STUDY
2022.7.4
【ローマ在住者が紹介】ヴァチカン美術館で絶対外せない見どころ3つ解説
ヴァチカン美術館は、世界最小の独立国家ヴァチカン市国の中にある美術館です。
美術館では、ローマ・カトリック教会の芸術作品のコレクションや、ルネッサンスの巨匠が残した宮殿の装飾などを見ることができます。
ヴァチカン美術館(撮影:Ank Kumar), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
今回の記事では、ローマの大学院で美術史を専攻している筆者が、ヴァチカン美術館で絶対に見逃せない3つの作品について解説します。
1.ラオコーン
『ラオコーン』, Public domain, via Wikimedia Commons
ヴァチカン美術館は、ローマ・カトリックのトップである教皇の宮殿を利用して美術館が開設されており、キリスト教に関する作品が多く展示されています。
しかし展示の中には古代エジプトや古代ローマのものまであり、ローマ・カトリックのコレクションの豊かさを感じることができます。
カトリック教会ではルネッサンス以降、古代の偉大な文化を踏襲、超越してキリスト教が広まったという考え方がありました。
そのため、キリスト教に関係ない異教的な芸術作品もコレクションの一部として保管しているというわけです。
特に見逃せないのが、「ラオコーン」という古代ギリシアの大理石彫像です。
制作年はまだ紀元前160年頃から紀元前20年頃まで幅広い見解があり、1506年にネロ帝の黄金宮殿から発掘されました。
ルネッサンス最盛期のローマの芸術家やヒューマニストにとって、古代芸術の最高傑作にも近いこの作品が与えた影響は計り知れません。
大蛇に絡まれている三人の人物のうち、左の少年はすでにほぼ死亡した状態で、真ん中の男性は死と生の間、右の少年はまだ生きている状態で描かれています。
ルネッサンスの彫刻家であるミケランジェロは、この作品から多大な影響を受け、自身の作品にも構図や体のうねりを反映しました。
2.ラファエロの間
ラファエロ・サンティ『アテネの学堂』, Public domain, via Wikimedia Commons
ヴァチカン美術館は、教皇が居住する宮殿を美術館として利用している場所です。
16世紀にローマルネッサンスの興隆に大きく貢献した教皇ユリウス2世は、ラファエロやミケランジェロなどに宮殿の装飾を依頼しました。
『ラファエロの間』というのは、ラファエロがフレスコ画で装飾を行った宮殿内の部屋を指します。
「コンスタンティヌスの間 (伊: Sala di Costantino)」、「ヘリオドロスの間 (Stanza di Eliodoro)」、「署名の間 (Stanza della Segnatura)」、「ボルゴの火災の間 (Stanza dell'incendio del Borgo)」という4つのメインの部屋に分かれています。
ラファエルのフレスコ画の中には、『アテネの学堂』も含まれています。
ルネッサンス期に「発明」された遠近法を用い、より自然に人物を壁面に描くためのラファエロの挑戦が感じられる作品群です。
特に、壁画の中に描かれた建物は緻密な計算に則っており、当時流行でもあった古代風の建造物が精巧に表現されています。
3.システィーナ礼拝堂
システィーナ礼拝堂(撮影:BriYYZ from Toronto, Canada), CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
ヴァチカン美術館を訪れる人は誰もがこの礼拝堂を楽しみにしているのではないでしょうか。
教皇ユリウス2世の依頼により、ミケランジェロが描いた天井と祭壇壁画は、ルネッサンス美術の最高傑作のひとつです。
ミケランジェロは自身を「彫刻家」であると主張し続けており、天井画『創世記』を完成させたときにはフレスコ画の制作経験がなかったと言われています。
当時ミケランジェロのライバルでもあった建築家ブラマンテが、ひそかに作品の失敗とミケランジェロの失脚を狙い、ユリウス2世に推薦したそうです。
しかし、ブラマンテの予想に反し作品は歴史に残る傑作となり、結果的にミケランジェロの芸術家としての名声を特に高めることとなりました。
作品の完成を楽しみにしていたユリウス2世はミケランジェロに「いつ終わるか」と聞きた際、「わからない」と回答したことをきっかけに杖で叩かれたという逸話も残っています。
巨大な美術館、見どころたくさん
ヴァチカン美術館は作品の多さもさることながら、建物自体が教皇の宮殿であるため、歩き回るだけでも楽しい場所です。
作品をじっくり見るためにも、2~3時間ではなく、半日以上時間を確保しておくことをおすすめします。
時間がない人も、ここで紹介した3つは見逃すことがないようにしてくださいね。
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3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経て2021年秋よりイタリアの大学で美術史修士課程に進学予定。フリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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