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2026.9.30
【取材レポ・ハイパーミュージアム飯能】「なぜ人は絵を描くのだろう」知的障害者が生み出す現代アート、みずのき絵画展
森の中の美術館、ハイパーミュージアム飯能。埼玉県飯能市にある、北欧ライフスタイル体験施設「メッツァビレッジ」内の現代美術館です。2025年3月にオープンし、これまでに「ハイパーな才能」のあるアーティストたちが、インパクトのあるアート作品を展示し、来場者の目を楽しませてきました。
でも今回は、これまでと一味違う展示会を開催。京都・亀岡にある知的障害者支援施設「みずのき」の絵画教室から生まれた7名のアーティストたちによる展示「なぜ人は絵を描くのだろう」を紹介します。開催期間は2026年9月12日(土)~11月3日(火・祝)です。
目次
みずのき絵画教室のはじまり
現代アートが、コンセプトのハイパーミュージアム飯能。しかし、7名の作家たちに「現代アートを描いてきた」という意識はなかったと思われます。ただ、素直な気持ちで一心不乱に絵画と向き合ってきたのではないでしょうか。
やがて作品は世界で評価され、作家の中には1994年に世界的現代アーティストであるジャン・デュビュッフェの作品が寄贈され開館されたスイス・ローザンヌにある市立美術「アール・ブリュット・コレクション 」に、永久所蔵された実績があります。
この芸術活動を、日本語では「生(き)の美術」と訳され、従来の美術の枠から外れた芸術の魅力を発揮する作品として注目を集めてきました。
「みずのき」は、1964年から日本画家・西垣籌一(1912⁻2000)の指導のもとに、絵画教室を開設。当初は余暇活動から始まり、入所者たちの描く力や作品の魅力、彼らの多様な表情や変化を目の当たりした西垣が立ち上がりました。
「入所者の可能性を広げたい」と美術教育に力を入れ、独自のプログラムを考案。造形と色彩の学びを深める機会を提供しました。残念ながら西垣の死去後、みずのき絵画教室は一年後に閉鎖。その後、2012年に「みずのき美術館」が開館し、入所者の残した2万点の作品が所蔵されました。展示会では京都から埼玉へやってきたコレクションの一部を、生でご覧いただけます。
アニメーションから絵画作品へ
展覧会では、アーティストたちの作品から独自のキュレーションを行っています。
ミュージアムの入口正面は開放的な空間が広がり、≪みずのき動物園≫と題したアニメーション映像が流れています。長年、施設の貯蔵庫に貯まっていた動物絵画を、映像作家・浦杉力の手によってアニメーション化されました。
動物たちが互いの顔を寄せ合い、しっぽを振り、愛らしく動く様子を見ることで、その後の絵画作品に期待が持てました。
展示会場は、子どもの頃に嗅いだクレヨンの匂いがします。ふと、自分の幼少期を振り返って、懐かしい気持ちになりました。
さらに作品収蔵庫をイメージした「引き出し式展示棚」の設置や、展示会では見られない作品のアーカイブを含めた235点の作品を鑑賞することができます。障害者の絵画作品で感じる最大の魅力は、誰の目も気にせず、夢中になって描いた作家の形跡を直接見られることです。
戦争で失った代償と引き換えに作品を描く 二井貞信(1917-1988)
私が今回の展覧会で、特に印象に残った作家をご紹介。
石や貝殻、植物をモチーフに丁寧に描く作家・二井貞信。第二次世界大戦中に召集され、戦闘の極限状態とマラリア感染により 、精神疾患か脳機能障害を発症したことで、みずのきへ入所します。
石の形を見事に捉えた観察力、繊細な二井の人柄がにじみ出ています。色を分けて描く「色彩分割」は、モチーフの魅力をさらに引き出し、重ね塗りをすることで作品に深みを出しています。
「いつも微笑みをたたえ、エビスさんのように優しかった」と言われる二井は、みずのき絵画教室にとって癒しの存在だったことでしょう。健常者として生まれたにも関わらず、戦争の犠牲者となり、健康な身体を失った二井。彼の作品を見て「どんな未来になろうと、この先も絶対に戦争をしてはならない」という思いが込み上げてきました。
カラフルな家を描き続ける信念 堀田哲明(1949⁻2015)
1968年からみずのきで暮らし、堀田は絵画教室に入り、隣の席だった人の絵をまねて描き始めます。そこから約30年、彼が生涯のモチーフとして描き続けた「家」は約900点にものぼります。
会場では、作品の前に座り心地の椅子に座って鑑賞できます。じっと眺めていると、カラフルな家から子どもたちの笑い声が聞こえてくる気がしました。
堀田は使い古した小さなクレヨンを好み、画用紙に三角屋根や四角い屋根の家を描くのが特徴でした。二井と同じように色彩分割され、豊かな色彩力と迫力があります。
「この家は堀田にとって、みずのきの施設なのか、心の家なのか……。もしかしたら実家を思い出して、家族に会いたかったのかもしれない」そんな想像が膨らみ続け、彼の内面に寄り添いたくなりました。
木炭のクレヨン、黒い世界を探求 吉川敏明(1947⁻1987)
なぜ、木炭で描いたのか。ほかの作家と、対照的な黒の世界で生きる吉川の作品。
思わず引き込まれるのは、彼の描く猫にヒントがあるように感じました。野良猫をイメージさせる猫たちは乱暴さや鋭さよりも、どこかとぼけた表情をしていて親しみを感じます。「猫と作者の顔が似ているのかな」と勝手ながら思いました。
木炭を手に、強い筆圧で何度も塗りつぶし、モノトーンの世界に没入していった吉川の背中が目に浮かぶようです。一方で、クレヨンで描く飛行機と建物は同じ構成で反復し、柔らかい色合いで制作。とても同じ人物が描いたとは思えません。
吉川は、制作過程で修正や手直しを一切せず、迷いがない作家でした。思いのまま描くことで、躍動感に溢れていました。
とはいっても、日々の暮らしは山あり谷ありだったはず。当時の彼らの暮らしぶりを、黒の世界から想像する時間はとても貴重なものでした。
人はなぜ絵を描くのだろう
戦前、戦後と時代の荒波を超えてきたアーティストたち。すでに7名のうち、6名はこの世を去っています。
絵を描くことで、自分の存在を世の中に示したみずのきのアーティストたち。生前はスムーズな会話が難しかったであろう、彼らの心の声に耳を傾ければ、底知れぬエネルギーを感じ取ることができます。
展覧会情報
「なぜ人は絵を描くのだろう」みずのき絵画展
開催場所:メッツァビレッジ内 ハイパーミュージアム飯能
開催期間:2026年9月12日(土)~11月3日(火・祝)
アクセス:西武池袋線「飯能」駅から北口1番乗り場
「メッツァ」行き直行バス、または「宮沢」行き路線バスで13分
開館時間:10:00~17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:会期中はなし
料金:オンラインチケット大人:500円、子ども、300円
当日券 大人:600円、子ども、400円
住所:埼玉県飯能市宮沢327⁻6メッツァ
画像ギャラリー
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アートライター・イラストレーター
高校・大学で美術を学び、現在はライターとして新聞社やWebメディアで、アートと社会のつながりについて取材を行う。
また、福祉の仕事にも携わっていることから、障害のある方のアート活動や創作の現場を取材する機会が多く、「表現と向き合う」をテーマに執筆。趣味はラジオのお悩み相談を聞くこと。
アートライター・イラストレーター
高校・大学で美術を学び、現在はライターとして新聞社やWebメディアで、アートと社会のつながりについて取材を行う。
また、福祉の仕事にも携わっていることから、障害のある方のアート活動や創作の現場を取材する機会が多く、「表現と向き合う」をテーマに執筆。趣味はラジオのお悩み相談を聞くこと。















