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2024.8.7
【オリンピック】古代ギリシャの芸術に見るスポーツと文化
国際的なスポーツの祭典として盛り上がっているオリンピックは、古代ギリシャで生まれた伝統です。1,000年以上にわたり4年に一度、神話の神ゼウスに敬意を表すために開催されてきました。
オリンピックにまつわる主題は、とくに古代ギリシャの伝統的な壺の装飾によく見られます。この記事では、オリンピックやその他の競技大会をモチーフにした古代ギリシャの芸術作品を3つ解説します。
1 テラコッタ製アンフォラ:オリンピックに向けた古代ギリシャの練習風景
Terracotta skyphos (deep drinking cup), ca. 500 B.C. Greek, Attic. Attributed to the Theseus painter. Terracotta, 6 ½ × 9 in (16.2 × 22.5 cm) The Metropolitan Museum of Art, New York, Purchase, Rogers Fund, 1906 (06.1021.49). テラコッタのスカイフォス(深杯)、紀元前500年頃のギリシア、アッティカ。テセウスの画家作。テラコッタ、16.2×22.5cm。メトロポリタン美術館、ニューヨーク、購入、ロジャース基金、1906年 (06.1021.49)
古代ギリシャ人も、現代と同じように、試合に備えてたくさんのトレーニングをおこなっていました。古代ギリシャのオリンピックで行われていた競技の例は、次のとおりです。
・競歩
・跳躍
・円盤投げ
・やり投げ
・レスリング
・五種競技(前の5競技を組み合わせたもの)
・ボクシング など
現代のオリンピックと同じような種目が行われていたのですね。
この紀元前500年頃のテラコッタには、総合格闘技のような種目を練習するアスリートの姿が描かれています。これは、レスリング、ボクシング、キックを組み合わせた「パンクラチオン」と呼ばれる競技です。
身体全身を使って激しく競い合う種目であったため、常に危険が付きまといました。しかし、古代ギリシャのルールでも噛みつきと目つぶしは禁止されており、最低限のスポーツマンシップを維持する姿勢があったようです。
選手はオリンピックに代表されるような本番の試合に向け、指導のもと特訓に励んでいました。戦っている人のとなりで声をかけているのがコーチでしょう。
2 テラコッタ製アンフォラ:オリンピック以外の古代ギリシャ競技大会
Terracotta Panathenaic prize amphora (jar), ca. 510 B.C. Greek, Attic. Attributed to the Leagros group. Terracotta, 25 in. (63.5 cm). The Metropolitan Museum of Art, New York, Purchase, Rogers Fund, 1907 (07.286.80) テラコッタ製パナテナイ賞のアンフォラ(壺)、紀元前510年頃、ギリシア、アッティカ。レアグロス・グループの作。テラコッタ、25インチ(63.5cm)。メトロポリタン美術館、ニューヨーク、購入、ロジャーズ基金、1907年 (07.286.80).
オリンピアで開催されたオリンピック以外にも、アテネで開催されたスポーツイベントがありました。ギリシャの首都アテネは、近代オリンピックが最初に開催された都市でもあります。アテネの大会は、「大パナテネイア」と呼ばれました。
大パナテネイアでは主に、伝統的な運動競技、音楽競技、馬術競技が行われました。このテラコッタ製アンフォラには、馬を連れて駆け抜ける選手の姿が映っています。
馬術は2024年のフランス大会で日本チームが92年ぶりにメダルを獲得しましたね。古代ギリシャは、運動能力を競う種目はもちろん、実用的な技能であった馬術も競技種目として人気を集めていました。
古代ギリシャでは美しい装飾が施されたアンフォラ(深い壺)がたくさん生産されましたが、スポーツやオリンピックの様子を主題とした作品は少なくありません。
一般的な「古代ギリシャ」のイメージであるオレンジと黒のデザインは、オレンジの部分がテラコッタ(粘土)の地の色、そして黒がインクです。注意深く観察すると、黒のインク部分には色むらがあるのがわかりますね。
これらの技法では、オレンジと黒のインクで絵を描いたのではなく、デザインが必要な部分に黒のみを塗る方法でイメージを生み出していました。単色絵画でありながら、強烈な黒とオレンジのコントラストのおかげで、見る人に力強い印象を与える点がギリシャ美術の面白さです。
3 ブロンズ製水差し:古代ギリシャオリンピックの賞品は?
Left: Bronze hydria (water jar), mid-5th century B.C. Greek, Argive. Bronze, 20 ¼ in. (51.41 cm). The Metropolitan Museum of Art, New York, Purchase, Joseph Pulitzer Bequest, 1926 (26.50). 左:青銅製ヒドリア(水壺)、紀元前5世紀半ば、ギリシア、アルガイヴ。ブロンズ、20 ¼インチ(51.41cm)。メトロポリタン美術館、ニューヨーク、購入、ジョセフ・ピューリッツァー遺贈、1926年(26.50)。
古代ギリシャのオリンピックの賞品は、メダルではありませんでした。代わりにお金やブロンズの作品が贈られることが一般的で、貴重品として重要な価値がありました。
古代ギリシャのオリンピックやその他の競技大会における賞品の重要性は大きく、「陸上競技(アスロン)」という言葉は古代ギリシャ語で「賞」を意味するアスロン(athlon)に由来します。
ここで紹介する作品は、そんな賞品の1つです。古代ギリシャにおけるブロンズの重要性、貴重性や言及するまでもありません。ギリシャ全土から集まったアスリートたちは、栄誉と賞品のために戦いました。
ブロンズの水差しの碑文には、この大会が女神ヘラのために開催されたものだと記されています。作品の精巧で繊細なデザインから、紀元前5世紀にすでにギリシャが高度な文明を築いていたことがわかりますね。
古代ギリシャのオリンピックについて現在の私たちが知ることができるのは、当時の人々がたくさんの芸術作品を残してくれたからでもあります。作品を細かく観察して背景を知ると、面白い発見がありますね!
以上、芸術から見る古代ギリシャのオリンピックでした。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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