EVENT
2025.1.28
『やんばるアートフェスティバル2024-2025』沖縄の大自然とアーティストのコラボレーションの魅力を徹底リポート!!
タヒチへの滞在がゴーギャンの芸術における最高到達点をもたらしたように、アーティストにとって「ものづくりをする環境」というのは、その作品に大きな影響を与える。
沖縄県北部(やんばる地域)を舞台に、2025年1月18日(土)から2月24日(月・祝)まで開催されている『やんばるアートフェスティバル2024-2025』は、まさにそんな「環境」とアーティストのコラボレーションを体感できる場だ。
クラフト部門も含めると総勢50組以上が参加し、やんばるの豊かな自然や文化を背景に制作された多彩な作品が一堂に集結する本アートフェスティバル。まるで、沖縄の風や大地、人々の営みが、作品そのものに息吹を吹き込んでいるようでもある。
今回は一般公開に先駆けて行われた内覧会に参加。各会場を巡りながら、その魅力をイロハニアートの読者にたっぷりお届けしていく。
目次
沖縄・やんばる地域を会場とした自然回帰のアートフェスティバル
今年で8回目を迎える『やんばるアートフェスティバル2024-2025』。沖縄本島北部の大宜味村、国頭村、本部町、名護市など、いわゆる「やんばる地域」の各会場を横断して行われる。
メイン会場は、大宜味村立旧塩屋小学校(大宜味ユーティリティーセンター)。那覇空港から車で1時間半ほど北上すると、エメラルドグリーンの海やうっそうとした緑の山々が広がる、沖縄らしい風景に出会える。やんばる国立公園がある名護市よりさらに北部、深い自然が残るこの地でアートに触れる体験は、都会の美術館での鑑賞とは一味違った楽しみを味わわせてくれる。
今回のアートフェスティバルのテーマは「山原本然(やんばる ほんぜん)」。
「本然(ほんぜん)」とは「本来あるべき元々の姿」を意味する言葉だ。「やんばるの大自然が持つあるがままの姿」と、「現代を生きる私たちの感性」が出会うことで、生み出される新たなアートがどのような景色を描き出すのか。作品をじっくり味わううちに、沖縄の自然と文化の奥深さ、そして作り手たちの想いが見えてくる。
エキシビション部門
メイン会場である大宜味村立旧塩屋小学校の校舎内外には、日本国内や海外の作家を含む32組のアーティストの作品が展示されている。今回から新たに「キュラトリアル・コミッティ」という体制が始動し、東アジア地域のアートプロジェクトやアートフェア東京、アート北京などでディレクターを務めた金島隆弘氏をはじめ、複数のキュレーターがアーティストを選定。地域や世代、国境を超えた多彩な才能がここに集結した。
ここでは、とくに筆者の印象に残った注目作品を3つご紹介しよう。
冨安由真 「おとずれるもの」
メイン会場である旧塩屋小学校の放送室と視聴覚室で展示されているのが、サウンド、映像、照明演出を組み合わせたインスタレーション作品「おとずれるもの」。
沖縄の「まれびと信仰」に着想を得て制作されたこの作品は、海のかなたから来訪し、人々に豊穣と幸福をもたらす神々を迎える儀礼「ウンガミ」などの要素を巧みに盛り込み、訪れる者を神秘的な世界へ誘う。
海を空撮した映像や太鼓の音、儀式の掛け声などが絶妙なバランスで配置され、暗がりの中でゆったりと漂うような鑑賞体験を味わえる。実際に現場に足を運び、じっくり耳を澄ましてみると、沖縄の伝統文化と現代アートの融合が持つパワーを強く感じ取ることができるだろう。
KYOTARO HAYASHI ✕ Ryu 「カタチをあたえる。」
KYOTARO HAYASHI ✕ Ryu 「カタチをあたえる。」
旧塩屋小学校を初めて訪れた際に、「ここには、ここにしかない『風』が吹いている」とアーティストが感じたことから誕生したインスタレーション作品。
透け感のあるシフォン生地が、そよぐやんばるの風を受けて静かにたなびき、そこにピアノを爪弾くような音色が重なる。白い布の動きや音の響きは、まるで自然そのもののリズムを反映しているかのよう。
訪れるタイミングによって微妙に変わる風の強さや陽射しも、作品を刻一刻と変化させる要素となる。日常から切り離された特別な空気感を、ここ大宜味の地で心ゆくまで味わってほしい。
黄海欣 「two shelves」
台湾を拠点に活動する黄海欣(ファン・ハイシン)は、カラフルで軽妙な色使いの油絵で知られるアーティスト。しかし彼女は「今回のやんばるアートフェスティバルの展示には油絵はそぐわなかった」と語り、あえて切り絵シリーズ「two shelves」を制作した。
作品には沖縄の動植物や風景がポップな色彩で描かれており、力の抜けた柔らかな雰囲気と、どこかユーモラスな視点が同居している。山や海、鮮やかなオブジェクトが重なり合うことで、沖縄のにぎやかさを思い起こさせる一方、切り紙ならではの繊細なディテールも見どころだ。アーティストが新境地を開拓したという点でも必見の作品といえるだろう。
このほかにも、海外からの参加としてドイツ・ベルリンを拠点にするヘニング・ヴァーゲンブレト氏や、地元・沖縄在住のアーティスト・うしお氏、Chim↑Pom from Smappa!Groupや柏原由佳氏など、現代アート界で話題の作家たちが作品を出展している。
各展示室をめぐるごとにまったく異なる表情のアートと出会えるので、ぜひ時間をかけて見て回っていただきたい。
クラフト部門
「YAFクラフトマーケット」では、やんばる地域を中心に、県内外で活躍する22組の作家や工房の作品が展示・販売されている。
やちむん(焼き物)、木工、ガラス、アクセサリー、染織など、その素材や技法はさまざま。中には、沖縄特有の琉球ガラスやバナナ繊維「芭蕉布(ばしょうふ)」など、地域に根付いた伝統技術をベースにしつつも、若い世代ならではのデザイン感覚が取り入れられた新しいスタイルの作品も並ぶ。
キュレーションを担当するのは、浦添市港川の外人住宅街にあるセレクトショップ「PORTRIVER MARKET」を営む麦島美樹さん、哲弥さん夫妻。毎年趣向を凝らした空間演出が魅力だが、今回はアートユニット「O’Tru no Trus」さんや藍染工房「亞人」さんとのコラボレーションにより、従来の植物装飾にとどまらない新しい演出が試みられているという。
作家や職人の方々が実際に足を運んでいることも多く、作品の作り方や背景、こだわりなどを直接聞けるのも大きなポイント。気に入った作品はその場で購入可能なので、旅の思い出として持ち帰るのもおすすめだ。
他にも楽しめるしかけがたくさん
大宜味村立旧塩屋小学校前にはキッチンカーが出店されており軽食やドリンクが楽しめる
メイン会場の大宜味村立旧塩屋小学校前には、地元飲食店の協力のもとキッチンカーが出店しており、アート鑑賞の合間には軽食やドリンクを楽しむことができる。
また、やんばる地域各所の連携もフェスを盛り上げるポイントの一つ。国頭村のオクマプライベートビーチ&リゾートや辺土名商店街、本部町の沖縄美ら海水族館(美ら海プラザ)など多数の周辺会場でも作品展示や関連イベントが開催される。ちょっと足を延ばして北部を一巡すれば、新たな発見があるに違いない。
さらに星野リゾートBEB5沖縄瀬良垣や那覇市内のホテルアンテルーム那覇などのサテライト会場もあり、リゾートや市街地の雰囲気を楽しみながら、アート作品を巡ることができるのも魅力だ。地元産業や観光と連動した仕掛けが満載なので、作品を見るだけでなく、各地域のグルメやカルチャーも存分に味わってほしい。
まとめ
やんばるの美しい自然と、アーティストたちの自由な発想が織り成す『やんばるアートフェスティバル2024-2025』は、深いリラックス感と刺激が同居する不思議な芸術祭だ。
歴史と文化が凝縮された土地だからこそ湧き上がるテーマ「山原本然(やんばる ほんぜん)」は、私たちに自然とアートの理想的な関係性を改めて問いかける。会場を巡りながら、時にはゆったりと自然の音に耳を傾け、時には作品のディテールをじっくりと見つめる……。そんな贅沢な時間が待っている。
冬の沖縄で過ごす一日は、海も森も澄みわたり、観光客の数も比較的少ない。ゆったりと作品に向き合いながら、アーティストの“最高の環境”を体感してみるのはいかがだろうか。きっと、あなたもやんばるの風と光の中で「本来の自分」を取り戻すような感覚を味わえるはずだ。
開催概要
名称:やんばるアートフェスティバル2024-2025 山原本然
主催:やんばる アートフェスティバル実行委員会
共催:大宜味村
期間:2025年1月18日(土)~2月24日(月・祝)
時間:メイン会場(大宜味村立旧塩屋小学校)11:00~17:00
※休館:毎週火曜・水曜、2月11日(火・祝)は開館
メイン会場入場料:一般 500円/沖縄県民 300円/高校生以下 無料
会場:沖縄県本島北部地域の各会場
【大宜味村】大宜味村立旧塩屋小学校、大宜味村喜如嘉保育所、やんばる酒造
【国頭村】オクマ プライベートビーチ&リゾート、辺土名商店街
【本部町】沖縄美ら海水族館(美ら海プラザ)
【名護市】オリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ、カヌチャリゾート、名護市民会館前アグー像
【サテライト会場】星野リゾートBEB5沖縄瀬良垣(恩納村)、ホテルアンテルーム那覇(那覇)
公式HP:https://yambaru-artfes.jp
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東京在住ライターで専門分野は文芸批評、アート、テクノロジーなど。007シリーズとセロニアス・モンクを愛する38歳。読書とハイキングが趣味。
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