EVENT
2025.3.11
『〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩1890-1918』ポーランド美術の真髄がここにある。
1795年、国土を分割占領されたことで世界地図から姿を消したポーランド。その歴史や文化的逸話を大きなスケールで描いたのが、19世紀後半に活躍した画家、ヤン・マテイコです。クラクフ美術学校校長を務めた彼のもとからは、〈若きポーランド〉と呼ばれる芸術家たちが巣立ちました。
京都国立近代美術館では、2025年3月25日(火)から6月29日(日)まで、ポーランドの芸術家たちに焦点を当てる日本初の展覧会『〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩(うた)1890-1918』を開催します。日本初公開の作品が集結する機会に、ぜひ足をお運びください。(出品点数:約130点)
芸術家が紡いだポーランドのアイデンティティ
ヤン・マテイコ《1683年、ウィーンでの対トルコ軍勝利伝達の教皇宛書簡を使者デンホフに手渡すヤン3世ソビェスキ》 1880年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵
中東欧に位置するポーランドは、966年に建国されました。14世紀には欧州最大の規模を誇りましたが、1795年の第三次分割によって、第一次大戦が終了するまでの123年間、国は消滅。国を失った人々がアイデンティティの拠り所としたのは「文化」でした。
もともとポーランドは、西と東南が平原に面した地形のため、先史時代から陸上を経由した往来が多く、東西の文化が交わる文化的刺激の多い土地だったと考えられています。このような背景を持つポーランドで19世紀後半に活躍したのが、画家のヤン・マテイコです。故郷の歴史や文化的逸話を大きなスケールで描いた彼は、「ポーランド美術史上最も高い評価を受ける画家」と称されます。
クラクフ美術学校校長を務めたヤン・マテイコのもとからは、多くの弟子たちが巣立ちました。マウリツィ・ゴットリープやヤチェク・マルチェフスキが有名で、彼らは〈若きポーランド〉と呼ばれます。
祖国独立への願いと自らの心情を結びつけ、象徴性と色彩に富んだ作品を広い分野で展開した〈若きポーランド〉。地域に残る伝統文化を発見・再解釈しながら、同時代の西欧美術や日本美術を吸収し、ポーランドのアイデンティティを模索し続けました。
『〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918』では、マテイコを先史とし、〈若きポーランド〉が生み出した作品群を包括的にご紹介します。ポーランドの芸術家たちに焦点を当てる、日本初の展覧会となっています。
また本展は、クラクフ国立博物館の全面協力のもと実現しました。クラクフ国立博物館を筆頭に、複数の国立博物館や多くの個人所蔵家から招引した、マテイコと〈若きポーランド〉による絵画、版画、工芸品など、約130点を展示します。出品される作品の9割は日本初公開。この貴重な機会に、時代の転換期に花開いたポーランド美術の真髄を、ぜひご覧ください。
〈若きポーランド〉と浮世絵
ユリアン・ファワト《冬景色》1915年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵
〈若きポーランド〉の自然表現には、象徴主義的傾向が色濃く見られます。自然は常に、人間の精神状態と深く結び付き、その日の気分によって解釈・描写されました。写実的に思われる風景描写ですが、当時好まれたモチーフを選び、画家本人の感情を盛り込むことで、「魂の情景」を写し出しています。
このような表現の背景には、浮世絵の存在があります。例えば、《冬景色》で知られるユリアン・ファワトは、特に風景画を得意とし、日本や中国への旅行を通じて東洋芸術を学びました。雪景色は彼が好んで描いたモチーフであり、歌川広重の浮世絵からの影響も見られます。絵の大部分を占める白い雪には、太陽光の反射が巧みに表現され、自然に対する鋭い観察眼を感じられます。
ほかにも、スタニスワフ・ヴィスピャンスキ《夜明けのプランティ公園》は、古都クラクフの象徴だったヴァヴェル城を儚げに描いた作品です。ポーランドのロマン派詩人、クラシンスキの詩『夜明け前』に霊感を得たといわれています。木々の枝越しに王宮の遠景を見せる構図には、浮世絵の特徴である「すだれ効果」が認められます。
時代と真摯に向き合った作品から見えるもの
母国の自由や独立を語れなかった時代に、人々の願いを代弁したマテイコと〈若きポーランド〉。過去を想い、未来を憂う姿は、わたしたちになにを訴えかけるのでしょうか?
また本展では、音声ガイドを声優の岡本信彦さんが担当。〈若きポーランド〉が残した作品群と文化の流れ、その奥深い歴史を分かりやすくご紹介します。詳細は公式サイトをご確認ください。
『〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩1890-1918』展覧会情報
京都国立近代美術館
会期:2025年3月25日(火)~6月29日(日)
開館時間:
午前10時~午後6時
金曜日は午後8時まで開館
*入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、5月5日は開館)
観覧料:
一般:2,000円(1,800円)
大学生:1,100円(900円)
高校生:600円(400円)
※()内は前売と20名以上の団体
※中学生以下は無料*。
※心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
※ひとり親家庭の世帯員の方は無料*。
*入館の際に証明できるものをご提示ください。
※本料金でコレクション展もご覧いただけます。
公式サイト
『〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩1890-1918』
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ライター。若手社会人応援メディアや演劇紹介メディアを中心に活動中。ぬいぐるみと本をこよなく愛しています。アート作品では特に、クロード・モネ《桃の入った瓶》がお気に入りです。

