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2024.8.16

「ラファエロの間」の見どころは?ヴァチカン美術館の代表作品解説

ヴァチカン美術館はイタリア・ローマのなかにあるヴァチカン市国の美術館です。カトリックの総本山であるヴァチカン市直属であり、キリスト教の歴史上もっとも重要なラファエロやミケランジェロの作品が展示されています。

Sanzio 01 cropped, Public domain, via Wikimedia Commons.

ヴァチカン美術館内の重要作品は独立した絵画・彫刻作品だけではなく、美術館施設(ヴァチカン宮殿)の内部に描かれた装飾も含まれます。この記事では、ヴァチカン美術館内部の「ラファエロの間」の壁画に焦点を当て、見どころと必見の3作品を紹介します!

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ラファエロの間 解説①『アテネの学堂』

"The School of Athens" by Raffaello Sanzio da Urbino , Public domain, via Wikimedia Commons.

『アテネの学堂』はいわずと知れた名作です。ラファエロの代表作の1つとしても知られ、作品の主題は古代ギリシャの哲学者たちです。

ラファエロが活躍した時代、つまりルネッサンス期には、古代哲学の再発見と再検討が進められました。それ以前の長い中世の時代、西洋世界ではこの世の唯一の哲学はキリスト教神学と考えられていた背景があります。ルネッサンス期には、「神中心」の世界の認識だけではなく「人間中心」の考え方も取り入れる動き(人文主義/ヒューマニズム)が盛んになりました。

そこでルネッサンスの知識人が目をつけたのが、キリスト教が誕生する以前の古代の哲学でした。とくに、古代ギリシャ哲学者のプラトンやアリストテレスの考え方は、またたく間に浸透していきます。

しかしローマはキリスト教の中心地。古代ギリシャ哲学がいかに優れていても、神を中心とした考え方を否定する哲学を容認するわけにはいきません。そこでローマにおけるルネッサンスの中心的な取り組みは、古代哲学とキリスト教の“すり合わせ”にありました。

神が絶対的な存在であることは変わらない。その大前提のもと、古代ギリシャ哲学を包括的にキリスト教の理解に取り込もうとしたのです。ヴァチカン美術館の壁画に古代ギリシャ哲学者を主題にした作品があるのはそのためです。

作品の中央でこちらに向かって歩いているのは、左がプラトン、右がアリストテレス。プラトンは天上世界のイデアを重視したため上を指さし、アリストテレスは地上の事象理解を重視したために地上に向けて手を広げています。

ラファエロは、古代の偉大な芸術家たちに、自分の身近な「天才たち」の姿を重ねました。ラファエロのモデルはダ・ヴィンチ、アリストテレスのモデルはミケランジェロです。

ラファエロの間 解説②『ペトロの開放』

Raphael - Deliverance of Saint Peter, Public domain, via Wikimedia Commons.

『ペトロの開放』もぜひ注目したい作品です。『アテネの学堂』が古代ギリシャに関連した主題であるのに対し、『ペトロの開放』は聖書に基づくキリスト教の主題です。

キリスト教信者の迫害のなかで投獄されてしまったペトロのもとに、天使があらわれ、聖なる力でペトロを救出します。全体の左側では、警備にあたっていたはずの兵士たちが眠ってしまっていた様子が描かれています。中央に描かれているのは牢獄でぐったりしているペトロに声をかける天使、右は檻の外に出た2人です。

ラファエロはこの作品で、「光の反射」の描き分けを成功させたと言われています。構図左側の兵士の鎧は、たいまつと月明かりの2つの光源で照らされていますね。月の光は青く広く、たいまつの光は赤く強く反射しています。

光の描き分けは、ルネッサンスからバロックにかけて絵画芸術における非常に重要なファクターとして発展していきました。17世紀以降にはカラヴァッジョのように見事な陰影を表現する画家は芸術家としての力量があるとみなされ、あえて暗い場面に強い光源を組み合わせる構図も流行しました。

ラファエロは「光の表現」の先駆けとして、『ペトロの開放』のなかでその鋭い観察眼と豊かな表現力を示したのですね。

ラファエロの間 解説③『大教皇レオとアッティラの会談』

Leoattila-Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons.

『大教皇レオとアッティラの会談』は、聖書や哲学のシーンではなく、歴史的な場面を主題にした作品です。452年、ローマはアッティラが率いるフン族に侵攻されてしまいます。しかし、当時の教皇レオ1世は、自らアッティラとの交渉に臨み説得に成功したと言われています。

ローマで教皇レオ1世と会見したのちアッティラが死亡したため、神の天罰がくだったと信じられました。このストーリーはキリスト教の宣教活動でもしばしば用いられることがあり、超人的な教皇の力を示す根拠になったそうです。

レオ1世はローマを守るために尽力したものの、武力による交戦を好まず、平和的な解決を目指しました。5世紀中ごろ、多くの異民族がローマを目指して南下するなか、話し合いによる解決を試みたレオ1世。その姿勢は平和的な教皇のイメージとして、後世にも語り継がれました。

作品のなかに描かれるレオ1世は、左で馬に乗っている黄色いマントの男性です。実はこの顔は、作品制作当時の教皇レオ10世のもの。同じ名前の偉大な教皇に扮し、自分の存在感をアピールするための政治的な作戦でした。

ヴァチカン美術館は見どころの多い場所ですが、ぜひ、ラファエロの間の壁画も見逃すことなくじっくり鑑賞してくださいね!以上、ラファエロの間の見どころ紹介でした。

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はな

はな

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

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