Facebook X Instagram Youtube

STUDY

2024.12.25

アートは儲かる?世界を取り巻くアート市場について現代美術家が解説

アートマーケットに欠かせないお金の話。「あの作品がいくらで売れた」というニュースはいろんなところで目にしますよね。先日もあのM.カテランの《Comedian》というバナナの作品が約9億円で落札されたことが大きなニュースになっていました。

今回はそんなアートにまつわるお金のイロハをお話しします。

“アートとお金” のプライマリーとセカンダリー

by O-DAN - Cross-searching for high-quality free stock photo site

まずアートマーケットの中で、作品の扱いが大きく分けて二つあります。それが「プライマリーマーケット」と「セカンダリーマーケット」。英語のそのままの意味ですが、第一次販売がプライマリー。そして二次販売がセカンダリーのこと。

分かりやすくいうと、現存作家のギャラリーでの展示などがプライマリーで、オークションなどがセカンダリーです。

多くの場合、現存作家(存命作家)の展示であることがほとんどで、間に入るギャラリーや百貨店などの場所で「作家から作品を購入する」のがプライマリー。

作家とギャラリーの関係や契約内容にもちろんよるところが大きいですが、ギャラリー展示では、販売価格の一部をマージンとしてギャラリーに支払うことが一般的です。
セカンダリーの多くはオークションでの販売が多いように思います。有名どころではサザビーズやクリスティーズなど。日本ではSBIオークション、毎日オークションなど美術作品を扱うオークションが存在します。

これはピカソやウォーホルなど、もうすでに亡くなった、教科書に出てきそうな有名な作家の作品なんかも購入することができます。

オークションで買える作品は一般的に「西洋絵画」などの名前で括られていて、日本では浮世絵や水墨画など、「古美術」という名前が当てられています。もちろん壺や茶器などもありますね。
セカンダリーというのは転売であることが多く、この仕組みが「アートが投資の対象になる理由」です。

過去の有名な作家の作品というのはもちろんですが、現存の作家でもオークションに出てきます。例えば日本でも、既に有名な20代の若い作家の作品でも、数百万円でオークションに出てきている作家は何人もいます。

あまり良いことではありませんが、去年制作された作品がもう今年オークションに出品されることだってあります。これはプライマリーの段階で、もう転売目的の購入であったことが丸わかりで、作家にとってはあまりいいことではありません。

上記の極端な転売は例外として、5年10年前の作品がオークションに出てくるということは、作家にとってある意味名誉なことでもあります。なぜかと言えばそれだけ知名度があって、入札され値段が競われるほどの資産価値、美術作品としての価値が見込まれているということの裏付けでもあるからです。
これまでセカンダリーは作家にとってあまり良いものとしてはされてきませんでした。なぜならプレミア値がどれ位ついたとしても、作家には1円も入らなかったからです。

つまり資産として転売した人だけが儲かる仕組みだったからです。ですが近年ヨーロッパを中心に現存作家(もしくは遺族)にもいくらかのパーセンテージが入るような仕組みを導入する法整備も進んでいます。(参照: It’s Not That Easy: Artist Resale Royalty Rights and The ART Act

世界のアートマーケット

by O-DAN - Cross-searching for high-quality free stock photo site

有名なアートフェアは世界中にありますが、一番知名度があり最高峰との評価もあるアートフェアがスイス・バーゼルのArtBaselです。通称バーゼル・バーゼル。

アートフェアというのは、世界中のギャラリーが各ブースで作品を販売するイベントのこと。冒頭のカテランのバナナの作品は、このArtBaselのアメリカ・マイアミビーチで行われる通称バーゼル・マイアミで販売されました。ArtBaselは他にも香港とパリがあります。アートフェアは現代美術だけではなく、もちろんセカンダリーの作品も売買される場です。

そんなArtBaselとスイスの銀行UBSとの共同で、世界中のアートマーケットの市場調査が発表されています。(参照:The Art Basel & UBS Survey of Global Collecting 2024

これによると、2023年の世界美術品市場の規模は650億ドル(約9兆7000億円) 市場の割合はアメリカが42%、中国が19%、UKが17%。そのあとはヨーロッパ諸国が続き、日本はわずか1%。

日本のアートマーケットの小ささが、数字で見るとはっきりとわかります。しかし、世界的にアートマーケットは、コロナ渦を除いて見ると右肩傾向にあり、これは日本も同様です。

大きい額の話だけに目が向けられる傾向にありますが、低価格帯の作品だとしても、もっと購入者が増え、アートマーケット全体が盛り上がっていくことが大切だと感じます。

国からの支援

by O-DAN - Cross-searching for high-quality free stock photo site

美術は国にとっても重要な文化資産として存在しています。そして日本にもその文化を取り扱う「文化庁」が存在しており、国の国家予算にこの文化に対する費用が割り当てられています。

今年2024年は防衛費が6兆7880億円と過去最大であったことが話題にも上りました。そして文部科学省所管の一般会計予算は5兆2941億円。このうち、文化芸術に関わる文化庁の予算は1076億円でした。一般会計予算全体のわずか0.1%です。

この内訳はさらに見ると、ほとんどの額は文化財の保護や修繕などに充てられていて、現代美術の分野にはわずかな額面しか回っていないことが分かります。
「新進芸術家の海外研修」「未来のトップアーティスト等の国際的活動支援事業」「我が国のアートのグローバル展開推進事業」などの項目がありますが、どれも1億円から2億円ほどの額しか割り当てがありません。

さてこの1076億円、そして一般会計予算の0.1%という数字がどのくらいなのか、皆さんご存じでしょうか。
世界的に見て日本の予算金0.1%というのはとてもとても低い数字です。アメリカの国家予算も大きくはありませんが、実はアメリカは寄付金の額がとてつもない額になっていて、毎年20兆円を超すような寄付金があります。文化への寄付金だけを見ても1兆円は超えるようです。(参照:欧米と日本を隔てる「芸術文化」…国家予算の差は歴然!?

注目すべきは韓国。ご存じの方も多いと思いますが、日本と比較して人口は半数以下、面積は4分の1、名目GDPも2倍以上の差がある韓国は、文化予算を日本に対して額面にして3倍以上、国家予算割合で見れば11倍の差があります。

ソウルは特に世界中のアートマーケットからも注目度は上がり、国内で有名なアートフェア「Kiaf Soul」を筆頭に、ArtBaselと並ぶUK発のアートフェア「Frieze」は「Frieze Soul」を2022年からスタートさせました。ギャラリーの数も増え、世界中からソウルに足を運ぶアートコレクターが年々増加しています。

「お金」で回る「アート」の世界?

by O-DAN - Cross-searching for high-quality free stock photo site

ここまでアートにまつわるお金の話をしてきました。数万円から数百億円まで、美術作品というのはプライマリーとセカンダリーによっても、値段は様々ではあります。

もちろん通貨市場、資本主義の性質上、作品の価値は値段に置き換わりやすいのは事実です。ですが作品の価値というのは必ずしも値段で決まるものではありません。

つい国単位や大きな額面で見てしまうことが多いですが、何よりも大切なことはみなさんが美術に、アートにどれくらい興味を持っているのかということだと思います。そしてその価値を理解して、お金を出すということでアーティストは支えられています。

ぜひ作品を観に、美術館やギャラリーに足を運んでみてください。そして最初のスタートは数千円でも、数万円の作品でも良いので、身近な作家の作品をぜひ購入してみてください。少しずつアートマーケットがそうして盛り上がることで、結果的には国家予算へと大きな話に繋がっていきます。

日本のアートシーンが世界で注目されるようになりますように!

【写真4枚】アートは儲かる?世界を取り巻くアート市場について現代美術家が解説 を詳しく見る
Masaki Hagino

Masaki Hagino

  • instagram
  • twitter
  • note
  • homepage

Contemporary Artist / 現代美術家。 Diploma(MA) at Burg Giebichenstein University of Arts Halle(2019、ドイツ)現在は日本とドイツを中心に世界中で活動を行う。

Contemporary Artist / 現代美術家。 Diploma(MA) at Burg Giebichenstein University of Arts Halle(2019、ドイツ)現在は日本とドイツを中心に世界中で活動を行う。

Masaki Haginoさんの記事一覧はこちら