STUDY
2024.1.4
ミレー『落穂拾い』はどんな絵?作品の特徴と見どころをわかりやすく紹介
ミレーの『落穂拾い』は、収穫が終わった畑で働く女性の農民の女性が描かれた作品です。『落穂拾い』はもっとも有名な西洋画の1つですが、制作された当時はテーマや表現においてさまざまな意見が飛び交っていました。
『落穂拾い』の革新性を理解するためには、当時のフランスの歴史背景を理解する必要があります。この記事では、作品の特徴や見どころをわかりやすく解説します!
ミレー『落穂拾い』の歴史
ジャン⁼フランソワ・ミレー『落穂拾い』, Public domain, via Wikimedia Commons
『落穂拾い』は、フランスの画家ジャン⁼フランソワ・ミレーによって1857年に完成された油絵です。作品には3人の農民の女性が描かれ、『落穂拾い』の名のとおり、これらの女性は収穫後の畑に落ちた麦を拾っています。
一見すると穏やかで和やかな雰囲気の絵画主題に感じますね。しかし、主題の意味を鑑みると「刈り切れなかった穂を拾わなければ生活ができないほどの貧困」の象徴にも見えます。農村において「落穂拾い」は、女性や貧しい人が食べられるものを少しでも得るために許可された習慣でした。
ミレーは、ほかの代表作『種まく人』や『晩鐘』からもわかるように、貧しい農民にスポットライトを当てた作品を多く残しています。1849年以降、都会の混乱を避けて田舎のバルビゾンに疎開した際に目にした光景が大きく影響したのでしょう。ミレーのようにこの時期にバルビゾンに拠点を据えた芸術家を、「バルビゾン派」と呼びます。
原題の『Des glaneuses』には「少しずつ集める人」「拾い集める人」のニュアンスがあります。貧しく生活に困窮した下層階級の女性が、畑に残っているわずかな麦を拾うために腰をかがめている…『落穂拾い』は柔らかな色彩とは裏腹に、厳しい貧困の現実を描いた作品です。
ミレー『落穂拾い』の特徴:下層階級への着目
ジャン⁼フランソワ・ミレー『落穂拾い』, Public domain, via Wikimedia Commons
ミレーが『落穂拾い』を完成させたのは1857年です。当時のフランスでは、1789年のフランス革命やナポレオンの躍進を経て、政治的に不安定な状態が続いていました。フランス革命をとおして目の当たりにした下層階級の脅威が、特権階級のなかに実感を伴って残っている時代でもありました。
そんな社会情勢のなか、下層階級に着目して制作されたミレーの絵画は特権階級にとっては面白くありません。原則的に特権階級のみが芸術の価値を評する場であるサロンにおいては、ミレーの絵画主題は良い印象を持たれませんでした。
理由は絵画の大きさにもあります。この作品は83.8㎝×111.8㎝であり、農民に焦点を当てた作品としては特筆すべき大きさでした。費用のかかる大型のカンヴァスは、当時まだ神話や宗教画にのみ用いられることが主流だったためです。わざわざ貧困を主題にした大型作品を描くのには、政治的な意図があるのでは、と勘繰る声も上がりました。
『落穂拾い』の背景には、山となって積まれた麦が描かれています。豊かな収穫の風景と貧しく苦しい3人の寡婦のコントラストは、格差社会を非難しているようにもうつりました。虐げられている側の人間が目にすれば、怒りと憎悪を呼び起こすかも…
当時のフランスにおける下層階級の人口は、特権階級を大きく上回っていたため、団結すれば社会に変革をもたらす可能性があったはずです。ミレーの作品は、ギリギリで倹しい生活を強いられる農民の同情を集め結束を強める、ひいては自分たちの特権を脅かす引き金になる可能性がある、とサロンが判断したのも無理はありません。
ミレー『落穂拾い』の見どころ:写実的な表現
ジャン⁼フランソワ・ミレー『落穂拾い』, Public domain, via Wikimedia Commons
ミレーの『落穂拾い』は、写実主義的な表現を大切にしています。写実主義とは、見えたままを描くことを重視する芸術スタイルです。ロマン主義のようにドラマチックに理想化された状態ではなく、ありのままを絵画に表現します。
作品の主役である3人の女性は、少し汚れた、くたびれた服を身に着けています。袖から伸びる手は、農作業で日に焼け、黒ずんでいるでしょう。彼女たちは神話の登場人物のように美しく修正された姿ではなく、本当に農作業をしている下層階級の女性の姿で表現されています。
一方、『落穂拾い』は庶民的な情景をテーマにしていながら、神々しい雰囲気をまとっています。ミレーは『種まく人』の作品にも見られるように、農業と旧約聖書の関係性について深く考えて作品を制作していました。農業における種まきは、キリスト教における宣教や指導を暗示するためです。
政治的な意図と解釈、写実的な表現、庶民的な主題、聖書的な含意。一見シンプルで穏やかなミレーの作品の背景には、さまざまな要素が含まれているのですね。作品鑑賞の際は、歴史背景を思い出してみてください。以上、ミレーの『落穂拾い』の特徴と見どころ解説でした!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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