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2026.9.3

【東京都美術館】「百花繚乱~海を越えた江戸絵画」展 取材レポート!大英博物館の至宝が里帰り

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イギリス・ロンドンにある最古のミュージアム、大英博物館。この大英博物館が誇る日本関連のコレクション4万点の中核をなすのは江戸時代の美術工芸品だ。

江戸時代、徳川政権のもと約260年にわたって日本は大規模な戦乱もなく、平和が続いた。その中で数多くの流派が興り、名作の数々が生まれた。

狩野宗眼重信《秋冬花鳥図襖》 17世紀初 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum


御用絵師として権力と結びつくことで画壇の中枢にあり続けた狩野派。写生を重んじる円山派や、斬新なデザイン感覚が特徴的な琳派。そして庶民を熱狂させた浮世絵。

こうして挙げていくだけでも、その多彩さには驚かされる。

今回は大英博物館のコレクションのうち選りすぐりの数百点が海を越えて里帰りし、7月25日から開幕した東京都美術館開館100周年記念の『大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画』展で公開されている。

その見どころを紹介しよう。


①狩野宗眼重信の襖絵、海を越えて約150年ぶりに集結!


日本美術について語る上で、欠かせない存在が狩野派だ。室町時代後半、八代将軍・義政に仕えた狩野正信を祖とする狩野派は、土佐派などの日本の伝統的な流派や中国絵画のエッセンスを取り入れたスタイルを作り上げ、時の権力者に仕えてきた。

江戸時代には上は将軍家の御用絵師から下は町絵師まで、狩野派の絵師は日本全国のあらゆる場所に存在し、文字通り画壇をリードする存在となっていた。

狩野派が得意としたのが、《秋冬花鳥図襖》に見られるような金碧障屛画である。


狩野宗眼重信《秋冬花鳥図襖》 17世紀初 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum


この作品は、もともとは奈良県多武峰にあった妙楽寺(明治期に談山神社となる)の学頭屋敷を飾っていた作品群の一つだ。

4枚の襖には、左から紅葉した楓の木とその下に佇む雁、白芙蓉、そして雪を抱いた檜と、秋から冬へと季節が移り変わる様が植物や鳥の存在を通して展開される。

注目したいのは襖の右端に描かれた鴨の泳ぐ池と椿の植わった浮島の存在だ。これらは、この4枚だけを見ていたなら、何気なく見過ごしてしまうかもしれない。

しかし、2023年、この《秋冬花鳥図襖》と柱を挟んで直角につながる作品の存在が明らかになった。

それが、青森県の旧家に所蔵されていた《春景花鳥図襖》であり、会場では、本来の姿を再現するように配置されている。


狩野宗眼重信《春景花鳥図襖》 17世紀初 個人蔵


(展示風景より)(筆者撮影)「大英博物館日本美術コレクション」展会場写真


少し距離をおいて見てみると、確かに《秋冬花鳥図襖》の右端の椿の枝ぶりと、《春景花鳥図襖》の左端から伸びる椿の枝ぶりは、互いに呼応しているように見える。

浮島もこうして見ると、入り組んだ岸辺の一部だったことがわかる。そしてそのまま《春景花鳥図襖》を右へと見ていくと、梅の枝と空に舞う鶯、そして精緻に描き込まれた雉と8羽の雛の頭上に満開の桜が枝を伸ばしている。

まさに新しい命の生まれる「春」そのものがここにある。雉と桜の組み合わせは、『藤原定家詠花鳥十二ヶ月和歌』の2月に詠まれた伝統的な組み合わせであり、8羽もの雛には多産への祈りが込められているとされる。

さらに展覧会ではこれらの襖絵の裏に本来あった作品《琴棋書画仙人図襖》(シアトル美術館所蔵)、《名所風俗図襖(三保松原・清見寺)》(個人蔵)が、明治時代当時の配置を再現する形で展示されている。


狩野宗眼重信《名所風俗図襖(三保松原・清見寺)》17世紀初 個人蔵


狩野宗眼重信《琴棋書画仙人図襖》17世紀初 シアトル美術館蔵(Eugene Fuller Memorial Collection, 51.37.1-4)Photo: Susan A. Cole


これらの襖絵は、妙楽寺が神仏分離令で廃された後、分割され、やがて日米英三国に分かれて所蔵されることとなった。

それが、約150年ぶりに一堂に会することは奇跡と言えよう。ぜひ、この機会に見ておきたい。


②狩野派だけじゃない!江戸時代に生まれた流派の数々


権力者と結びついた狩野派は江戸時代の画壇で圧倒的な存在感を誇っていた。

しかし、時代が進み、文化の担い手が広がるにつれ、狩野派とは異なる美意識や制作姿勢を持つ様々な流派や絵師も活躍し、絵画表現はいっそう多様化していった。例えば、俵屋宗達や本阿弥光悦に始まり、尾形光琳らへと受け継がれた琳派。


(展示風景より)伝尾形光琳《松島図屛風》 大英博物館蔵 18世紀(筆者撮影)


尾形光琳、あるいはその一門による制作と考えられているこの《松島図屛風》は、単純化された島の形や、金銀で大胆にデザイン化された波など、装飾的でモダンな琳派らしさを湛えている。

一方、こちらは京都画壇の源流の一つとなった円山派の祖・円山応挙による《虎の子渡し図屏風》だ。


円山応挙《虎の子渡し図屛風》 1781~1782年 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum


狩野派はじめ、多くの流派は師の絵手本(粉本)をもとに学習し、描くときにも参照していた。しかし、応挙に始まる円山派が基礎としたのは実物を見て描く「写生」だった。

この《虎の子渡し図屛風》は、母虎が子供を三匹産むと必ず一匹獰猛な子(彪)が混じっており、河を渡る際には、その子が他の子を傷つけないよう、往復を重ねるという中国の故事に基づいた作品だ。

日本には生息していない虎を描くにあたって、応挙が参考にしたのは猫だった。母虎の顔つきや、その母に首を咥えられてぶらりと四肢を垂らした仔虎の姿、そして向こう岸で待っている一匹が手持無沙汰そうに前足を舐めている姿など、まさに猫そのものだ。

現代の私たちから見ると、「本物の虎」には遠いかもしれない。しかし、親しみやすく、今にも動き出しそうにすら見え、毛並みの触感すら想像させられる。その印象は金地に墨の線で表された、パターン化された水流とのコントラストによって、より強められている。

この他にも、中国の知識人(アマチュア画家)たちによる絵画の影響を受け、のびのびとした画風を特徴とする文人画や、琳派の一人でありながら独自の画風を切り開いた鈴木其一など、第1章3節には、江戸時代中期以降に花開いた多種多様な絵画が集められている。

心惹かれる作品に出会ったら、まずは足を止めて、しばし向き合ってみたい。


③浮世絵~庶民が夢中になった絵の数々


江戸時代の絵画を語るうえで、浮世絵の存在は欠かせない。

遊女や評判の美人を描いた美人画や、人気役者の姿を手元で間近に見ることのできる役者絵。各地の名所を描き、ちょっとした旅行気分を味あわせてくれる名所絵。そして『水滸伝』のキャラクターや歴史上のヒーローを描き、江戸っ子たちの憧れを掻き立てた勇壮な「武者絵」。

このように江戸の庶民たちの「好き」や「憧れ」を体現し、手ごろな値段で買うことのできる浮世絵は、身近な娯楽だった。

今回の展覧会では、そんな浮世絵のスタンダードが一通りおさえられている。

例えば美人画なら、鈴木春信の華奢で微風にも耐えることの叶わなそうな儚げな美人。八頭身でどっしりとした存在感と健康美を備えた美人が並ぶ鳥居清長。そして人物をバストショットで取り上げる「大首絵」を採用することで、細かな内面をも描き出した喜多川歌麿と、時代ごとの好みの変化をたどれるようになっている。


鈴木春信《雪中相合傘》 1767年頃 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum


鳥居清長《飛鳥山の花見》 1787年頃 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum


喜多川歌麿《高島おひさ》 1792~1793年頃 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum


歌麿に至っては、春画や貴重な肉筆画なども展示されている。


(展示風景より)葛飾北斎《「万物絵本大全」版下絵》 1820~1849年頃 大英博物館蔵(筆者撮影)


葛飾北斎《『万物絵本大全』版下絵》 1820~1849年頃 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum葛飾北斎《『万物絵本大全』版下絵》 1820~1849年頃 大英博物館蔵 © The Trustees of the British Museum

(展示風景より)歌川広重 《写生帖(江戸および諸国の名所)》 左:1848年 右:1845~1850年 (筆者撮影)


だが、この展覧会で注目したいのは版画作品だけではない。未完に終わった葛飾北斎の『万物絵本大全』の版下絵や、歌川広重の写生帳など、目にすることなど想像もつかなかった物まである。よくぞこのようなものまで、と唸らずにはいられなかった。

ここまで展覧会を駆け足に紹介してきた。

狩野派、円山派、浮世絵など、個々の流派やジャンルに焦点を当てた展覧会はこれまでにも数多く開催されてきた。

しかし、この展覧会全体を見渡してみると、江戸時代の日本美術の多様性に驚かされる。まさに「百花繚乱」ほどふさわしい言葉はあるまい。

今回紹介できなかった作品のなかにも、見ておきたいものは数多くある。

ぜひ、会場に足を運んでみてほしい。


展覧会情報


◆「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画」

会期:2026年7月25日(土)~10月18日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、10月13日(火)
※ただし8月10日(月)、9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開室
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般 2,300円(2,100円)/ 大学生・専門学校生 1,300円(1,100円)/ 65歳以上 1,600円(1,400円)

展覧会公式サイト
大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画

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ヴェルデ

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アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。

アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。

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