STUDY
2023.5.11
橋本関雪とはどんな画家?動物画から中国風まで多岐にわたる作風の秘密を解説
橋本関雪(はしもと・かんせつ、1883-1945)は、伝統を取り入れつつユニークな発想で独自の芸術世界を作り上げた日本を代表する画家です。
《前赤壁》(1920年) 白沙村荘 橋本関雪記念館(嵯峨嵐山文華館 前期展示)
2023年は、橋本関雪の生誕140周年という記念の年。この機会に関雪の芸術に触れるべく、『橋本関雪 生誕140周年 KANSETSU ー入神の技・非凡の画ー』を取材し、独自の画風についてお話をうかがいました。
橋本関雪とは?
《京洛四季》1908 白沙村荘 橋本関雪記念館(嵯峨嵐山文華館 前期展示)
1883年、関雪は兵庫県神戸市に生まれました。儒者の父親の影響で、関雪は若い頃から漢詩や漢学を学びます。漢詩を題材とした作品を多く描いたのは、このような背景があるからです。
幼い頃から絵の才能を発揮していた関雪は、15歳で上京。1903年、京都画壇の竹内栖鳳が主催する画塾、竹杖会に入門しました。
《俊翼》(1941年) 福田美術館(福田美術館 前期展示/白沙村荘 橋本関雪記念館 後期展示)
関雪の作品は多岐にわたり、歴史画、山水画、花鳥画、美人画、動物画など、さまざまなジャンルの絵に取り組みました。ひとつのジャンルにとどまらずに活躍し、戦前の京都画壇を代表する画家になりました。
大人気の動物画
多岐にわたる絵画のなかで、まずご紹介したいのが動物画です。第14回帝展に出品作された《玄猿》(※)という作品をきっかけに、「猿の画家」として広く知られるようになりました。
※東京藝術大学大学美術館蔵。本展後期に白沙村荘 橋本関雪記念館にて展示
以降、「玄猿を描いてほしい」という要望が殺到し、黒いテナガザルだけでなく白いテナガザルやニホンザルなど、さまざまな種類の猿を描くようになります。猿だけでなく、キツネやタヌキ、ウサギなど、どの動物の作品も本当に素晴らしいです。
《夏夕》 (1941年) 足立美術館(白沙村荘 橋本関雪記念館 前期展示)
ふわっとした毛の表現には、四条派の写実的な描写を受け継いでいることが読み取れます。また、動物たちの表情にも注目してください。関雪の感情が表れているのか、心のなかに思いを抱えるような、複雑な表情を読み取ることができます。
中国の文化から受けた影響
《香妃戎装》(1944年) 衆議院(福田美術館 前期展示/白沙村荘 橋本関雪記念館 後期展示)
父親が儒者で幼いころから漢籍漢文に触れていたことや、生涯で60回以上も中国を訪れたことから、関雪の絵には中国の文化の影響が色濃く見られます。
例えば、中国の伝説に登場する木蘭(もくらん)です。ディズニーのアニメーション作品「ムーラン」のをモデルとなった人物で、老いた父親の代わりに戦に赴いた勇敢な女性です。
《木蘭》では、木蘭が戦地から帰る途中が描かれています。帰郷するまで女性であることを隠していた木蘭ですが、本作では故郷に近づきリラックスし始めたのか、優しい表情を見せています。優美な姿に誘い込まれるような作品です。
《琵琶行》(1910年) 白沙村荘 橋本関雪記念館(福田美術館 前期展示)
《琵琶行》は、唐の詩人・白楽天(はくらくてん)の詩を題材とした作品です。官職から左遷された白楽天が湖のほとりを歩いていたところ、琵琶を弾く女性と出会います。
本作に描かれるのは、若い頃の楽しい暮らしと落ちぶれてしまった現在を語る女性に、白楽天が共感する場面です。女性の顔に浮かぶ悲しみの表現が見事な作品で、見る者の心を捉えて放しません。
中国の伝統的な絵画ジャンルである山水画も多く手がけました。大自然を題材にしたもので、関雪は鮮やかな緑を多用するなど、独自の美意識で山水画を描きました。
斬新な絵を生むアイデア
関雪は先人に学び、独自の発想で新たな芸術を生む能力に長けていたようです。当時の人々を驚かせる、斬新なアイデアの作品がいくつも残っています。
《猟》(1915年) 白沙村荘 橋本関雪記念館(福田美術館 通期展示)
代表的なのが、第9回文展に出品されて2等賞を獲得した《猟》です。この時期、1等賞は選ばれなかったため、事実上の最高賞を受賞しました。
馬に乗った人々が鹿やうさぎを追いかける猟の場面を描いた作品ですが、注目したいのが、動物も人も左から右へ動いていることです。当時、屏風は右から左に場面を展開するのが当然だったので、関雪は真逆の描き方をして見る人を驚かせました。
《樹上孔雀図》(1926年) 足立美術館(白沙村荘 橋本関雪記念館 前期展示)
《樹上孔雀図》も興味深い作品です。四条派らしい写実的な孔雀、竹内栖鳳がよく描いた雀、中国風の岩や植物と、異なる画風をひとつの画面にうまく調和させています。
さらに、屏風の谷となる部分に、下に垂れるざくろの枝と立ち上がるヒコバエが描かれています。一般的には、重要なモチーフが谷になる部分に描かれることはありません。モチーフがあえて谷に配置されることで、その上がる・下がるとい動きが強調されているように感じられます。
孔雀が飾り羽を見せず、正面を向いている構図なのも珍しいです。
まとめ
《後赤壁図》(1915年) 西宮市大谷記念美術館(白沙村荘 橋本関雪記念館 前期展示、5月18日まで)
橋本関雪は、伝統的な絵画の技法を学んで自分のものにするだけにとどまらず、新しい表現を試みて独自の芸術を打ち立てた画家です。中国の文化や四条派の影響など、何を吸収してきたのかを知ると、関雪の作品の斬新さがわかってくるのではないでしょうか。
さまざまな絵画のジャンルで活躍した関雪の作品150点が出品されるのが、京都市内の3館で同時開催されている『橋本関雪 生誕140周年 KANSETSU ー入神の技・非凡の画ー』です。かつてない規模で優品が並ぶ展示で、関雪の芸術世界に浸ることができます。
生誕140周年というこの機会に、足を運んで鑑賞してはいかがでしょうか。
展覧会情報
展覧会名:橋本関雪 生誕140周年記念 KANSETSU 入神の技・非凡の画
会期:2023年4月19日(水)~ 7月3日(月)
展示替え、開館時間、休館日は各館ウェブサイトにてご確認ください。
白沙村荘 橋本関雪記念館:http://www.hakusasonso.jp/exhibition/detail/140-kansetsu.html
福田美術館:https://fukuda-art-museum.jp/exhibition/202302222817
嵯峨嵐山文華館:https://www.samac.jp/exhibition/detail.php?id=27
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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