EVENT
2024.9.28
【蕗谷虹児展】少女たちを魅了したモダンガールと詩情あふれる美の世界
大正から昭和にかけて、少女雑誌の挿絵や表紙絵で活躍し、詩情豊かでモダンな洗練された美女を描いて、当時の少女たちを魅了した蕗谷虹児(1898 - 1979)。彼の展覧会「大正・昭和のモダニスト 蕗谷虹児展」が平塚市美術館で、2024年10月5日から11月24日まで開催されます。
目次
蕗谷虹児《秋の声(『少女倶楽部』第3巻第10号口絵原画)》 1925 年、蕗谷虹児記念館蔵
この展覧会では、少女雑誌の表紙や挿絵の原画、パリ滞在中の作品、童話や絵本の挿絵、アニメーションの原画など約450点が展示され、蕗谷虹児の60年にわたる画業が振り返られます。文化や芸術が大衆化する中で、虹児が出版界で果たした重要な役割や、戦後の児童文化に残した貢献も紹介されます。
展覧会期間中には、虹児が構成・原画を担当した短編アニメ「夢見童子」も上映されます。こちらも見逃せない内容です(9時30分〜16時30分頃、1回の上映時間は15分28秒)。
蕗谷虹児とは?〜近代的なライフスタイルに憧れる女性たちの象徴的存在
蕗谷虹児《表紙原画(『令女界』第27巻第2号)》 1949 年、蕗谷虹児記念館蔵
蕗谷虹児は、新潟県新発田町(現・新発田市)出身で、本名は蕗谷一男です。15歳で上京し、日本画家の尾竹竹坡に師事して日本画を学びました。22歳のとき、竹久夢二と出会い、そのスケッチの卓越した才能に夢二は驚嘆したと伝えられています。1920年には夢二の紹介で「少女画報」の挿絵を手がけ、詩情豊かで繊細な抒情画が少女たちに夢を与え、一躍人気作家となりました。
蕗谷虹児《『睡蓮の夢』箱原画》 1924 年、蕗谷虹児記念館蔵
1922年、野口雨情の推薦で詩画集『銀の吹雪』を刊行し、1924年に発表した詩「花嫁人形」は杉山長谷夫の作曲で童謡にもなり広く知られました。1925年には絵の研鑽のためパリに留学し、サロン入選や個展を通じて画家としての自信を深めました。
現地で藤田嗣治や東郷青児らと親交を深め、画家としての地位を固めていましたが、1929年に東京の留守宅の経済的問題から帰国。その後、再び少女雑誌の挿絵を手がけ、1930年代にはモダンで都会的な女性像で大人気を博しました。
蕗谷虹児《船…形見の扇(別れ四題)(『令女界』第4巻第7号口絵原画)》 1925 年、蕗谷虹児記念館蔵
戦後は、童話や絵本の挿絵に加え、1958年に東映動画に招聘され、短編アニメーション「夢見童子」の構成や原画を担当し、「安寿と厨子王丸」などの時代考証を行いました。
晩年は個展を中心に作品を発表し続け、1979年に急性心不全で80歳の生涯を閉じました。1987年には、幼少期を過ごした新潟県新発田市に蕗谷虹児記念館が開設されました。
蕗谷虹児展の見どころ
神奈川県内初の大規模回顧展
神奈川県内の公立美術館では初の大規模な回顧展となります。第二次世界大戦中、虹児は神奈川県山北町に疎開し、戦後にその地で仕事を再開しました。少女雑誌の表紙や挿絵、パリ時代の作品など約450点を通して、彼の画業を紹介します。
女性の憧れ「モダンガール」
1930年代、虹児は流行のファッションに身を包んだモダンな女性像を描き、当時の女性たちの憧れを象徴しました。パリ留学を経て、彼の作風は大正時代の抒情的な女性像から、自立した女性像へと進化しました。
《胡蝶の夢》33年ぶりの公開
1991年以来展示されていなかった《胡蝶の夢》が33年ぶりに公開されます。この作品は、仰向けの女性の横顔と、彼女の唇に舞い降りようとする蝶を幻想的に描いたもので、1931年に発表された口絵「夢」を基に制作されました。
蕗谷虹児の魅力〜時代を超えたモダンな感性と詩的美しさ
蕗谷虹児《さやからとびでた五つぶの豆(『世界名作童話全集 アンデルセン おやゆび姫』挿絵原画)》1942年、蕗谷虹児記念館蔵
虹児の魅力は、詩的で美しい表現と時代を超えたモダンな感性にあります。彼の描く女性像は、繊細さと力強さを兼ね備えており、大正から昭和にかけて多くの女性たちに影響を与えました。
特に、若くして亡くなった母への想いが彼の作風に深く影響を与え、感情豊かな作品として見る者の心に響きます。また、虹児はアニメーションにも挑戦し、その多才さをさまざまな分野で発揮しました。
開催概要
展覧会名 大正・昭和のモダニスト 蕗谷虹児展
会期 2024年10月5日(土)〜11月24日(日)
休館日 月曜日(10月14日、11月4日は開館)、10月15日、11月5日
会場 平塚市美術館
〒254-0073 神奈川県平塚市西八幡1-3-3
開館時間 9:30〜17:00(入場は16:30まで)
入館料
一般800円、高大生500円、中学生以下無料
※毎週土曜日は高校生無料
※各種障がい者手帳の交付を受けた方と付添1名は無料
※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は団体料金(年齢・住所を確認できるものをご提示ください)
アクセス
JR東海道線 「平塚駅」 東改札口、北口、または西口より徒歩約20分
北口よりバス4番乗り場乗車
「美術館入口」下車(徒歩1分)
「コンフォール平塚前」下車(徒歩5分)
公式サイト
大正・昭和のモダニスト 蕗谷虹児展
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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