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LIFE

2026.5.28

ファンタジックな『蛙の王さま』の世界をひも解く—挿絵から見えてくる人間と動物の関係

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動物が人間に求婚する一風変わった童話『蛙の王さま』。

ヨーロッパでは、書物や挿絵への関心が高まった19世紀以降、多くの画家がこの物語を描いてきました。美しい姫と醜い蛙の対比や、王子がもとの姿に戻るファンタジックなラストシーンが、彼らの心を惹きつけたのでしょう。

この記事では、ヨーロッパやアメリカで活躍した3人の画家の挿絵をピックアップし、『蛙の王さま』の魔法のような世界をご紹介します。

また、王子を蛙に変えた悪い魔女が、もともとのお話には登場していなかった点にフォーカスし、ストーリーの変化から見えてくる古い文化をひも解きます。

人間と動物が織りなす不思議なおとぎ話を入り口に、キリスト教が広まる以前のヨーロッパの風習にふれてみませんか?

姫と蛙の対比に注目!—3人の画家が描いた物語

グリム童話『蛙の王さま』に登場する末娘の姫は、姉妹のなかでも飛び抜けた美貌を持ち、「お日さまもおどろくほど美しい」(※1)といわれています。いっぽう、蛙はずんぐりした見た目で、姫から「みにくい」「きたならしい」と冷たくあしらわれます。

ちぐはぐなふたりを、画家たちはどのように表現したのでしょうか?

ここでは、19世紀〜20世紀初頭に活躍した、アン・アンダーソン、クララ・ミラー・バード、ジェラルドゥス・ヨハネス・ボスの作品を取り上げ、『蛙の王さま』がどのように描かれてきたのかをご紹介します。

(※1)引用:小澤俊夫監訳『語るためのグリム童話①ヘンゼルとグレーテル』小峰書店、2007年、p.7

①アン・アンダーソン—アール・ヌーヴォーの曲線美を取り入れた幻想的な表現

01_The_Frog_Prince_-_Anne_Andersonアン・アンダーソン『蛙の王さま』, Public domain, via Wikimedia Commons.

グリム兄弟やアンデルセンの童話をはじめ、100冊を超える本の挿絵を手がけたアン・アンダーソン(Anne Anderson, 1874〜1930)。スコットランドを拠点に活躍し、挿絵のほかにも、グリーティングカードや水彩画など、多彩な作品を制作しました。

アンダーソンは、19世紀末〜20世紀初頭にヨーロッパで広まった、アール・ヌーヴォーの様式を取り入れた画家として知られています。

アール・ヌーヴォーとは、自然のなかにあるモチーフに着想を得た、優美な曲線が特徴の芸術様式です。『蛙の王さま』の挿絵(上の画像)も、垂直な線がほとんど見られず、流れるような曲線で描かれています。

アンダーソンは、「王さまのお城の近くに大きな暗い森があり」(※2)という原作の風景を再現し、可憐な少女とのコントラストを活かして、幻想的なシーンをつくり上げました。

さらに、彼女ならではのオリジナリティも発揮し、姫と蛙が出会う場所を、泉ではなく井戸に変更しています。井戸の周りに市松模様のようなデザインが施されており、運命的なめぐり合いを引き立てているように感じられる作品です。

(※2)引用:川端強編、矢崎源九郎、植田敏郎、乾侑美子訳『グリムの昔話(3)森の道編』童話館出版、2003年、p.134

②クララ・ミラー・バード—幼い子どもの愛らしさがあふれる作品

02_Frog_Prince,_CM_Burd,_New_York_Tribune,_August_24,_1919クララ・ミラー・バード『蛙の王さま』, Public domain, via Wikimedia Commons.

ニューヨーク生まれのクララ・ミラー・バード(Clara Miller Burd, 1873〜1933)は、同市の2つの美術学校で学び、ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン(National Academy of Design in New York)で、とくに高く評価されたイラストレーターでした。

児童書の挿絵のほか、有名な雑誌の表紙も手がけるとともに、ステンドグラスデザイナーとして多くの教会の窓をデザインし、壁画の装飾も担当しました。

デザインにも長けていた彼女の作品は、シーンを効果的に見せる構図と、服装や植物などの細かな表現が魅力です。『蛙の王さま』の挿絵も、絵の主役がだれなのかが分かりやすく、姫が身につけているアクセサリーや水辺に咲く花が、繊細に描かれています。

また、この作品の大きな特徴は、姫が幼い子どもの姿をしている点です。森で遊んでいた少女が蛙と出会い、ふたりで仲良く会話している——そんなストーリーを想像させます。

原作では、姫が醜い蛙に嫌悪感を抱きますが、バードの作品は、まるで友達同士で遊んでいるような微笑ましさが感じられます。

03_1280px-Sleeping_Beauty_&_Frog_Prince,_CM_Burd,_New_York_Tribune,_August_24,_1919『蛙の王さま』と『眠れる森の美女』が掲載された日刊紙『ニューヨーク・トリビューン』(1919年8月24日), Public domain, via Wikimedia Commons.

バードの『蛙の王さま』が掲載された日刊紙『ニューヨーク・トリビューン』を見ると、『眠れる森の美女』のヒロインと王子も、小さな子どもとして描かれているのが分かります。愛らしく親しみやすい雰囲気にあふれた作品です。

③ジェラルドゥス・ヨハネス・ボス—動物への温かいまなざしと情景の繊細な描写

04_Sprookjes_uit_de_nalatenschap_van_Moeder_de_Gans_-_KW_BJ_26563_-_after002_(cropped)ジェラルドゥス・ヨハネス・ボス『カエルの王、あるいは鉄のヘンリー(原題 “De koning der kikvorschen, of de ijzeren Hendrik”)』の挿絵, Public domain, via Wikimedia Commons.

ジェラルドゥス・ヨハネス・ボス(Gerardus Johannes Bos, 1825〜1898)は、オランダで活躍した画家・版画家です。オランダ最古の大学都市といわれるライデンに生まれ、ライデン絵画・素描アカデミー(the Leiden Academy for Painting and Drawing Ars Aemula Naturae)の理事も務めた著名な人物です。

おもに油彩で風景画と動物画を描き、光と影のコントラストを活かした、写実的でドラマチックな作品を生み出しました。

挿絵画家としても活動していたボスの『蛙の王さま』は、ひときわユニークに表現されています。

上の画像でまず目に入るのは、実際の数倍ものサイズで描かれた蛙です。これほど大きな生き物に出会ったらたじろいでしまいそうですが、姫は腰をかがめて、優しい顔つきで話しかけています。

容姿や考え方の違いから、姫と蛙の隔たりが強調されている原作に対し、ボスの作品では、ふたりが対等な関係のように見えます。

動物を描き続けたボスは、生き物と人間の友好的な関係を、童話を通して表現したかったのかもしれません。

もともと魔女は登場していなかった!?—変化してゆく人間と動物の関係

05_The_Frog_Prince_-_Anne_Anderson_2アン・アンダーソン『蛙の王さま』の挿絵。蛙がお城の食卓にやってきて、姫と同じ皿から料理を食べるシーン。, Public domain, via Wikimedia Commons.

ここからは、『蛙の王さま』のストーリーに注目し、童話が変化していった理由をひも解いてみましょう。

物語のあらすじとして広く知られているのは、悪い魔女によって蛙に変えられてしまった王子が、姫と出会って魔法が解けるというものです。しかし、もともとのお話に魔女は登場しておらず、後から付け加えられたといわれています。(※3)

グリム童話集の初版には、単に「変身」と書かれているだけで、なぜ姿が変わったのか原因は明らかにされていません。

最初の手がかりとなるのが、ことばを話す動物の童話が、いつ頃生まれたのかという点です。
『蛙の王さま』は、ドイツの古代〜中世初期が起源といわれるほど、古い童話だと考えられています。

中世期には、動物とコミュニケーションが取れると信じていた人々が多く、こうした文化を背景に、人間と会話する動物の童話が生まれたそうです。(※4)

ところが、キリスト教が広まり、人間中心主義が提唱されると、動物は別世界に属しており、人間よりも劣るという思想が一般的になりました。人々と動物の関係が変化するなかで、王子が無理やり姿を変えられたという筋書きや、魔女の存在が加えられたのではないかという見方もできます。

(※3)グリム童話集は、初版から第7版まで残されています。グリム兄弟が、聞き取り調査をした民話を、できる限りルーツに近づけようとしたり、読み物として筋が通るように修正したりしたため、版を重ねるごとに文章表現が追加されていきました。(高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年、p.6〜10)

(※4)(※3)前掲書、p.184

人間を助ける動物たち—『蛙の王さま』からたどる古い習わし

06_Otto_Ubbelohde_-_Der_Froschkönig_oder_der_eiserne_Heinrich19世紀末〜20世紀に活躍した画家・イラストレーターの、オットー・ウベローデ(Otto Ubbelohde, 1867〜1922)による『蛙の王さま』の挿絵。, Public domain, via Wikimedia Commons.

ヨーロッパの文化をさかのぼると、王子が自ら蛙に変身したのではないかと想像させる古い習わしにたどり着きます。

ヨーロッパでは、中世まで狼男の風習が残っており、農耕儀礼として行われていたそうです。民俗学の研究によれば、ある農民が狼に変身し、冬の悪霊と戦って打ち破ることで、豊作を招き入れていたといいます。

つまり、人間が動物に変身して、自然が持つ魔術的な力を得ていたと考えられるのです。

当時の人々の信仰は、童話にも表れています。たとえば、『シンデレラ』に登場する小鳥は、ヒロインの願いを聞き届け、彼女が望んだものを何でも恵んでくれます。

『蛙の王さま』の王子も、姫が泉に落とした金のまりを取り戻すため、彼女に力を貸します。
どちらも、動物に対する信頼や畏怖の念が、人間を助けてくれる存在として結びついたとうかがえるストーリーです。

このように考察すると、主人公の王子は、動物の力を得て、自ら姿を変えた存在として読み解くこともできます。『蛙の王さま』は、人間と動物がより近しい関係にあった時代の世界観を今に伝える物語だといえるでしょう。

人々と動物の関係性を見つめ直す童話

この記事では、アン・アンダーソン、クララ・ミラー・バード、ジェラルドゥス・ヨハネス・ボスの挿絵をご紹介し、姫と蛙の対比に注目しました。それぞれの画家によって、主役のふたりの関係の見え方が異なり、同じ童話でもさまざまな解釈があることを教えてくれます。

また、ストーリーの原形をたどると、人間と動物のつながりが歴史とともに変わっていったことが分かります。

『蛙の王さま』は、ロマンティックなおとぎ話でありつつも、人々と動物が近しい存在だった時代を想像できる作品です。

ぜひ童話を読み直して、ヨーロッパに息づいていた古い文化や世界観を感じてみてくださいね。

《参考文献》
小澤俊夫監訳『語るためのグリム童話①ヘンゼルとグレーテル』小峰書店、2007年
高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年
森義信『メルヘンの深層』講談社、1995年
川端強編、矢崎源九郎、植田敏郎、乾侑美子訳『グリムの昔話(3)森の道編』童話館出版、2003年

《参考サイト》
・Anne Anderson(POOK PRESS)
https://www.pookpress.co.uk/project/anne-anderson-biography/
・NORMAN ROCKWELL MUSEUM-Illustration History Clara Miller Burd
https://www.illustrationhistory.org/artists/clara-miller-burd
・Gerardus Johannes Bos(19th century gallery)
https://www.simonis-buunk.com/artist/gerardus-johannes-bos/artworks-for-sale/2962/
・Gerardus Johannes Bos(Gallerease)
https://www.gallerease.com/en/artists/gerardus-johannes-bos__02697a288161
・アール・ヌーヴォーは、どこから来てどこへ行く?めぐりめぐる工芸とデザイン(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/diary/diary_090.html

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浜田夏実

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

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