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2024.7.26

パリオリンピックのポスターデザインで注目! ウーゴ・ガットーニの作品世界の魅力に迫る

ついに2024年7月26日(日本時間27日)からパリでオリンピック・パラリンピックが開催されます。
大会を迎えるにあたり、様々な準備が進められてきましたが、その中でもひときわ注目を集めていたのが公式ポスターです。

今回の公式ポスターを手掛けたのは、フランス出身の若きイラストレーター、ウーゴ・ガットーニ (Ugo Gattoni)。独特のシュルレアリスム的作風と、細部まで描き込まれた緻密な描写が特徴的な彼の作品は、世界中のアートファンを魅了しています。
本記事では、今まさに話題のアーティスト、ウーゴ・ガットーニの創作の秘密に迫りつつ、その魅力を分かりやすく解説していきます。

パリオリンピック公式ポスターに見る、ガットーニの幻想世界

ガットーニが手掛けたパリオリンピックの公式ポスターは、彼独自のスタイルが遺憾なく発揮された、まさに「動く夢」のような作品です。

ポスターには、エッフェル塔や凱旋門といったパリの象徴的な建造物が、ガットーニのフィルターを通して幻想的に描かれています。その中で、まるで観客席から飛び出したかのような水泳選手や、建物の間を縫うように走るランナーたちが生き生きと描かれ、観る者を物語の世界へと引き込みます。
注目すべきは、ポスター全体に散りばめられた細かな描写です。よく見ると、小さな建物の窓の一つ一つにまで異なる絵が描かれていたり、人物の服装も個性豊かに表現されていたりと、まるで宝探しを楽しむかのように、時間をかけてじっくりと鑑賞したくなる魅力に溢れています。

ガットーニ自身も、このポスターには「たくさんの小さな物語が隠されている」と語っており、観る人それぞれが自由に解釈できる余白を残している点が、この作品の大きな魅力と言えるでしょう。

ウーゴ・ガットーニとは? 若き才能の歩みと作風

Hot Dog('London Cycles' シリーズのひとつ)Public domain, via Wikimedia Commons.

1988年生まれのウーゴ・ガットーニは、フランスのパリ郊外で幼少期を過ごしました。幼い頃から絵を描くことやものづくりが好きだった彼は、パリのEPSAA(グラフィックアート・建築高等専門学校)に進学し、グラフィックデザインを学びます。
卒業制作として、彼は高さ1.2メートル、全長なんと10メートルにも及ぶ巨大なフレスコ画を制作しました。「Ultra copains」と名付けられたこの作品は、ガットーニの初期衝動と才能が爆発したような、エネルギーに満ち溢れた作品です。

その後、ガットーニは本格的にイラストレーターとしての活動をスタート。転機となったのは、2012年のロンドンオリンピックを記念して出版された書籍「Bicycle」の挿絵を担当したことです。
緻密に描き込まれた自転車レースの様子や、ユーモラスな登場人物たちはたちまち人気を博し、ガットーニは一躍注目を集めるイラストレーターとなりました。

一流ブランドが熱視線! ガットーニとのコラボレーション

「Bicycle」の成功を機に、ガットーニは数々の有名ブランドとのコラボレーションを実現させていきます。

エルメスとの出会い

ガットーニの才能にいち早く目をつけたのが、フランスを代表する高級ブランド、エルメスです。ガットーニの描く繊細で夢幻的な世界観は、エルメスの世界観とも共鳴し、2015年には、ブランドを象徴するスカーフ「カレ」のデザインを依頼。


ガットーニが手掛けた「カレ」は、馬や鳥、植物などをモチーフとした、まるで物語の一場面を切り取ったかのような幻想的なデザインが特徴です。細部にまでこだわり抜かれたその美しい世界観は、ファッション業界からも高い評価を受け、現在までに5つのスカーフのデザインを手掛けています。

ディプティックとのコラボレーション

Paris 75005 Boulevard Saint-Germain no 034 Diptyque parfumeur 20080525Public domain, via Wikimedia Commons.

2020年には、同じくフランス生まれのフレグランスブランド、ディプティックのホリデーコレクションで、限定パッケージのデザインを担当。
ライオン、白鳥、鹿の3種類の動物をモチーフに、ガットーニらしい遊び心と繊細さを兼ね備えたデザインは、クリスマスシーズンを華やかに彩りました。

参考リンク:ディプティックからウーゴ・ガットーニとのコラボレーションによる2020年ホリデーコレクション第一弾が登場

その他にも、スイスの高級時計ブランド「ロレックス」や、フランスの老舗シャンパンメゾン「ルイナール」など、名だたるブランドとのコラボレーションを実現し、活動の幅を広げています。

ガットーニ作品の魅力の秘密:影響を受けたもの

ガットーニの作品は、一度見たら忘れられないほど強烈なインパクトを残します。その魅力の源はどこにあるのでしょうか? 彼に影響を与えたものから紐解いていきましょう。

シュルレアリスムの影響

ガットーニの作品には、現実世界ではありえないようなモチーフや構図が多く登場し、観る者を不思議な感覚に陥れます。これは、20世紀初頭にフランスで起こった芸術運動、シュルレアリスムの影響を強く受けていると言えるでしょう。

シュルレアリスムの中心人物であるサルバドール・ダリPublic domain, via Wikimedia Commons.

シュルレアリスムは、夢や無意識の世界を表現しようとする芸術運動で、サルバドール・ダリやルネ・マグリットといった画家が有名です。ガットーニの作品にも、ダリを彷彿とさせるような、現実と非現実が混在した独特の世界観が見られます。

関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第27回)~シュルレアリスム編~

細部へのこだわりと職人技

ガットーニの作品は、その緻密な描写も大きな魅力の一つです。彼は主にロットリングペンと呼ばれる製図ペンを用いて、気の遠くなるような作業を繰り返し、作品を完成させます。
例えば、パリオリンピックの公式ポスターは、完成までに2000時間以上もの時間を費やしたと言われています。デジタル技術が進化した現代において、あえてアナログな手法で作品を制作するガットーニの姿勢からは、本物の職人魂を感じずにはいられません。

多様な文化への造詣

ガットーニは、旅好きとしても知られており、これまでにメキシコやペルー、ボリビアなど、様々な国を訪れています。
旅先で出会った文化や歴史、人々との交流は、ガットーニの作品に大きな影響を与え、独自のインスピレーションの源となっています。例えば、メキシコを旅した際には、古代アステカ文明の遺跡や神話に感銘を受け、自身の作品にもその要素を取り入れています。

まとめ:進化し続ける才能、ウーゴ・ガットーニのこれから

ウーゴ・ガットーニは、若くして世界から注目を集める、現代アートシーンを牽引する存在の一人です。
彼の作品は、緻密な描写とシュルレアリスム的要素が融合した、他に類を見ない独特な世界観を持っています。そして、その作品は見る人の心を掴んで離さず、新たな発見と感動を与え続けています。
パリオリンピックの公式ポスター制作という大役を終えたガットーニは、今まさに創作活動の絶頂期を迎えています。
今後、彼はどんな夢を見せてくれるのでしょうか? 彼の今後の活躍から目が離せません。

【写真3枚】パリオリンピックのポスターデザインで注目! ウーゴ・ガットーニの作品世界の魅力に迫る を詳しく見る
tom

tom

東京在住ライターで専門分野は文芸批評、アート、テクノロジーなど。007シリーズとセロニアス・モンクを愛する38歳。読書とハイキングが趣味。

東京在住ライターで専門分野は文芸批評、アート、テクノロジーなど。007シリーズとセロニアス・モンクを愛する38歳。読書とハイキングが趣味。

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