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2025.4.4
福田美術館・嵯峨嵐山文華館『京都の巨匠・木島櫻谷 画三昧の生涯』再評価が進む「忘れられた画家」大回顧展
木島櫻谷(このしま おうこく、1877-1938)は「文展の寵児」と呼ばれるほど画名を世に轟かせたにもかかわらず、長らく忘れられていた画家であり、近年再評価が進んでいます。
動物画や歴史画など、幅広いジャンルに挑んだ櫻谷の絵画の特徴は、写生に基づくリアリティです。西洋絵画の表現も取り入れ、独自の画境を切り拓きましたが、しばしば賛否両論にさらされる羽目に。当の櫻谷は他者との関わりをあまり好まず、もの静かで穏やかな性格だったとか。
木島櫻谷《駅路之春》(右隻)大正2年(1913)(福田美術館蔵)5/11〜7/6展示
櫻谷を回顧する大規模な展覧会『京都の巨匠・木島櫻谷 画三昧の生涯』が、福田美術館と嵯峨嵐山文華館の2館共催で開催されます。会期は4月26日(土)〜7月6日(日)です。両館では2021年に「木島櫻谷展」を開催して以来、約3年半ぶりの回顧展となります。
本展には、約100年以上の間行方不明だった《嵐山清流》をはじめ、画業を代表する名品が揃い踏み。遺品の展示などもあり、櫻谷の画業のみならず人となりにまで光を当てた展覧会となりそうです。
見どころ①100年以上も行方不明だった《嵐山清流》
木島櫻谷《和楽》(左隻)明治42年(1909)(京都市美術館蔵)
明治10年(1877)、京都の三条室町に生まれた木島櫻谷は、16歳から今尾景年に師事。円山応挙の流れを汲む師匠のもとで学び、徹底した写生に基づいた作品を打ち出し、若くして才覚を発揮しました。
木島櫻谷《剣の舞》 明治34年(1901)(公益財団法人櫻谷文庫蔵)通期展示
漢詩にも精通していた櫻谷は、歴史画を得意とする菊池容斎に私淑*。洋画家の浅井忠とも交流して、芸術への造詣を深めます。
*私淑=直接教えを受けたわけではないが、著作などを通じて傾倒して師と仰ぐこと。
明治40年(1907)に始まった文部省美術展覧会(文展)で、櫻谷は6年連続の上位入賞という快挙を達成。動物画、歴史画、風俗画など多岐にわたる画題で、高く評価されました。
木島櫻谷《嵐山清流》(左隻)明治41年(1908)頃(福田美術館蔵)通期展示
櫻谷が残した幅広いジャンルの絵画を楽しめる本展で、特に注目したいのが《嵐山清流》です。岸竹堂(きし・ちくどう)との共作である本作は100年以上もの間、行方不明でした。福田美術館に新たに収蔵され、満を持しての公開となります。
見どころ②《寒月》《駅路之春》など名画の数々
第6回文展に出品された《寒月》も見逃せません。櫻谷の代表作として知られる本作には、全体として日本画らしい印象を受けるものの、油絵風に絵の具を盛り上げる工夫も見られます。伝統を受け継ぎつつ、西洋美術からも影響を受け、独自の画風を打ち出した櫻谷の名作です。
ちなみに発表当時、夏目漱石が朝日新聞に寄せた記事の中で、本作を酷評したこともよく知られています。櫻谷からの反論は無かったそうで、画家の本心は想像することしかできませんね……。
皆さんは、《寒月》にどんな感想を持ちますでしょうか? ぜひ会場でご覧くださいね。
※《寒月》展示は4月26日(土)〜5月10日(土)
木島櫻谷《細雨・落葉》(右隻)明治38年(1905)(福田美術館蔵)前期:福田美術館/後期:嵯峨嵐山文華館展示
他にも、櫻谷の若き日の意欲作《細雨・落葉》や、第7回文展の出品作《駅路之春》をはじめ、数々の名品が展示されます。文展で活躍した時期の作品を含め、晩年期までの多彩な作品を通して、櫻谷の芸術に触れられます。
見どころ③絵に人生を捧げた櫻谷の人となり
木島櫻谷《画三昧》 昭和6年(1931)(公益財団法人櫻谷文庫蔵)通期展示
京都を代表する画家として期待された櫻谷ですが、他人との関わりをあまり好まない、もの静かな人物だったようです。大正2年(1913)には、閑静で自然あふれる衣笠へ移住。絵を描くかたわら、読書に没頭する隠居生活を送りました。
一方で、帝展の審査員を務めることもありました。依頼されれば、海外の展覧会にも出品します。世間との関わりを完全に絶ったわけではありませんでした。
櫻谷が移住してから、衣笠には菊池芳文・契月父子やその塾生たち、土田麦僊、村上華岳、小野竹喬をはじめとする国画創作協会の若手画家などが集うように。衣笠は「絵描き村」と呼ばれるようになりました。本展では、衣笠で活動した画家たちの作品も紹介されます。
木島櫻谷所用 帽子・トランク・時刻表・矢立(公益財団法人櫻谷文庫蔵)通期展示
さらに、櫻谷の人となりが偲ばれる書や、愛用の帽子やトランクなどの遺品も公開。昭和13年(1938)に電車事故で亡くなるまで、人生をかけて絵を究めた櫻谷の生涯を通覧できる回顧展となりそうです。
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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