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2024.8.6

キュレーターになりたい方必見!お仕事内容、なり方など徹底解剖

「キュレーター」というと、あなたはどんなイメージをお持ちでしょうか?
アートの展覧会を企画・運営する人、美術館の展覧会の一角に座っている人、アートに関する研究をしている人……。さまざまなイメージがあると思いますが、「アートに関わる仕事がしたい!」と思っている方にとって、キュレーターは憧れる職業のひとつだと思います。

この記事では、キュレーターを目指す高校生や学生の方、アートに興味のある方に向けて、キュレーターの仕事内容、どのような資質が求められるのか、キュレーターになるまでの具体的な道筋などについて解説していきます。

キュレーターの女性のイメージ

そもそもキュレーターとは?

キュレーターの前に:学芸員ってなんだろう

みなさんは、「学芸員」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
文化庁のホームページには、

学芸員は,博物館資料の収集,保管,展示及び調査研究その他これと関連する事業を行う「博物館法」に定められた,博物館におかれる専門的職員です。

引用元:文化庁ホームページ「学芸員について」

と記載されています。

学芸員とは、博物館法で博物館や美術館などに配置するように定められた専門職員のこと。研究職と教育職を兼ね、アートを含めた文化と人との架け橋になって、社会に広めていく立場の人のことを指します。学芸員の仕事は、作品の収集、展示、保管、調査研究、企画展の企画・運営、カタログ執筆、情報発信、教育普及活動、と実に多岐にわたっています。

大規模な美術館の学芸員であれば、多くの来場者を賑わすビッグ・プロジェクトに携わることができるでしょう。また、中小規模の美術館なら、地域の子どもたちや学生、住民を対象にしたイベントを企画したり、アートつながりの地域のコミュニティに参画することもできるでしょう。

こんなふうに、アートを社会に、後世に伝えていく大切な職業の学芸員は、国家資格である学芸員資格を取得する必要があります。学芸員資格については、のちほど解説しますね。

キュレーターと学芸員:海外との比較

では次に、キュレーターと学芸員について見ていきましょう。
キュレーターも学芸員も、博物館や美術館、そのほかの文化施設で活躍していますが、ここから先は、主に美術館やアートの世界に的を絞ってお話ししていきます。

学芸員を英語に訳すと「curator(キュレーター)」。

ということは、日本において「キュレーター=学芸員」かというと、そこが少し微妙。
日本では、美術館で作品を扱う職業の人が学芸員なのですが、海外の美術館はきっちり分業化されています。

キュレーター:展示会の企画、研究
レジストラー:作品情報の管理
ハンドラー:作品を実際に取り扱う人
エデュケーター:教育担当
ライブラリアン:美術館の蔵書の管理
コンサバター:作品の保存修復

さすが、業務の境界線がしっかり引かれています。

対して日本では、学芸員が展示会の企画もするし、もちろん研究もします(キュレーター)。
所蔵している作品の情報管理もするし、企画展で他の美術館から貸し出された作品の情報管理もします(レジストラー)。
実際に、輸送や搬入にも関わるし(ハンドラー)、ワークショップなどの企画・運営もこなし(エデュケーター)、蔵書の管理ももちろん(ライブラリアン)!
作品の修復は専門職の方がいますが、実は日本の学芸員の業務内容はとっても広いんです。

キュレーターと学芸員:日本において

そんなマルチな活躍ぶりを見せる学芸員ですが、日本で「キュレーター」という言葉が多用されるようになったのは、1990年代からと言われています。

美術館に所属している学芸員と区別して、フリーランスで展示会の企画や運営をする人をキュレーターとする場合もあったようです。しかし現在は、学芸員も、独立系のキュレーターも、キュレーターと呼ぶことが主流になりつつあります。

また、最近は「キュレーションメディア」というジャンルも出てきて、インターネット上で大量の情報を収集・整理し、そのメディア独自の視点から編集して、読者に情報を届ける人もキュレーターと呼ばれています。(こちらのキュレーターに関しては、本記事の本題から外れるのでご紹介しません)

キュレーターの仕事:3つの領域

ざっくり、キュレーターについてご説明したので、次は担う業務についてです。
業務は大きく分けて、3つに分類できます。

・展示の企画、運営
・作品の収集、研究、保存
・教育普及活動

一つひとつ、見ていきましょう。

展示の企画、運営

展示も、常設展、企画展に大別されます。「展示の企画・運営」を考えたとき、主に企画展についてイメージするかと思いますが、常設展も定期的に展示作品の入れ替えをする美術館もあります。どのような業務があるか洗い出してみましょう。

① 展示のコンセプト、テーマ、目的を決める
② 展示作品を決める
③ 展示空間をデザインする
④ ほかの美術館・アーティストや遺族から借りたい展示品の交渉や連絡
⑤ カタログや広告物への執筆・制作など
⑥ 展示品の搬入・設置
⑦ 実際の展示会の運営
⑧ 会、終了後の展示品の返却
⑨ 予算管理やスケジュール調整など

キュレーターは、ひとつの展示会の始まりから終わりまで、すべての工程に携わります。
①、③、⑤のようにクリエイティブな仕事、④、⑦、⑨のように他者とのコミュニケーションや管理能力を発揮する仕事、⑥、⑧のように細心の注意を払って作品を取り扱う仕事、②、⑤のように研究に直結する仕事、と求められる能力は多様です。

こうした一連の仕事を通じて、展示会に訪れる人々に、感動や学びを提供する場を創り上げています。

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作品の収集・研究・保存

[作品の収集]
キュレーターは、美術館のコレクションを充実させるために、作品の収集を行います。貴重な作品と直接触れる機会が多く、未知のアーティストや作品に出会い、その魅力を発見したり、歴史的価値のある作品を間近で見ることができます。

そうした貴重な作品収集には多額の費用がかかるため、限られた予算内でどのような作品を取得するかは課題です。特に、人気のある作品や市場価値の高い作品の場合、ほかの美術館やコレクターとの競争もあります。また、資金提供者やスポンサーの協力を得るための交渉も重要な仕事です。

[作品の研究]
収集した作品についての詳細な研究を行い、その背景や意義を深く理解します。こうした知識は、展示や教育活動に活かすことができ、キュレーターとしての専門性を高めることにもつながります。また、新たな研究成果の発表は、美術史や文化研究の分野への貢献にもなります。

研究というとデスクワークを想像しがちですが、文献調査やフィールドワーク、専門家との議論など、かなりアクティブな活動となります。また、作品の詳細な研究には膨大な時間と労力が必要です。こうした粘り強い研究が、質の高い展示や教育活動の下地になります。

[作品の保存]
キュレーターの仕事の中で作品の保存は、文化遺産を未来に継承していく重要な仕事です。適切な環境で保管し、劣化を防ぐための措置を行うことが大切なので、作品の状態を正しく把握し、保管に関する専門的知識が必要になります。
また、日常的なメンテナンスも欠かせません。特に、貴重な作品は、慎重な取り扱いが必要です。こうした綿密な保管管理を行うことで、未来の世代にもその価値を伝えることができます。

作品の管理イメージ

教育普及活動

教育普及活動というと、何かのテーマでレクチャーをする、というイメージが頭にぽわんと浮かびがちですが、実際はどんなことをしているのでしょうか。主な活動を挙げてみましょう。

① 展示解説
② 館内、館外で開催される講演会への登壇
③ ワークショップ
④ インタラクティブな展示
⑤ 地域の小中学校、高校、大学と連携したプログラム
⑥ 大人向け講座
⑦ 専門家向け講座
⑧ SNSメディアでの発信

たくさんありますね!
⑧は、誰もが情報発信できる時代だからこその活動と言えるでしょう。そして、④についても、誰もが情報発信という「アウトプット」ができる時代だからこそ、「鑑賞者がアクションを起こし、そのアクションにアートが応える」という企画が増えているのかもしれません。

また、⑤に関しても、図工や美術の授業が好きじゃない、という子どもたちでも、「アートって本当は楽しい」と感じられるような、知識詰め込み型ではないプログラムの開発も盛んになっているのではないでしょうか。

キュレーターのやりがい6選

アート・文化を発掘し、守り、伝える、アートの守護者のようなキュレーターのやりがいについて、挙げていきましょう。

① 自己の創造性を発揮する喜び
② 自己の探究心を満たし、知識を深化できる喜び
③ 文化財を守る立場への誇りと、後世へ伝え残していける使命感
④ 多くの人に、感性を研ぎ澄まし豊かな心を育むきっかけを提供できる喜び
⑤ アートを通じて、さまざまな人たちと想いを共有する喜び
⑥ アートの普及活動を通じて、豊かな社会をつくることへの貢献

何がやりがいか、何に惹かれるかは人それぞれで、正解はありません。上に挙げたもの以外にもあると思います。「こういうのも、やりがいかも……」と想像を膨らませながら、読んでいただければ嬉しいです。

キュレーターに向いている資質とスキル6選

多様な業務範囲をこなすキュレーターですが、どのような資質やスキルを持った人が向いているのでしょうか。

① アートへの情熱と探究心

これは「言わずもがな」という感じですよね。キュレーターになれば自分が興味のある研究分野でも、好きではないアーティストを取り上げる場面も出てきます。アートに対する情熱と探究心がなければ苦しくなってくるでしょう。

② 高いコミュニケーション能力

展示会の企画・運営、展示解説、講演会、ワークショップ、折衝など、人とコミュニケーションをとりながら仕事をするキュレーターにとって、「人と関わるのが嫌い」だとしたら、それこそ、毎日が苦行になってしまいます。

③ チームワークと管理能力

②と同様、チームになってプロジェクトを進めるので、チームワークは必須です。また、大勢の人が関わるので、円滑にプロジェクトを成功させるためには管理能力が求められます。

④ 緻密さ、細部に注意を払う能力

貴重な文化財を扱います。ちょっとした意識の散漫で、文化財に取り返しのつかない損傷を与える可能性がありますので、重要な資質です。

⑤ 柔軟性と想像力

どのプロジェクトでも複数の人が関わるので、「予期せぬ事態が起きるのはデフォルト」くらいに考え、不測の事態に対応できる柔軟さは必要でしょう。また、新しいことや変化を受け入れ、挑戦していくことに抵抗感が強いと向かないかもしれません。

⑥ 語学

「読む」は、海外の論文や文献を読む機会も多く、「書く」は研究発表や英語で寄稿もするので、できるのが前提というのが現実のようです。「会話する」に関しても同様に、国外の美術館やアーティストと連絡や交渉、外国人来館者対応でも求められるでしょう。

グローバルな会議風景のイメージ

キュレーターになるには:具体的ステップ

美術館は、「学芸員資格」の取得者をキュレーターとして採用します。これは博物館法で定められていますので、キュレーターになるには、学芸員資格の取得は必須です。しかし、最近は、学芸員の資格を持たず、独立してキュレーターとして活躍する人も増えています。
ということで、学芸員資格取得と、就職活動、フリーになって活動する、に分けて解説します。

学芸員資格の取得:2つのコース

① 大学で学ぶ
大学で学芸員資格課程を履修し、決められた単位を取得すれば、大学卒業時、学芸員資格の取得を証明する「修了証書」が交付されます。この資格は無期限に有効で、ほかに資格試験を受験することもありません。
また、美術大学に進学しなくても、在籍している大学が提携している他大学で学芸員資格課程があれば、単位取得も可能です。

② 資格試験を受ける
①のコース以外の人たちは、資格試験を受ける必要があります。大別するとこんな感じです。

・大学院の修士か博士の学位があり、2年以上美術館で実務をした人
・大学で博物館に関する科目を2年以上教えた教授、准教授、助教、講師
・大学卒業し、4年以上美術館で実務した人
・短大卒業し、6年以上美術館で実務した人
・大学に2年在籍、かつ62単位取得し、6年以上美術館で実務した人
・大学に入学できて、8年以上美術館で実務をした人

この条件の人が、資格試験の受験資格があります。

キュレーターになるための就職活動:カギは美術業界との接点

美術館に就職する場合、今の日本では、なり手はいるのに求人数が少ない、というのが現状のようです。
ですが、

・大学生であればインターンシップのチャンスを掴む
・学生時代から学芸員補としてアルバイトする
・大学院に進学して専門性を磨いて知識の深化を図る
・さまざまなアートの講演会などに積極的に出席する

など、これらを通じて美術業界のつながりを広げていくことで、就職活動を有利に進めていくことはできるでしょう。

フリーになって活動する:インディペンデントキュレーター

美術館の学芸員からキャリアをスタートさせて、独立するというコースもありますが、学芸員の資格を取得せずに、いきなり美術展を企画する独立系の「インディペンデントキュレーター」も存在します。
彼らのキャリアは多様で、同世代のアーティストの友人を通じて、アートに関心を持ち、ギャラリーで美術展を企画する、という人もいます。また、活動の場が少ない現状を変えようと、インディペンデントキュレーターたちが、若手キュレーターの活躍の場を作り出そうとする動きもあります。
新しい風を吹かせようとするインディペンデントキュレーターの動向は、要チェックですね!

キュレーターの年収

では、気になる年収についてです。勤務先の種類や規模、個人の経験と資格によって大きく異なります。下の金額は、おおよその目安として捉えていただけるといいかと思います。

公立美術館では、約250万円から800万円程度。
私立美術館では、約300万円から1000万円以上。
フリーランスでは、約300万円から1000万円以上と幅広い範囲があります。
大学や研究機関で教鞭をとったり、研究を行うキュレーターもいます。この場合の年収は、教育機関の規模やポジションによります。

まとめ|キュレーターという仕事の魅力

今回は、キュレーターってなに?から始まり、仕事内容、その魅力、求められる能力、キュレーターになるには、年収まで詳しくお話ししてきました。知れば知るほど、「本当に素晴らしい職業だなぁ」と思いましたし、長年、キュレーターをされている方々は、「情熱」だけでは片付けられないほどの使命感を潜在的にお持ちなんだろうな、と思わずにはいられませんでした。

この記事をお読みになったキュレーターを目指すみなさんに、素晴らしい職業だということが伝わると嬉しいなと思います。そして、この記事をお読みになった方が、次に美術館を訪れた際、キュレーターさんと温かな接点を持つきっかけになれば嬉しいです。

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国場 みの

国場 みの

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建築出身のコピーライター、エディター。アートをそのまま楽しむのも好きだが、作品誕生の背景(社会的背景、作者の人生や思想、作品の意図…)の探究に楽しさを感じるタイプ。イロハニアートでは、アートの魅力を多角的にお届けできるよう、楽しみながら奮闘中。その他、企業理念策定、ブランディングブックなども手がける。

建築出身のコピーライター、エディター。アートをそのまま楽しむのも好きだが、作品誕生の背景(社会的背景、作者の人生や思想、作品の意図…)の探究に楽しさを感じるタイプ。イロハニアートでは、アートの魅力を多角的にお届けできるよう、楽しみながら奮闘中。その他、企業理念策定、ブランディングブックなども手がける。

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