描かれたのは5人の娼婦?ピカソの『アヴィニョンの娘たち』を簡単に解説!
はな
-

STUDY
2025.06.05
「大天使ミカエル」の役割と描かれ方を解説!【キリスト教美術史】
はな

はな
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
はなさんの記事一覧はこちら