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STUDY

2024.12.11

注目の建築家ユニット「大西麻貴+百田有希 / o+h」—循環の中で生きる建築

「大西麻貴+百田有希 / o+h」は、近年注目を集めている若手建築家ユニットです。
2023年には、日本建築学会賞を受賞したり、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館のキュレーションを務めたりと、国内外で高く評価されています。

TOTOギャラリー・間「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」展示風景

一見するとアート作品にも思える「大西麻貴+百田有希 / o+h」の建築。筆者は、TOTOギャラリー・間で開催された展覧会「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」を訪れ、「まるで物語に出てくる家のようだ」と感じました。

しかし、彼らの作品を通して見えてきたのは、ファンタジーというよりも、人々と建築の豊かな関係性の物語です。「生き物のような建築」「それぞれのかけがえのなさを讃える」など、彼らの言葉が綴られた展示キャプションを読み、その思想に触れることができました。

この記事では、展覧会の作品を中心に「大西麻貴+百田有希 / o+h」の建築を紹介し、彼らの思想を紐解きます。

「大西麻貴+百田有希 / o+h」とは?

TOTOギャラリー・間「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」展示風景

「大西麻貴+百田有希 / o+h」は、建築家の大西と百田が、2008年より共同主宰している建築設計事務所です。住宅やオフィスのほか、公共空間や福祉施設など、様々な建築を手がけています。

日本建築学会賞やBCS賞をはじめ多数の受賞歴があり、高い評価を受けている「大西麻貴+百田有希 / o+h」。彼らの作品が注目される背景には、その土地に住む人々や周囲の環境と丁寧に向き合うプロセスがあると言えます。

《千ヶ滝の別荘》(2005年)

たとえば、最初期の作品《千ヶ滝の別荘》(2005年)は、「生き物のような佇まい」をテーマに創作されました。
おとぎ話から出てきたかのような住居は、森の動物のように「自然に佇む建築」という構想から生まれました。

(参考)千ヶ滝の別荘

「自然に佇む」という考え方は、建築を循環の一部と捉える「大西麻貴+百田有希 / o+h」ならではの発想だと言えるでしょう。

TOTOギャラリー・間「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」ポスター(画像提供:TOTOギャラリー・間)

循環というテーマは、「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」のポスターにも表現されています。

ポスターには、雲ができて雨が降り、水が循環して生き物や大地の栄養となる様子が描かれています。そこに住む人々は、集まって村を作ったり、道を辿って旅をしたりしています。とりわけ特徴的なのは、中央にある赤い屋根の家です。

人々が憩う場所として機能しながらも、自然と共存しています。建築は大きな循環の一部であり、それ自体も生きているという思想が表れています。

「大西麻貴+百田有希 / o+h」の代表作は、障害のある人とともに社会に新しい仕事を作り出す場《Good Job! センター香芝》や、すべての子どもたちに開かれた遊び場《シェルターインクルーシブプレイス コパル》などです。

これらの作品からは、自然や人間の営みに対する彼らの考え方をうかがうことができます。

続いて、彼らの作品を3つのポイントで紹介し、ユニークな建築の背景にどのような理念があるのか、詳しく解説します。

「大西麻貴+百田有希 / o+h」の作品① 生き物のような建築

《称名寺 鐘撞堂》(広島県呉市、2019年)

「大西麻貴+百田有希 / o+h」の思想を紐解く手がかりとして、彼らのテーマのひとつである「生き物のような建築」について見ていきましょう。

作品集『愛される建築を目指して』には、こんな言葉が書かれています。

私たちがよいと感じる建築は、ただそこに「ある」というよりは「いる」。そんな風に、まるで自らの意志でそこに佇んでいるような建築であることが多い。
引用元:大西麻貴+百田有希 / o+h『愛される建築を目指して』TOTO出版、2024年、p.75.

これは、《称名寺 鐘撞堂》(広島県呉市、2019年)について書かれた文章です。《称名寺 鐘撞堂》は彫刻のようにも見えますが、温かみのある素材やフォルムからは、環境との調和を感じられます。

温かみを感じる理由として、屋根の仕上げを手作業で行ったことが挙げられます。呉工業高等専門学校の生徒たちや職人とともに、杉皮を1枚ずつ手で切り、貼り重ねて制作したそうです。

展示会場に描かれた壁画《称名寺 鐘撞堂》(壁画の一部)

また、称名寺の歴史を辿り、鐘撞堂の設計に反映するプロセスを経て、地域に根ざした場所になっていったと言えます。
「大西麻貴+百田有希 / o+h」は、かつて海辺の山の頂にあったという寺の歴史に着目しました。
そして、鐘の音色がまちから海へと届くように意識し、鐘撞堂を建てたそうです。

寺の歴史を今につなぎ、地域の人々と豊かな関係を築くことで、その土地に自然に存在する建築が生まれたのです。

(参考)称名寺 鐘撞堂

「大西麻貴+百田有希 / o+h」の作品② インクルーシブな建築

《Good Job! センター香芝》(奈良県香芝市、2016年)

次は、インクルーシブの視点から「大西麻貴+百田有希 / o+h」の作品を見ていきます。インクルーシブとは、「すべてを包括する、包み込む」という意味です。人種や性別、障害の有無など、異なる背景や特性を持つ人々が、お互いを認め合いともに生きることを指します。

彼らのインクルーシブに対する考え方は、《Good Job! センター香芝》(奈良県香芝市、2016年)から学ぶことができます。

《Good Job! センター香芝》は、障害のある人とともに、社会に新しい仕事を作ることを目指す場所です。

「大西麻貴+百田有希 / o+h」は、インクルーシブな社会に向けてどのような建築を生み出せるかを試行錯誤した結果、千鳥状の壁で空間を構成しました。壁を様々な大きさで製作し、配置にも工夫を凝らして、あちこちに居場所を作ったのです。

《Good Job! センター香芝》(奈良県香芝市、2016年)

障害の有無に関わらず、私たちにはそれぞれ個性があり、「どんな風に過ごしたいか」もその日によって異なります。そこで、建物や部屋の用途をあえて規定せず、色々な使い方をしたり、気分によって場所を選んだりできるようにしたそうです。

「大西麻貴+百田有希 / o+h」は、施設のメンバーやスタッフと対話し、アイデアを積極的に受け入れました。彼らの思想のひとつである「それぞれのかけがえのなさを讃える」というテーマは、《Good Job! センター香芝》での取り組みを通して形成されたそうです。

一人一人に向き合う姿勢は、次に紹介する「ともにつくり育てる建築」にもつながっています。

(参考)Good Job! センター香芝

「大西麻貴+百田有希 / o+h」の作品③ ともにつくり育てる建築

《シェルターインクルーシブプレイス コパル》(山形県、2022年)

「大西麻貴+百田有希 / o+h」はインクルーシブな場を目指す過程で、「ひとつのことに多重の意味を見出す」という方法を考えました。

すべての子どもたちに開かれた遊び場《シェルターインクルーシブプレイス コパル》(山形県、2022年、以下《コパル》)は、彼らの思想が形になった場所だと言えるでしょう。

この施設の特徴は、体育館と大型遊戯場がスロープでつながり、建物全体を回遊できる点です。スロープは、車椅子の方や歩きづらい方の通行を補助する役割を持っていますが、子どもたちが駆け上りたくなる坂道でもあります。

利用者がどのように使うか、どんな風に楽しめるかを考えていくと、本来の機能を超えた様々な使い方が見えてくるのです。

《シェルターインクルーシブプレイス コパル》の資料(山形県、2022年)

また、《コパル》のもうひとつの特徴として、施設に関わる人々や住民とともに場の在り方を考えた点が挙げられます。

この施設はPFIの仕組みに則り、計画されました。「PFI」とは、地方公共団体が発注者となり、民間が公共施設の設計・建設から運営までを担う手法です。

《コパル》は、設計の初期段階から、施工者、運営者、維持管理者、設計者がチームとなり計画が進められました。《コパル》がどんな場所になると良いかを話し合い、案を育てていったそうです。

会議には、地域の学校の先生や住民も参加しました。多くの人々と作った《コパル》は、独立した存在ではなく、地域の課題を解決する場として機能しています。

誰にでも開かれた場を作る際、ひとつの課題に対していくつものアプローチが生まれたのは、「大西麻貴+百田有希 / o+h」が多くの人々とともに建築をつくり育てたからだと言えるでしょう。

特定の課題を解決するだけでなく、いかに広げていくかを探る姿勢がインクルーシブにつながっているのです。

(参考)シェルターインクルーシブプレイス コパル

まとめ

TOTOギャラリー・間「大西麻貴+百田有希 / o+h展:⽣きた全体――A Living Whole」展示風景。「大西麻貴+百田有希 / o+h」の「頭の中」を再現したインスタレーション。

「大西麻貴+百田有希 / o+h」の建築は、単体で成り立つのではなく、周囲の環境やそこに住まう人々と豊かな関係を築いていることが分かりました。

この記事では「大西麻貴+百田有希 / o+h」の作品と思想を解説しましたが、根底には「建築を循環の一部と捉える」という考え方があると感じます。

施設を利用する一人一人がどのように過ごすのか、建設地にはどんな歴史や特徴があるのかを丁寧に思考することで、大きな循環の一部として建物が生き続けるのでしょう。

また、彼らのインクルーシブへの関わり方は、お互いを尊重し合う社会に向かう中で、重要な指針となります。「大西麻貴+百田有希 / o+h」の活動は、誰もが過ごしやすい場を創出する取り組みとして、今後も注目されるでしょう。

《シェルターインクルーシブプレイス コパル》や《Good Job! センター香芝》など、見学が可能な施設もありますので、ご興味を持った方はぜひ訪れてみてください。
※見学には、条件があったり申し込みが必要だったりする場合がありますので、施設の公式サイトをご確認ください。

《参考》

・大西麻貴+百田有希 / o+h『愛される建築を目指して』TOTO出版、2024年
(書影画像提供:TOTO出版)

・大西麻貴+百田有希 / o+h 公式サイト

【写真12枚】注目の建築家ユニット「大西麻貴+百田有希 / o+h」—循環の中で生きる建築 を詳しく見る
浜田夏実

浜田夏実

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

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