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2026.8.5

読者プレゼント実施中【取材レポート】挿絵やファッションから物語と出会い直す「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」【千葉市美術館】

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時代や地域を超えて語り継がれてきた「おとぎ話」。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」など、今なお人々に愛されている物語を、挿絵や装飾、舞台芸術、ファッションから読み解く展覧会が、千葉市美術館で開催中です。

「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」では、17世紀フランスの宮廷サロン文化から始まり、人々の間で語り継がれてきた物語が視覚的な芸術へと発展していく様子を、6つの章で紹介しています。

今回、展覧会を担当する同館学芸員の山下彩華さんに、見どころやおとぎ話の魅力について伺いました。

時代のモードを映し出す挿絵とファッションの関係や、舞台芸術へと広がったおとぎ話の多彩な表現を、展覧会レポートとともにお届けします。

挿絵から感じる時代のモード—女性をエンパワーメントするファッション

絵:ウォルター・クレイン『シンデレラ』(「ラウトリッジ社の新6ペンス・トイ・ブックス」No.106)絵:ウォルター・クレイン『シンデレラ』(「ラウトリッジ社の新6ペンス・トイ・ブックス」No.106)、1873年、鶴見大学図書館

「ファッションの様式や美意識としての『モード』からおとぎ話を見つめ直すのは、本展ならではの新しい試みです」と話す山下さん。

挿絵に描かれた人物が身につけている衣装は、画家オリジナルのデザインに限らず、同時代の流行や芸術のスタイルが反映されているものがあります。

たとえば、19世紀後半に活躍したウォルター・クレイン(1845〜1915)の『シンデレラ』で、主人公は当時のモードだったバッスル・スタイル(※1)のドレス(上の画像)をまとっています。

クレインが、ファッションの流行を観察し、童話の世界に巧みに取り入れたことがうかがえる作品です。

《ローブ・ア・ラ・フランセーズ》《ローブ・ア・ラ・フランセーズ》1775年頃 神戸ファッション美術館蔵

また、18世紀ロココ時代のヨーロッパで人気を集めた宮廷服は、多くの人が思い描く「お姫様像」を体現したようなデザインです。

《ローブ・ア・ラ・フランセーズ》は、パニエによって横に大きく広がったスカートや、レースなどを使った豪華な装飾が特徴です。

当時、上流階級の女性が着用した典型的な装いであり、「シンデレラ」をはじめ、童話や舞台作品で「王侯貴族の女性像」を象徴するファッションとしても、広く認識されています。

クリスチャン・ディオール《イヴニング・ドレス》1952年春夏クリスチャン・ディオール《イヴニング・ドレス》1952年春夏 文化学園ファッションリソースセンター蔵 撮影:安田如水(文化出版局)

また、『シンデレラ』に関連する作品として、クリスチャン・ディオールの《イヴニング・ドレス》が展示されています。

「シンデレラ」は、貧しい娘が、たまたま幸運をつかんだサクセスストーリーと見られがちです。しかし、物語の本質は、外的要因によって不幸な立場に追いやられた高貴な女性が、自身の尊厳や社会的地位を取り戻すところにあるといいます。

「本展では、この物語を、ドレスという装いが、主人公をエンパワーする様子を描いていると読み解きました。ディオールのドレスが戦後の女性たちを勇気づけたことと『シンデレラ』のストーリーは、重なる部分があると思います」

挿絵に描かれた衣装を通して、ファッションは美しく飾るだけでなく、身にまとう人の内なる力を引き出すものだと実感できる展示です。

(※1)スカートの下にバッスルと呼ばれる骨組み状の補助具を用いて、ヒップラインに独特のボリュームをつくり出すドレスのスタイル。

人々の語りから視覚的な芸術に発展—挿絵や舞台芸術とモードのつながり

「ふたりのお姫さま」展示風景。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」のバレエの衣装や公演の写真を見ることができます第4部「ふたりのお姫さま」展示風景。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」のバレエの衣装や公演の写真を見ることができます。

おとぎ話は、もともと民衆の娯楽で、ストーリーテラーが口で語り、それを人々が聞くことで、各地に広まっていきました。(※2)やがて、17世紀に入ると、貴族階級の人々が知識や教養を共有する宮廷サロンの文化が、フランスで花開きます。

サロンの中心となったのは女性たちで、貴婦人の間でおとぎ話を語り、それをもとに物語を創作することが、ひとつの流行として定着しました。たとえば、ヴィルヌーヴ夫人の『美女と野獣』(※3)も、サロン文化から生まれた作品のひとつです。

「口承から文字によって伝えられるものへと変化していく過程で、彼女たちの身振りや華やかなファッションが、おとぎ話とモードをつなぐ重要な役割を果たしただろうと考えています」と山下さん。

再話:アーサー・クィラー=クーチ、絵:エドマンド・デュラック「眠れる森の美女」再話:アーサー・クィラー=クーチ、絵:エドマンド・デュラック「眠れる森の美女」(「眠れる森の美女とその他のおとぎ話」より)(1910年初版)明治学院大学図書館蔵

古い起源と多数の類話をもつ「シンデレラ」と「眠れる森の美女」は、絵画やバレエなど、幅広い表現方法でくり返し描かれ、モードを視覚化するアイコンとして親しまれてきました。

糸を紡ぐ行為がファッションの源流につながり、後世の視覚表現のなかで華やかな装いと結びつけられている点が、「眠れる森の美女」の注目ポイントです。

20世紀初頭に活躍したエドマンド・デュラック(1882〜1953)は、豊かな色彩と写実的な表現で、「眠れる森の美女」の世界を表現しました(上の画像)。眠り姫の煌びやかな装いが、サロンの女性たちのファッションを思わせます。

おとぎ話のモードは、挿絵にとどまらず、やがて舞台芸術の世界にも広がっていきます。

デュラックと同時代に注目されたのが、パリを中心にヨーロッパで一世を風靡したバレエ団「バレエ・リュス」です。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」を再解釈した、前衛的な作品が話題を呼びました。

『レオン・バクストの「眠り姫」—ペローの童話に基づく5幕のバレエ』『レオン・バクストの「眠り姫」—ペローの童話に基づく5幕のバレエ』1922年 明治学院大学図書館蔵

「画家のレオン・バクスト(1866〜1924)が衣装や舞台美術をデザインした 『眠り姫』(1921年初演)は、おとぎ話が紙面に限らず、立体的な舞台芸術に発展した好例だといえます」

また、同じくバクストが衣装と舞台美術を手がけた「シェヘラザード」(※4)では、そのデザインが現実のモード界にも取り入れられました。

異国趣味を取り入れたバクストの表現が、ヨーロッパにオリエンタリズムの熱気を再び呼び起こし、舞台芸術とファッションの双方に大きな影響を与えました。

絵:ジョルジュ・バルビエ 左:「移り気な鳥」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』 右:「シェヘラザード」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』絵:ジョルジュ・バルビエ 左:「移り気な鳥」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』1914年(Pl.4) 右:「シェヘラザード」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』1914年(Pl.9) 1914年、神戸ファッション美術館 フランスのイラストレーター、バルビエ(1882〜1932)が手がけたモード挿絵から、当時の流行である異国趣味の雰囲気を感じることができます。

(※2)高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年、p.2

(※3)現在よく知られている筋書きは、1756年にボーモン夫人が記した版です。1740年にヴィルヌーヴ夫人が創作した作品をもとに、子どもに聞かせる物語として書き直したのが、ボーモン夫人の『美女と野獣』です。

(※4)シェヘラザードは、9世紀頃に成立した物語集『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』に登場する語り手。18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパで東洋への関心が高まり、オリエンタリズムと呼ばれる東洋表象の潮流が形成されますが、その源泉のひとつとなったのが『千夜一夜物語』でした。

あらゆる境界を越えるおとぎ話の魅力—現実と幻想を行き来する表現

絵:ウォルター・クレイン「美女と野獣」絵:ウォルター・クレイン「美女と野獣」(『ウォルター・クレインの絵本 ラージ・シリーズ第2巻』より)、鶴見大学図書館

装いに注目してさまざまな芸術表現をたどってきましたが、展覧会の締めくくりとなるキーワードは「おとぎ話の想像力」です。

「おとぎ話では、人間と動物が結婚したり、妖精と会話できたりといった、現実にはあり得ないことが、当たり前のように展開していきます。登場人物が、あらゆる境界を軽やかに越えていくところが、物語の魅力だと感じます」と山下さん。

これまでにご紹介した挿絵や舞台芸術に限らず、19〜20世紀の美術表現においても、おとぎ話に着想を得て、想像力を豊かに広げた作品が誕生しています。

訳:ヴァーノン・スタンリー・ジョーンズ、絵:アーサー・ラッカム『イソップ物語』訳:ヴァーノン・スタンリー・ジョーンズ、絵:アーサー・ラッカム『イソップ物語』1912年、青山学院大学図書館 運命によって、愛猫を人間の女性へと変身させ、妻として迎えた男性の物語。ネズミが登場したことをきっかけに、猫としての本能があらわになる瞬間が描写されています。

たとえば、19世紀末の「挿絵の黄金時代」を築いた作家のひとり、アーサー・ラッカム(1867〜1939)は、『イソップ物語』を題材に、人間に変身した動物の姿を、躍動感あふれる表現でリアルに描き出しました。

1920年代のフランスで生まれた、夢や無意識の世界を表現するシュルレアリスムの作家のなかにも、おとぎ話の想像力を活かした作品を見つけることができます。

シュルレアリスムを代表する画家、マックス・エルンスト(1891〜1976)は、19世紀の挿絵や科学図版を切り抜いて再構成し、短いキャプションを添えたコラージュ小説を制作しました。

異質なイメージを組み合わせ、新たな物語を立ち上げる表現には、おとぎ話にも通じる想像力が感じられます。

岡上淑子《水族館》岡上淑子《水族館》1952年 栃木県立美術館蔵 © OKANOUE Toshiko「水族館」

美術評論家の瀧口修造を通じて、エルンストの作品にふれた岡上淑子(1928〜)は、海外のグラフ誌やファッション誌を切り抜いたコラージュを制作しました。

主に女性の身体や装いをモチーフに、モードの空気感を取り入れ、現実と幻想のはざまを捉えた独自の世界を表現した作品です。

この展覧会では、古くから愛されてきた物語の想像力が、19〜20世紀のモードや現代的な表現へと受け継がれていく過程をたどることができます。

さまざまな境界を越えながら、時代ごとのモードを映し出してきたおとぎ話。6つの章をめぐると、私たちが親しんできた物語のエッセンスが、現代にも息づいていることを体感できるでしょう。

よく知っている物語と出会い直す展覧会

グリム童話「ラプンツェル」の展示風景。金色の長い髪をイメージした演出で、訪れた人をおとぎ話の世界に誘います。グリム童話「ラプンツェル」の展示風景。金色の長い髪をイメージした演出で、訪れた人をおとぎ話の世界に誘います。

モードやファッションという切り口から見つめ直してみると、よく知っているストーリーにも新たな発見があるはずです。時代によって変化してきた装いや、挿絵から舞台芸術に至るまでの幅広い表現にふれて、もう一度おとぎ話に出会ってみませんか?

「なぞとき!日本の物語絵」展示風景「なぞとき!日本の物語絵」展示風景

千葉市美術館では、関連企画として、「なぞとき!日本の物語絵」が開催中です。日本に伝わるお話を、クイズで楽しみながらひも解いていく展覧会です。
「装いの力」や「境界を越える」というキーワードを思い出しながら鑑賞すると、異なる地域の物語にも、思いがけない共通点を発見できるかもしれません。

この夏、千葉市美術館で、おとぎ話から広がる多彩な文化と芸術を味わってみてくださいね。

取材協力:千葉市美術館 学芸員 山下彩華様、同館 広報 磯野愛様

展覧会情報

展覧会名:「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」
会期:2026年6月27日(土)〜8月30日(日)
会場:千葉市美術館
開館時間:10:00 – 18:00 (金・土曜日は、20:00まで)
※入場受付は閉館の30分前まで
休館日:毎月第1・3月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)、メンテナンス日
※企画展は月曜日休室(祝日の場合は翌平日)です。
※上記の休館日以外にも、展示替え等のため各展示室が閉室となる場合がございます。
展覧会スケジュール等をご確認のうえご来場ください。≫カレンダー
美術館公式サイト:千葉市美術館

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締切は2026年8月7日(金)まで。
詳しくは下記のURLをご確認ください。
たくさんのご応募をお待ちしております。

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https://irohani.art/present/45589/

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浜田夏実

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

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