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2024.12.24

江戸末期に活躍した浮世絵師、歌川国芳の生涯とは?作品の特徴と魅力を解説!

江戸時代後期の浮世絵師、歌川国芳(うたがわ くによし。1797~1861年)は、多才さと独創性で他の浮世絵師とは一線を画しました。国芳は武者絵、戯画、風景画、美人画、歴史画などの幅広いジャンルで傑作を生み出します。この記事では国芳の生涯とともに作品の特徴を紹介し、多面的な魅力に迫ります。

『八犬伝之内芳流閣』, Public domain, via Wikimedia Commons.

歌川国芳の生涯①:遅咲きだった国芳。下積み時代が長く続く

1797年(寛政9年)、江戸日本橋の染物屋の家に生まれた国芳。幼い頃から絵に秀でていた国芳は、12歳の時に描いた鍾馗の絵が初代歌川豊国の目に偶然とまると、それをきっかけに15歳にして豊国に入門します。

そして国芳は兄弟子の国直の家に居候をして、挿絵などを描きますが、いくつかの作品を単発的に出すものの、人々の注目を浴びることはありませんでした。

『平知盛亡霊の図』, Public domain, via Wikimedia Commons.

若い国芳が「採芳舎」という落款を用いて制作した作品は、現在5点ほど確認されていて、いずれも兄弟子である国直の影響が見られます。そうした中で国芳は徐々に腕を上げ、後にヒット作となった水滸伝の連作を思わせる『隠岐次郎広有』や、初期の話題作である『平知盛亡霊の図』や『大山石尊良弁滝之図』を生み出すのです。

歌川国芳の生涯②:「水滸伝」の英雄を描いて一躍人気浮世絵師に!

遅咲きの国芳が一躍、浮世絵界のスターダムにのしあがったのは、30歳を過ぎてからのことでした。版元の加賀屋によって国芳は、当時、流行していた中国の『水滸伝』の大判錦絵シリーズを手掛けると大ヒット。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

一人一人の豪傑を迫力満点の構図にて描いた『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』が好評を博し、人気浮世絵師の地位を得るのです。

『山海めて度図会・つづきが見たい』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

また武者絵だけでなく、江戸のさまざまな女性をモチーフとした美人画や、洋風の様式を導入した風景版画も描くなど、他のジャンルの浮世絵も旺盛に制作します。「貪欲な好奇心を持って何でも巧みに描き分ける」。これが国芳の強みでした。

歌川国芳の生涯③:「判じ物」にて江戸の人々の心を掴む。猫も多数登場!

41歳にして結婚し、ますます画業に磨きをかけていく国芳は、浮世絵師の中で最も多くの門人を抱えていたと言われるほど、人柄や仕事を慕ってたくさんの弟子が集まりました。

1838年(天保9年)に幕府によって倹約令が発令。さらに水野忠邦によって天保の改革が始まった後、1842年(天保13年)には役者や遊女の錦絵を描くことを禁じられ、人情本の出版が制限されるなど、次第に表現に対して統制が厳しくなります。

『源頼光公館土蜘作妖怪圖』, Public domain, via Wikimedia Commons.

国芳も『源頼光公館土蜘作妖怪図』が天保の改革を風刺したと噂され、大変な話題となったため、版元が危険を感じて、版木を自ら処分します。

しかしそれでも、人物や言葉などを直接関係のない絵や文字で表し、そこに隠した意味を当てさせようとする「判じ物」と呼ばれる作品を多く制作するなど、戯画の手法を借りた風刺画にて江戸の人々の心を夢中にさせました。

国芳が「判じ物」でも得意としたのが動物を描いた作品です。『里すゞめねぐらの仮宿』とは遊女絵が禁じられる中、吉原の賑わいを、すずめを擬人化させて描いたもの。また部類の猫好きで、常に周囲に数匹から数十匹の猫がいたという国芳は、戯画、役者絵、美人画などのさまざまなジャンルの作品に猫を登場させます。

『猫のすゞみ』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

そして猫は人気の役者に扮したり、遊郭の客になったりするなど、人間顔負けの活躍を見せるのです。

歌川国芳の生涯④:大画面の浮世絵で新機軸を打ち出す

『宮本武蔵の鯨退治』, Public domain, via Wikimedia Commons.

国芳が新たに切り開いた表現として挙げられるのが、1つの主題を3枚続きの大画面に連ねて描く手法でした。

従来の3枚続きの浮世絵は、1枚ずつ独立して鑑賞できるようになっていましたが、国芳は3枚にわたってパノラマ的に表現。巨大な鯨に立ち向かう小さな武蔵を対比的に描いた『宮本武蔵と巨鯨』といった、圧倒的な迫力を持つ作品を生み出します。また『那智の滝の文覚』など、かつてない縦3枚続きのサイズも得意としました。

国芳は59歳の時に一度倒れたものの、小康を取り戻して再び制作。6枚続きにも及ぶ『四条縄手の戦い》など描きますが、1861年(文久元年)、65歳にて世を去りました。

歌川国芳作品の特徴と代表作とは?

1 武者絵と歴史画

国芳の代表的なジャンルは何と言っても武者絵です。迫力のある構図や、登場人物のダイナミックな動きが特徴で、物語の臨場感を伝えます。

『源平八嶋大合戦』 天保年間

『源平八嶋大合戦』, Public domain, via Wikimedia Commons.

荒れ狂うような波の上で戦う武士の姿が、躍動感の溢れる構図にて描かれています。中央では義経が源氏の船から、大勢の敵に囲まれている弁慶の乗った大きな船に飛び移ろうとしています。

『宮本武蔵と巨鯨』 1847年(弘化4年)~1850年(嘉永3年)頃

宮本武蔵が巨大な鯨に立ち向かう鯨退治の伝説を、3枚続きの画面いっぱいに描いた作品です。実在と空想とが融合するような描写に、国芳の豊かな想像力を見ることができます。

2 戯画と風刺

国芳は、当時の社会や政治を巧妙に風刺した作品を多く手がけました。また幕府の検閲をかわすため、動物や風景に風刺を込める工夫が見られます。

『其まま地口猫飼好五十三疋』 嘉永初期

『其まま地口猫飼好五十三疋』, Public domain, via Wikimedia Commons.

東海道五十三次を猫で表現したシリーズです。それぞれの宿場が愛嬌のある猫に見立てられて、見る者を和ませます。なお題名の「地口」とは語呂合わせを意味していて、たとえば日本橋は煮物の出汁と鰹節2本の「二本だし」と書かれています。

『里すゞめねぐらの仮宿』 1846年(弘化3年)

火災で被害を受けた吉原の仮営業所での賑わいをすずめの擬人化によって表しています。すずめの可愛らしくも、まるで人間のような生き生きとした表情が印象に残ります。

『金魚づくし 玉や玉や』 天保後期

『金魚づくし・玉や玉や』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

擬人化された金魚たちがさまざまな動作をするシリーズで、ここでは江戸時代の子どもたちに人気のあったシャボン玉売りの様子が描かれています。

3 妖怪・奇想画

国芳の奇想的な作品は、妖怪や伝説を題材にしたものが多く、独創的な構図と恐ろしさを兼ね備えています。

『源頼光公館土蜘作妖怪図』 1843年(天保14年)

病床の頼光と四天王の背後で土蜘蛛が現れ、魑魅魍魎の妖怪たちが群れる光景が広がっています。当時、この作品が天保の改革を批判した風刺画であるとの噂が広がると、人々は病床の頼光を将軍の徳川家慶、また四天王の一人である卜部季武を老中の水野忠邦、そして妖怪たちを改革に反発する庶民を指していると想像しました。

『相馬の古内裏』 弘化期

『相馬の古内裏』, Public domain, via Wikimedia Commons.

映画のワンシーンのように劇的でかつ、極めてインパクトのある作品です。山東京伝の読本より取材したもので、大宅太郎光国と妖術を用いる滝夜叉姫が対決する場面を描いています。巨大な骸骨は旧来の浮世絵の一般的な描写よりもかなりリアルなのも特徴です。

4 風景画と自然描写

国芳は風景画にも挑戦し、大胆な構図にて自然の力強さを表現しました。

『東都名所 三ツ股の図』 天保初期

『東都 三ツ股の図』 , Public domain, via Wikimedia Commons.

隅田川の下流、三ツ股を描いた作品で、右手奥には永代橋が架かる光景が広がっています。左手後方に2本の高い建造物が見られ、そのうちの1つが「東京スカイツリーを予言するような建物」として話題になりましたが、現在では井戸掘り櫓だとする説が有力となっています。

『近江お兼』 天保前期

『近江の国の勇婦於兼』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

近江国海津の宿場で怪力を持っていたという女性を取り上げた作品です。お兼が純和風の女性として描かれているのに対し、暴れ馬は明らかに西洋風。ニューホフの『東西海陸紀行』を引用しているという指摘もなされています。

国芳の魅力とは?展覧会情報も!

『鼠よけの猫』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

国芳の魅力は、多才さと自由な発想にあります。国芳は当時の浮世絵の伝統に挑戦し、ユーモアや奇想を織り交ぜた斬新な表現を次々と生み出しました。これによって浮世絵の可能性を大きく広げ、多くの門人らを通して後世の浮世絵師にも多くの影響を与えました。その系譜は最後の浮世絵師と呼ばれた月岡芳年や河鍋暁斎らにも受け継がれています。

『人かたまつて人になる』, 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム.

また庶民の視点に基づく作品づくりは、現代でも浮世絵ファンだけでなく、漫画家やクリエイターに国芳好きが多いなど、時代を超えて人々の共感を呼んでいます。作品の中には、時に単なる娯楽を超え、社会への批評精神や人生への深い洞察が込められているのです。

【国芳の作品が展示される展覧会】(2025年上半期まで開催予定)

『歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力』 大阪中之島美術館
開催期間:2024年12月21日(土)~2025年2月24日(月・休)

『時代を映す錦絵ー浮世絵師が描いた幕末・明治ー』 国立歴史民俗博物館
開催期間:2025年3月25日(火)~5月6日(火・休)

国芳の作品世界に触れることで、浮世絵という枠を超えた芸術の深さと広がりを改めて感じることができるでしょう。

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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