STUDY
2024.10.10
奈良美智って?世界のコレクターを魅了し日本に逆輸入。彼の代表作を解剖!
みなさん、奈良美智(ならよしとも)ってご存知ですか?
キティちゃんのように二頭身の女の子が、おでこ全開、口をぎゅっと閉じて、こっちを睨んでいる絵をどこかでご覧になったことがあるのではないでしょうか。
はたまた、「あおもり犬」に代表される犬シリーズ。きっと名前を知らなくとも、「見たことある!」と既視感のある方も多いと思います。
目次
2021年11月のクリスティーズ香港, Public domain, via Wikimedia Commons
奈良美智は、1990年代後半からドイツ、ニューヨークで脚光を浴び、あっという間に世界の富裕層にファンが広がります。その富裕層たちが億単位の金額で彼の作品をオークションで落札。これが日本でニュースとなり、日本でも知名度が高まりました。
世界で先に認められ、後から日本人の知るところになったという。いわば、日本に逆輸入されたアーティストと言えるかもしれません。そんな、奈良美智の独創的な世界と、どうして世界で脚光を浴びたのかをご紹介します!
まずは作品をご紹介
奈良美智の代表作群では主に「幼女」と「犬」がモチーフになっています。一般的に「子ども」がテーマであると言われますが、男の子を描いた作品はほぼ皆無で、女の子ばかりです。そのため、「子ども」というより「幼女」がテーマと言ってもいいのかもしれません。
描く女の子の幼さから、パッと見ると純真無垢な存在に思えます…が、なぜかこちらをじっと睨んでいます。言葉が達者な年齢じゃないからこそ、表情から伺える怒りや狂気に、心を動かされてしまうのでしょうか。
《Knife Behind Back》(背中にナイフを隠す子ども)
2019年にサザビーズが香港で開催したオークションで、2,490万ドルで落札された話題作。
背景が何もなく、短髪で怒った表情をした少女。
タイトル通り、背中には小さなナイフを隠している設定です。この作品は、子どもらしさの中に潜む反抗心や内に秘めた怒りを表しており、無垢な存在に潜む暴力性と矛盾を感じさせます。
参考:No.YNF2602 - Knife Behind Back 2000 | YOSHITOMO NARA The Works - 奈良美智オンラインカタログレゾネ
《Cosmic Girl》
HK WCN ワンチャイノースオークションプレビュー展示品 2021年4月, Public domain, via Wikimedia Commons.
2008年にロンドンの個展で、限定500セットで販売された2種類のポスターです。同じ女の子が、目をぱっちりを開けているバージョンと、正面を向きながら静かに瞼を閉じているバージョンの2種類。
感情があるようでないようで、でも、澄んだ瞳に見透かされているようで、実に不思議な感覚になります。そして、瞼を閉じた女の子は、ただ閉じているだけなのに、なにか神聖な、犯してはいけない存在のような雰囲気すら感じます。
作品に対する解釈を観る側に委ねているかのような作風が(つまり自由に感じたままに解釈できる、みたいな)、魅力のひとつです。
《あおもり犬》
2021年香港展示会|奈良美智の犬シリーズの作品, Public domain, via Wikimedia Commons.
「あおもり犬」は青森県立美術館の設立と同時に展示された作品です。地下2階の吹き抜けの屋外に、下半身が地中に埋まっている巨大な白い犬。この作品を作る際に彼は、面白いストーリーを創りました。
【美術館建設のために工事を始めたら、巨大な犬の遺跡が発掘されたため、遺跡を壊さないように美術館を建て、現在も遺跡発掘中】というストーリーのようです。
青森県は縄文時代の遺跡「三内丸山遺跡」があります。青森県出身の奈良美智は、青森の文化をリスペクトしてストーリーを創ったのかもしれませんね。
奈良美智ってどんな生き方をしてきたの?
幼い少女や犬に何かのメッセージを語らせる、そんな作品を生み出し続けている奈良美智とは、どんな生い立ちだったのでしょうか? ざっと時系列に追ってみます。
1959年:青森県に生まれる。
1977年:青森県立高校卒業後、東京藝術大学美術学部絵画科に入学。
1985年:愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻 卒業。
1987年:愛知県立芸術大学大学院美術研究科修士課程 修了。
1988年:都独、ドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミー 留学
1993年:ドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミー 修了。
1990年代後半:ニューヨークやドイツで個展を開催。独特な少女像が注目を集め始める。
2000年:帰国
2000年代以降:世界的に評価が高まり、ニューヨーク近代美術館(MoMA)など、主要な美術館で個展を開催。
2011年:東日本大震災をきっかけに、被災地をテーマにした作品を発表。
現在も精力的に作品を発表。
こうして経歴を眺めてみると、奈良美智のターニングポイントは、やはり渡独かなと思います。歴史にifはありませんが、彼が日本に留まっていたら、もしかすると世界的な人気は遅れていたかもしれませんね。
また、奈良美智自身は、アートを通じて「子ども時代の自分」との対話を続けていると語っています。彼は子どもの頃から本や音楽に親しみ、特にパンクロックの影響を受けたことで、反骨精神や自由な表現への憧れを持ち続けてきました。
反骨精神って、その人の中の正義や、大切にしているものへの愛から来るとも言えますし、尽きぬ情熱を持ち続けなければ、反骨精神を維持することは難しいはず。そう考えると、奈良美智ってパワフルで愛の溢れる人なのでしょうね。
そして、骨の髄からロックな人なのかもしれません。製作中はロックやパンクロックをバックミュージックにかけているそうですよ。
世界で初めて評価された作品
2021年3月總統出席「奈良美智特展開幕記者會」, Public domain, via Wikimedia Commons.
奈良美智の作品が本格的に世界の舞台で認められるきっかけとなったのは、彼の代表作とも言える「睨みつける少女」のシリーズです。鋭い眼差しと対話的な表情を持つキャラクターを描いたキャンバス画で、1990年代後半のニューヨークでの展覧会を機に広く注目を集めました。
その後、2000年代初頭に開催されたアメリカ、ドイツ、日本などでの個展やグループ展を通じて、彼のスタイルが確立され、コレクターや評論家の関心を集めました。
世界のコレクターに大人気の理由とは?
奈良美智の作品がオークションで高額取引され始めたのは、2000年代中盤以降のことです。彼の作品が数十億円という高額で取引された背景には、いくつかの要因が絡んでいます。
1. 独自のスタイルと感情表現
奈良美智の作品は、可愛らしさとともに、どこか不穏な感情を含んだ女の子の姿を描いており、その「二面性」が特徴です。彼の描く幼女たちは、単なる可愛らしさではなく、強い反抗心や不安感、孤独感といった複雑な感情を表現しており、これが他のアーティストの作風とは一線を画しています。
これらの作品は、見る者に普遍的な人間の感情を思い起こさせると同時に、鑑賞者自身の内面と向き合わせる力を持っています。このような「シンプルだが奥深い感情表現」が、富裕層やアートコレクターに高く評価された理由のひとつです。
2. サブカルチャーと現代アートの融合
奈良美智は、日本のポップカルチャーやマンガ、アニメといったサブカルチャーの要素を取り入れながらも、深いメッセージ性と普遍的なテーマを作品に織り込みました。特に、パンクロックや音楽からの影響を受けて育った彼は、アートと大衆文化の境界を曖昧にし、独自の表現領域を築き上げました。
これが、単なる「日本的なポップアート」ではなく、「文化的価値の高い現代アート作品」として、世界のコレクターに評価された所以でもあります。
3. アジアからの新しいアーティストとしての登場
奈良美智が評価され始めた1990年代から2000年代は、アジアのアーティストが次々と国際舞台で評価を受け始めた時期でもあります。彼の登場は、草間彌生や村上隆と同様に「新しい日本のアーティスト」として注目を集め、西洋のアート市場における「アジアの新しい表現」の象徴的存在となりました。
特に、富裕層のコレクターにとって「日本文化の独特さ」や「アジア的な価値観」を内包する彼の作品は、単に美術的な評価だけでなく、投資対象としても魅力的に映りました。
4. 希少価値とオークションマーケットの影響
アート作品の価格は人気や評価のほか、オークションマーケットの需要と供給のバランスにも大きく依存します。奈良美智は当初、作品数が多くなく、人気高騰につれて希少性が高くなりました。そのため、限られた数のキャンバス作品が市場に出ると、競り合いが起こり、結果的に価格が急騰することがありました。
日本の美術品オークション落札記録(2020年2月現在)で、奈良美智は存命日本人作家として1位と3位にランクインしています。ちなみに、1位はさきほどご紹介した「背中にナイフを隠す子ども」です。
日本、東京で奈良美智の作品を見よう!(美術館情報)
奈良美智の作品は日本各地の美術館や施設に収蔵、常設されています。
ぜひ足を運んでみてくださいね!
いつでも奈良美智作品に会える美術館
青森県:青森県立美術館
収蔵数が最も多く、ここでしか出会えない作品も多数あります。
青森県:十和田市現代美術館
建物の外壁に描かれた「夜露死苦ガール」が観られます!
栃木県:N’s YARD
奈良美智といったらここ! 彼の作品を中心に現代アート作品を展示している美術館です。屋外には、とんがり頭の女の子の彫刻「Miss Forest」が常設されています。
大分県:COMICO ART MUSEUM YUFUIN
湯布院の山々をバックに白い犬が踏ん張って立っています!
東京都:麻布台ヒルズ
東京では初!野外彫刻「東京の森の子」が見られます♪
奈良美智を取り上げ、収蔵している美術館
屋外作品はないようなので、訪れる前に一度確認してみてくださいね。
北海道:弘前れんが倉庫美術館
2025年3月9日までH-MOCAコレクションにて、奈良美智の犬の作品展示中!
群馬県:原美術館ARC
こちらも彼の作品が多く収蔵されています。彼の製作過程を追従できるかも⁉︎
収蔵しているが展示されているか要確認の美術館
数点から20点以上収蔵されている美術館です。展示されているかは足を運ぶ前に確認してください。(順番は収蔵数の多い順)
静岡県:ベルナール・ビュフェ美術館
愛知県:豊田市美術館
北海道:札幌宮の森美術館(MIMAS)
東京都:町田市立国際版画美術館
東京都:東京オペラシティアートギャラリー
石川県:金沢21世紀美術館
広島県:広島市現代美術館
まとめ
今回、初めてイロハニアートで奈良美智をピックアップしましたが、いかがでしたか?
はじめて知ったよという人も、既視感ある人も、もう知ってるよという人も、純粋なる作品紹介とは別角度の切り口を楽しんでいただけたでしょうか。
彼をニュースで知ったのは、かれこれ20年くらい前。そう、めっちゃ高い落札金額、世界の富裕層コレクターがこぞって欲しがる現象。あの幼子の瞳にどれだけの価値が内包しているのか……、とびっくりしたことを鮮明に覚えています。
当時は、「ふーん」としか思わなかったのですが、改めて彼の作品をじっくり鑑賞した今回、世界中の人が惹かれる理由がわかった気がしました。
観るものの中に存在しているにも関わらず隠している、怒り、不安、哀しみ、絶望……。そんなものを作品の女の子たちは抱えているのかな、なんて感じるところに共感が生まれるのかもしれませんね。
睨む子も、目を潤ませる子も、表情がわからない犬も、どれも愛おしく。
それでいて投資価値も高く。
本当に面白い作品ですね。
あなたはどう感じましたか?
ぜひ、記事末の美術館情報をもとに、生の奈良美智作品に会いに行ってください!
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建築出身のコピーライター、エディター。アートをそのまま楽しむのも好きだが、作品誕生の背景(社会的背景、作者の人生や思想、作品の意図…)の探究に楽しさを感じるタイプ。イロハニアートでは、アートの魅力を多角的にお届けできるよう、楽しみながら奮闘中。その他、企業理念策定、ブランディングブックなども手がける。
建築出身のコピーライター、エディター。アートをそのまま楽しむのも好きだが、作品誕生の背景(社会的背景、作者の人生や思想、作品の意図…)の探究に楽しさを感じるタイプ。イロハニアートでは、アートの魅力を多角的にお届けできるよう、楽しみながら奮闘中。その他、企業理念策定、ブランディングブックなども手がける。
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