STUDY
2022.12.2
『ローマの休日』に登場する「真実の口」はミステリアス!?歴史背景と美術解説
映画『ローマの休日』の中でも最も有名なシーンの1つは、「真実の口」と呼ばれる彫刻に新聞記者のジョー・ブラッドレーが手を入れるシーンではないでしょうか。
『ローマの休日』はローマと舞台としており、作中に登場するシーンの多くは現在でも実際に訪れることができます。
目次
Fallaner, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
この記事では、ローマの大学院で美術史を専攻する筆者が「真実の口」の歴史的な背景や美術について紹介します。
『ローマの休日』名シーンの舞台「真実の口」の伝説とは?
Trailer screenshot Licencing information :https://web.archive.org/web/20080321033709/http://www.sabucat.com/?pg=copyright and http://www.creativeclearance.com/guidelines.html#D2, Public domain, via Wikimedia Commons
映画『ローマの休日』の中では、「真実の口」と呼ばれる彫刻に主人公の2人が訪れるシーンがありますね。
「真実の口」(イタリア語:Bocca della Verità(ボッカ・デラ・ベリタ))には、嘘つきが手を入れると抜けなくなったり手を嚙みちぎられたりするという伝説があります。
『ローマの休日』では、新聞記者ジョー・ブラッドレーがアン王女の前で彫刻に手を入れて、抜けなくなったふりをして驚かせます。
現在「真実の口」の彫刻は、観光客が近づいて写真を撮れるような環境に設置されており、『ローマの休日』のワンシーンを真似することができます。
「真実の口」の起源と歴史
「真実の口」はどこにある?作品のモデルは?
Michael aus Halle, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
『ローマの休日』で一躍有名になり、連日多くの観光客が列をなす「真実の口」ですが、実はこの彫刻が教会に設置されていることはあまり知られていません。
「真実の口」のあるサンタ・マリア・イン・コスメディン聖堂(Basilica di Santa Maria in Cosmedin)は、東方での迫害から逃れてきたギリシャ人が建てた教会で、現在でもギリシャ文化の影響を感じることのできる場所です。
「真実の口」は推定1300キロ程度の大理石で作られた彫刻で、作品のモデルはおそらく海の神オーケアノスだと考えられています。
参考:ヘラクレス・ウィクトール神殿, Nicholas Hartmann, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
「真実の口」の穴の役割とは?
実は「真実の口」が何のために作成されたものなのかは、歴史家の間でも明確にはされていません。
一説によると、これはサンタ・マリア・イン・コスメディン聖堂の近くにあるヘラクレス・ウィクトール神殿内部のマンホールのような役割を果たしていたのではないかと言われています。
神殿の部屋の部分は真ん中に穴が開いており(現在の部屋は後世の人が加えたもの)、雨の水がそのまま神殿内に入っていたため、建物の中でも排水システムが必要でした。
作品の目の部分と口の部分に穴が開いているのはこのためかもしれません。
「真実の口」の美術解説
「真実の口」が作られた時期は?
Shadowgate from Novara, ITALY, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
「真実の口」の歴史的・美術的な起源は諸説あり、明確なことはわかりません。
わかっていることは、おそらく「真実の口」が1世紀頃に作成されたことです。
「真実の口」は何に使われていた?
ヘラクレス・ウィクトール神殿のマンホールだったという説の他にも、噴水の彫刻の一部であった説や、井戸のふただったという説もあります。
いずれにせよ、作品のテーマが海の神オーケアノスであることから、水に関連する用途があったと推定されています。
しかし実際のところ「海の神である」という点も議論の余地があり、「本当に何もわからない」というのが今のところの歴史家の見解となっています。
嘘つきが手を入れると手を噛みちぎられるという伝説はどうやら中世に始まったもののようで、「真実の口」が作られた古代にはただ単に神の姿を彫刻しただけだったようです。
まとめ
「真実の口」は映画『ローマの休日』の影響もあり、現在もローマの人気観光スポットとなっています。
しかし、美術作品としては不明な点が多く、多くの歴史家がさまざまな学説を唱えているミステリアスな彫刻です。
マンホールとして使われていたかもしれないものにみんなが手を入れて遊んでいると思うと、少し面白おかしい感じがしますよね。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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