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STUDY

2026.2.23

【ふしぎ可愛い】安野光雅の絵本代表作3選!「考える力」と人々へのまなざし

親子で楽しめるアートスポット「PLAY! Museum」で、「生誕100周年記念 安野光雅展」が、2026年3月4日(水)〜 5月10日(日)まで開催されます。

安野光雅(あんの みつまさ)氏は、日本を代表する絵本作家です。

視覚のふしぎを取り入れたユニークな作品や、旅人が各国をめぐりさまざまな文化に出会う絵本シリーズなど——その名作の数々は、国内外で高い評価を受けています。

およそ50年にわたる創作活動のなかで、何冊もの絵本を手がけた安野氏。多くの作品に共通するのは、「人任せにせず、自分で思考する大切さ」という一貫したメッセージです。

この記事では、本展に出品される代表作を3つピックアップし、安野氏の絵本の魅力と作品の背景にあるテーマをひも解きます。

安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.26, 27安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.26, 27

安野光雅①『さかさま』—だまし絵の世界で自分の考え方を見つけよう

安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年(画像提供:福音館書店)安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年(画像提供:福音館書店)

まずご紹介するのは、安野氏のデビュー作『ふしぎなえ』に続いて、視覚のトリックを使って描かれた作品『さかさま』です。

一作目の『ふしぎなえ』は、錯覚を用いた版画の巨匠・エッシャー(※1)からインスピレーションを受けて、だまし絵だけでつくられた文字のない絵本です。本作はたちまち人気となり、国内外で数多くの賞を受賞しました。

安野氏のデビュー作『ふしぎなえ』 (安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店、1968年、画像提供:福音館書店)安野氏のデビュー作『ふしぎなえ』 (安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店、1968年、画像提供:福音館書店)

二作目の『さかさま』も、視覚のふしぎに注目していますが、前作との大きな違いは、ストーリーが書かれている点です。

安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年、p.10, 11安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年、p.10, 11

読者は、ジョーカーたちにいざなわれ、トランプの国へと入り込みます。しかし、この国では、トランプの兵隊たちがお互いを「さかさまだ」と言い合い、何百年もけんかを続けていました。

どちらが上か下か分からないトランプの特性に注目した、オリジナリティあふれる物語です。

上の画像を見ると、階段の上にいるキャラクターがまっすぐ立っていて、下側は逆になっているように思えます。ところが、絵本をさかさまにすると、階下の人々も地面にしっかりと立っているのです。

安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年、p.16, 17安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年、p.16, 17

正確に計算されただまし絵と、水彩絵の具で写実的に描かれた風景を眺めるうちに、ファンタジーが現実味を帯び、どちらが正しいのかあいまいになってきます。

ついに、お城の王様も巻き込んで「だんへ だんへ(変だ 変だ)」と言い争うトランプの兵隊たち。果たして決着はつくのでしょうか?

安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年、p.24, 25安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、1969年、p.24, 25

上のページで印象的なのは、上下に分かれた人々の容姿や仕草が、よく似ていることです。ストーリーの中盤までは、両者の違いに目が留まりますが、終わりに差しかかるほど、「実は共通点が多いのではないか」と気がつきます。

「なぜ同じ世界の住人なのに争っているのだろう」と疑問が浮かんでくるかもしれません。

語り手のジョーカーは、物語の最後に、「さて みなさん どちらが さかさまでしたか?」と問いかけます。自分たちと違うという理由で争う兵隊たちの姿が、現代を生きる私たちを映し出しているようにも感じられるでしょう。

安野氏は、アトリエの取材で、「子どもたちに、もっと、たくさん本を読んでほしいんだ」と話しています。

「テレビで言っていたから」など、判断を人任せにするのではなく、自分で考えるくせをつけて、世の中にいろいろな考え方があることを知ってほしいと語ります。(※2)

『さかさま』は、おかしなキャラクターと面白いしかけを入り口に、自ら思考する大切さを教えてくれる作品です。

(※1)マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898〜1972)は、オランダ出身の版画家。卓越した技術で、だまし絵や不可能図形を題材にした作品を制作しました。版画の表現にこだわり続け、生涯で400点以上の作品を残しています。
(※2)引用・参考:福音館書店 母の友編集部『絵本作家のアトリエ 2』福音館書店、2013年、p.144

安野光雅②『旅の絵本』—よく観察して無限大の物語に出会ってみよう

安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年(画像提供:福音館書店)安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年(画像提供:福音館書店)

ひとりの旅人が世界各地を訪れ、その土地の文化や暮らしに出会う様子を描いたシリーズ『旅の絵本』。

上空から景色を見下ろす視点が特徴的で、目をこらすと、ひとつの場面でいくつものエピソードが展開されていることが分かります。文字のない作品で、じっくりと風景を味わえるのが魅力です。

今回は、展覧会ですべての原画が公開される『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』をピックアップしてご紹介します。

安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年、p.10,11安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年、p.10,11

上のページは、のどかな村と青々とした草原が広がる、どこか懐かしさのある風景です。全体をパッと見て楽しむこともできますが、実は見どころがいくつもあります。

たとえば、右上にはイギリスの世界遺産ストーンヘンジがのぞいています。視線を中央の下のほうに落とすと、灰色の服を着た3人の人物がいます。彼らが身につけているのは、ウェールズ地方の民族衣装です。

3人の前に腰かけてお菓子を売るおばあさんと、右の川付近で豚に乗る少年は、『マザーグース』というイギリスの伝統的な子どもの歌の本に登場する人物です。

この見開きだけでも、イギリスの文化が多彩に表現されていると伝わってきます。

安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年、p.20, 21安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年、p.20, 21

さらに、風景のあちこちに、作者の遊び心があふれています。賑やかな家畜の品評会のシーンには、なんと安野氏が手がけた『ABCの本』を見ている子どもが。どこにいるか見つけられるでしょうか?

ぜひ本書を手に取って、探してみてくださいね。

ほかにも、隠し絵やだまし絵が描き込まれたシリーズもあり、安野氏の絵本表現の集大成とも評されています。

安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年、p.26, 27安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、1981年、p.26, 27

安野氏がヨーロッパへ向かう旅で、着陸間際の飛行機から眺めた景色に着想を得て生まれた本作。

彼は、自伝のなかで、「わたしたちは西洋と東洋のちがいばかり目が行くが、よく考えてみると、違うところよりも同じことのほうが多い」と気づきを綴っています。

また、それぞれの国やそこで生活する住人によって、異なる毎日を送っていると感じたことから、「一千もの人々の暮らしが詰まった『旅の絵本』を描きたいとおもった」と語っています。(※3)

全体を一望したり、じっくり時間をかけて観察したりと、さまざまな楽しみ方ができる『旅の絵本』。開くたびに発見があり、読者が新たに物語をつくることもできます。ゆっくりと観察して、無限大のストーリーに出会ってみてくださいね。

(※3)引用・参考:安野光雅『絵のある自伝』文藝春秋、2021年、pp.190-191

安野光雅③『天動説の絵本』—惑星の動きをめぐる歴史をたどってみよう

安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年(画像提供:福音館書店)安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年(画像提供:福音館書店)

地球を含めて、すべての惑星が太陽の周りを回っているという考え方である地動説は、今では常識となっています。ところが、15世紀半ばまでのヨーロッパでは、異端とみなされ、受け入れられるまでに長い年月がかかりました。

「地球ではなく、天体が動いている」と信じていた人々が、世界をどのようにとらえ、地動説をめぐってどんな歴史をたどったのか。その過程を丁寧に描き出したのが、『天動説の絵本』です。

安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.10,11安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.10,11

かつての人々は、太陽や月が貼りついた丸天井が地球を覆っていて、天井が回ることで惑星の位置が変わると考えていました。

また、地の果てまで歩いていくと、海に出るとは分かっていましたが、その向こうは絶壁で、海水が滝のように流れ落ちていると思っていたそうです。

この絵本の特徴は、水平線が平らだったところから、ページをめくるごとにだんだんと丸みを帯びてくる点です。当時の暮らしを描くだけでなく、彼らの考え方までも風景で表現しているといえます。

安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.26, 27安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.26, 27

長い間、天が動いていると信じられていましたが、1543年に、ポーランドの学者コペルニクスが『天体の回転について』という本を執筆したことで、歴史が大きく動きます。

コペルニクスは、「地めんはまるい。そして、天の星が動くのではなくて、わたしたちの立っている地めんのほうが動くとかんがえたほうがいい」と地動説を主張しました。(※4)

このページを境に、水平線だけでなく、地面そのものが球体に変わっていきます。15〜17世紀の大航海時代には、船乗りたちの間で「地面は丸いのではないか」と噂され、各地でも新しい考え方が話題になったことがうかがえます。

しかしながら、これまでと正反対の考え方である地動説は、容易には受け入れられず、支持した人々が裁判にかけられたり、刑に処せられたりと、痛ましい出来事が起こりました。

安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.34, 35安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.34, 35

コペルニクスが地動説を主張してからおよそ300年も経過した1851年、フランスの物理学者フーコーが、有名な振り子の実験を行います。(※5)

上のページでは、重量のあるおもりをつけた巨大な振り子をゆらし、だれもさわっていないのに、少しずつ向きを変えて1回転する様子が描かれています。地球が1日に1回自転していると証明した瞬間です。

地動説が正しいと示されたことを表すように、地面は完全に球体になっています。

安野氏は、本当の意味で地動説が分かるとは、「天動説時代に人々はなにを考え、どのような暮らしをしていたかを理解することができるか」が肝心だと語ります。

また、真理に近づくためには、天動説は必要なプロセスで、当時の人々が誤っていたことを理由に、古い時代を馬鹿にするような考え方が少しでもあってはいけないとも話しています。(※6)

自ら考えるところから一歩進んで、いろいろな意見や立場を理解しようとする姿勢の大切さを伝えてくれる絵本です。

(※4)引用:安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、p.26
(※5)「フーコーの振り子」は、国立科学博物館で同じ装置を見ることができます。
(※6)安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、1979年、pp.46-47

安野光雅氏の絵本が伝える「考える力」

この記事では、「生誕100周年記念 安野光雅展」で展示される代表作3つをピックアップし、見どころと作品に込められたメッセージをたどってきました。

細やかに描き出された人々と風景が魅力の安野氏の絵本ワールド。その背景には、自分で考えることの大切さと、さまざまな価値観を理解する姿勢がありました。

本展では、原画約130点に加えて、絵を拡大したり、立体にして視点を変化させたりといった多彩なしかけを通して、安野氏のメッセージを体感できます。
お子さんと一緒に、ふしぎと発見に満ちた絵本の世界を、全身で味わってみてくださいね。

【展覧会情報】

「生誕100周年記念 安野光雅展」
会期:2026年3月4日(水)〜5月10日(日)*会期中無休
会場:PLAY! MUSEUM(東京・⽴川)
開館時間:10:00-17:00(土日祝は18:00まで/入場は閉館の30分前まで)
≫公式ホームページはこちら 「生誕100周年記念 安野光雅展」

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≫【五感】視覚で楽しむ絵本3選。目で感じる不思議に触れてみよう!
https://irohani.art/life/38661/


※本記事の画像は、各出版社に許諾を得た上で、提供いただいた画像およびスキャンデータを作成して掲載しています。

《参考文献》
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店、1968年
https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=164
安野光雅 作・絵『さかさま』福音館書店、2012年(初版:1969年)
https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=423
安野光雅 作『旅の絵本Ⅲ(イギリス編)』福音館書店、2011年(初版:1981年)
https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=434
安野光雅 作『天動説の絵本 てんがうごいていたころのはなし』福音館書店、2015年(初版:1979年)
https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=383
安野光雅『絵のある自伝』文藝春秋、2021年
今井良朗編・著『絵本とイラストレーション 見えることば、見えないことば』武蔵野美術大学出版局、2014年
絵本学会機関誌編集委員会『絵本BOOKEND 2018 通巻15号』絵本学会、2018年6月
福音館書店 母の友編集部『絵本作家のアトリエ 2』福音館書店、2013年


《参考サイト》
生誕100周年記念 安野光雅展(PLAY! MUSEUM)
https://play2020.jp/article/anno/
国立天文台 暦Wiki
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C3CFC6B0C0E2.html

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浜田夏実

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

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