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EVENT

2025.3.17

『春の江戸絵画まつり 司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵』が開催!江戸時代後期に活躍した二人の洋風画家とは?

春到来!今年も府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」の季節がやって来ました。毎回趣向を変え、魅力あふれる江戸絵画を紹介する企画として知られ、いつも多くの美術ファンの人気を集めています。

亜欧堂田善《墨堤観桜図》 (前期・後期)亜欧堂田善《墨堤観桜図》 (前期・後期)

今回は題して『司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵』。江戸後期(18世紀半ば〜19世紀初頭)に油絵や銅版画を手がけた司馬江漢(1747〜1818年)と亜欧堂田善(1748〜1822年)の二人の画家に注目します。

司馬江漢とは?30代にして洋風画家への道へ。

司馬江漢《猫と蝶図》 府中市美術館(前期)司馬江漢《猫と蝶図》 府中市美術館(前期)

まず司馬江漢(しばこうかん)とはどのような人物だったのでしょうか?江戸の四谷に生まれた江漢は、10代の末に鈴木春信の弟子となり、最初は浮世絵師としてデビュー。20代の後半で宋紫石に中国風の花鳥画を学ぶと、平賀源内や洋風画を描いていた小野田直武と出会い、西洋画に興味を覚えます。

30代にして洋風画家になろうと決意した江漢は、1788年、42歳にして長崎へと旅行します。そして旅先で見た景色などを油彩画や淡彩画で描きつつ、銅版による世界地図を制作しました。

司馬江漢《円窓唐美人図》 府中市美術館(前期・後期)司馬江漢《円窓唐美人図》 府中市美術館(前期・後期)

1807年、61歳で引退を告知する書画会を催すと、銅版画を制作することはなく、油彩画もほとんど描きませんでした。

しかしそれでも言葉と絵で人生訓を示す新しいタイプの絵を手がけたり、思想書や随筆の本を著したりします。そして1818年、71歳(あるいは72歳)にて亡くなりました。代表作に《七里ヶ浜図》や《異国風景人物図》などが知られています。

松平定信に取り立てられる。50歳にして初めて銅版画を制作した亜欧堂田善。

亜欧堂田善《驪山比翼塚》(銅版画見本帖のうち) 重要文化財 須賀川市立博物館(後期)亜欧堂田善《驪山比翼塚》(銅版画見本帖のうち) 重要文化財 須賀川市立博物館(後期)

一方の亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)は、白河藩領の須賀川(現在の福島県白河市)の農具商の家に生まれました。幼くして父を亡くした後は、兄の営んでいた染め物業を手伝いました。画業にも携わっていたとされていますが、1791年に兄が亡くなると、44歳にして家業を継ぎます。

すると1794年、藩主の松平定信により、おそらく技術者として取り立てられ、谷文晁に入門。50歳にして初めて銅版画の制作に成功しました。つまり画家としてはかなりの遅咲きともいえます。

亜欧堂田善《両国図》 重要美術品 秋田市立千秋美術館(前期・後期)亜欧堂田善《両国図》 重要美術品 秋田市立千秋美術館(前期・後期)

その後、田善は極めて緻密な銅版画や、西洋風を取り込みつつも、独自のユニークな視点で風景を捉えた油彩画を次々と制作します。そして1822年、75歳にて生涯を閉じました。代表作として《浅間山図屛風》や《両国図》をあげることができます。

二人の描いた江戸後期の油絵の特徴と魅力とは…?

司馬江漢《皮工図》 府中市美術館(前期)司馬江漢《皮工図》 府中市美術館(前期)

司馬江漢と亜欧堂田善。二人の描いた油絵は、現代の人々がよく知る油絵とは大きく異なります。荏胡麻(えごま)の油などを使い、自ら調合した絵具で、日本で古くから使われてきた薄くて繊細な絵絹(えぎぬ)で描いているのです。よって滑らかでさらりとして、明朗かつ落ち着きのある色をしています。

きっぱりとした水平線の上に広い青空が広がる江漢の風景画、また遠近法を用いて果てしなく景色が続く様子を描いた田善の作品。どちらにも西洋の画法への興味がストレートに表れていて、西洋や明治時代以降の重厚で複雑な油絵とは異なる魅力を持っています。西洋風とも日本風とも言えない、和洋折衷の不思議な雰囲気が醸し出されているのも特徴といえるでしょう。

亜欧堂田善《海浜アイヌ図》 (前期・後期)亜欧堂田善《海浜アイヌ図》 (前期・後期)

近代以降は「稚拙な段階の西洋画」というレッテルを貼られてしまった二人の作品ながらも、現在の人々が感じるような心地良さや、「きれい!」という感激こそが、江戸時代の人々が味わっていた趣に近いのかもしれません。

江漢と田善の油絵や銅版画、また墨による作品も公開!

司馬江漢《捕鯨図》 土浦市指定文化財 土浦市立博物館(前期・後期)司馬江漢《捕鯨図》 土浦市指定文化財 土浦市立博物館(前期・後期)

本展では、江漢と田善の油絵だけでなく、銅版画や、墨や在来の絵具を使った作品も紹介します。そして科学者であり文人でもあった江漢と、白河藩主松平定信のもとで黙々と技術を極めた田善という、二人の生き方の違いが、どのように作品に表れているかも大きな見どころです。

これまでにも府中市美術館の様々な展覧会で二人の油絵を紹介した時、作品を見た人からよく聞こえてきたのが、「かっこいい」という言葉だったそうです。

亜欧堂田善《七里ヶ浜人物図》 (前期・後期)亜欧堂田善《七里ヶ浜人物図》 (前期・後期)

江戸絵画ブームとも言われる昨今ながらも、江漢や田善を大々的に取り上げる展覧会は少なく、特に江漢の展覧会は、2001年に同館で開催されてから一度もありませんでした。
「空と海の画家」とも呼ばれる江漢と、「緑の画家」とも称される田善の作品の魅力を、府中市美術館の『春の江戸絵画まつり』にて味わってみてください。

※参考文献:『もっと知りたい司馬江漢と亜欧堂田善』 東京美術 著:金子信久

展覧会情報

『春の江戸絵画まつり 司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵』 府中市美術館
開催期間:2025年3月15日(土)~5月11日(日)
 前期:2025年3月15日(土)~2025年4月13日(日)
 後期:2025年4月15日(火)~2025年5月11日(日)
 ※作品の大幅な展示替えを行います。
所在地:東京都府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
アクセス:京王線東府中駅北口より徒歩17分。京王線東府中駅北口よりバス「ちゅうバス」(府中駅行き)にて「府中市美術館」下車すぐ。
開館時間:10:00~17:00
 ※入場は16:30まで
休館日:月曜日
観覧料:一般800(640)円、大学・高校生400(320)円、小・中学生200(160)円。
 ※( )内は20名以上の団体料金。
美術館HP:『春の江戸絵画まつり 司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵』

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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