STUDY
2025.1.2
茶道具とは?種類や日本美術である主な文化財を解説!
日本の伝統文化である茶の湯や茶道。その中で用いられる茶道具は、単なる道具を超えて、日本人の美意識と精神性を体現する芸術品です。実際に美術館や博物館で、「茶道具」というジャンルでお茶碗や掛軸などを見たことがある人もいるのではないでしょうか。
本記事では、茶道具の種類や役割、そして主な文化財までをやさしく解説します。日本美術の初心者の方も、この機会に茶道具の魅力に触れてみましょう。
目次
(左から)黒軸釜/瀬戸唐津茶碗/茶入 銘 山陰/藻掛芋頭水指, Public domain, via Wikimedia Commons.
茶道具とは
黒織部沓形茶碗, Public domain, via Wikimedia Commons.
茶道具(ちゃどうぐ)とは、茶道で使われる道具のことです。抹茶を点てて飲むために使われるものから茶室を飾るものまで、さまざまな種類があります。
その歴史は古く、平安時代に中国から喫茶の習慣とともに道具も伝わったのが始まりといわれています。やがて室町時代には足利将軍家で中国から輸入した唐物が収集され、それらは現在では東山御物(ひがしやまごもつ)として知られるようになりました。
戦国時代にはさらに発展し、特に千利休は、わび(侘び)とさび(寂び)の美意識を茶道に取り入れ、素朴で簡素な茶道具を好んだことで知られています。近世以降もさまざまな茶人が登場して独自のスタイルを広め、その文化を発展させていきました。
茶道具の種類
茶席には多くの道具が用いられ、日本工芸の重要な部分を担っています。道具一式の一覧表をもとに、まずは名称とその役割を見てみましょう。
道具の名称 | 読み方 | 特徴・役割 |
蓋置 | ふたおき | 釜の蓋や柄杓を一時的に置いておくための小さな器 |
炉、風炉 | ろ、ふろ | 釜をかけて湯を沸かすための炉。季節によって使い分ける |
釜(茶釜) | かま(ちゃがま) | 湯を沸かすための鉄製の容器 |
柄杓 | ひしゃく | 釜から湯を汲んだり、水指から水を汲んだりする柄の長い杓 |
茶杓 | ちゃしゃく | 抹茶をすくうための竹製の匙 |
薄茶器(平棗) | うすちゃき(ひらなつめ) | 薄茶を入れるための容器。棗は木製漆塗りのものが一般的で、平棗は薄い形状のものを指す |
茶筅 | ちゃせん | 抹茶を湯で点てる(泡立てる)ための竹製の道具 |
水指 | みずさし | 点前で使う水を貯えておくための容器 |
棚 | たな | 茶道具を飾ったり、置いたりするための棚 |
茶碗 | ちゃわん | 抹茶を飲むための器 |
茶入、茶壺 | ちゃいれ、ちゃつぼ | 茶葉を保管するための壺 |
以下では、この中でも主要な道具についてご紹介します。
茶碗(ちゃわん)
国宝 油滴天目茶碗(大阪市立東洋陶磁美術館所蔵), Public domain, via Wikimedia Commons.
茶道具の展覧会でもっとも見る機会が多いのは、茶碗ではないでしょうか。中国製、朝鮮製、日本製と多種多様な茶碗が存在し、色や形、質感など見どころが豊富です。
有名なものでは、安土桃山時代に作られた桃山茶陶の一つ「織部焼(おりべやき)」や、星のような模様が特徴的な「天目茶碗(てんもくちゃわん)」などがあります。
茶入(ちゃいれ)
尾戸焼の褐釉瓢形茶入。江戸時代(18 - 19世紀)の作、東京国立博物館所蔵, Public domain, via Wikimedia Commons.
コロンとした形が愛らしい茶入も、美しい茶道具の一つです。中でも、下がやや膨らんだ丸型のものは茄子の形に似ていることから「茄子茶入(なすちゃいれ)」と呼ばれ、戦国武将たちも愛用した名品として知られています。
茶杓(ちゃしゃく)
千宗拙作 竹茶杓 江戸時代, Public domain, via Wikimedia Commons.
抹茶をすくうための茶杓は一見すると地味に見えますが、素材や曲線の美しさにこだわりをもって作られています。
有名なものでは、愛知県名古屋市の徳川美術館が所蔵している「泪の茶杓」などがあり、千利休にまつわるエピソードを伝えています。
茶道具とともに楽しむ美術品
(参考)茶室の風景, Public domain, via Wikimedia Commons.
日本美術において、茶道具とともに茶室を構成する要素として、掛軸や花入などが挙げられます。茶室の空間を演出し、茶の湯の世界観を表現する上では欠かせない存在です。
また、茶人の好みや季節感を表現するアイテムとしても重視されてきました。
掛軸(かけじく)
掛軸は掛物(かけもの)とも呼ばれる、軸装された書画のことです。茶室では床の間(とこのま)に掛けられます。茶室における掛軸は単なる装飾品ではなく、その日の茶会のテーマや季節、あるいは亭主の心境などを表す役割を担います。
書画の内容は主に、禅語や漢詩、和歌などが墨で書かれた「書」と、山水画や花鳥画、人物画などが描かれた「画(え)」で構成されています。
花入(はないれ)
花入は、茶室に花を生けるための器です。茶道では生け花のように技巧を凝らしたものではなく、野に咲くような自然な姿を尊重します。
素材は竹、陶器、籠などさまざまで、それぞれに美意識が反映されていることが特徴です。生ける花は季節の花が基本で、茶室に自然の彩りを添え、空間をより豊かなものとします。
茶道具の特別な名前「銘」
茶道具の中でも特に優れたものには、銘(めい)という特別な名前が付けられていることがあります。その道具の美しさや特徴を言葉で表現して称えたり、由来や逸話などを込めたりと、道具の意味や物語を伝える大切な要素であり、日本人の美意識や文化を感じられるものです。
例えば、東京都六本木のサントリー美術館が所蔵している「赤樂茶碗 銘熟柿」は、丸く豊かに張った形や、鮮やかなオレンジ色がまさに熟れた柿を思わせます。このように銘は形や模様などからの連想や、詩歌や故事などに由来する言葉を選ぶことが多くあります。
美術館で茶道具を楽しむには?
抹茶茶碗と和菓子、万博記念公園の日本庭園 茶室千里庵にて。(テーブルに映っている白い反射は障子), Public domain, via Wikimedia Commons.
茶道具は、主に日本美術を取り扱う美術館や博物館で鑑賞できます。常設展や、茶道具にまつわる企画展を探してみましょう。
より茶の湯を身近に楽しむには、茶室見学や呈茶などのイベントもおすすめです。ミュージアムに隣接する庭園に茶室があって見学や利用ができたり、抹茶と和菓子を振る舞うイベントを開催していたりと、さまざまな催しがあります。広く一般向けに開催されるので、お作法がわからなくても大丈夫!気軽に参加してみましょう。
茶道具を美術館で見てみよう!
茶道具は実用性だけでなく、美術品としての価値も高く、日本の美意識を象徴する存在です。これまで漠然と見ていた茶碗や茶入も、使い方や歴史を知ることで見方が変わるのではないでしょうか。
茶道具は、日本の歴史や文化、美意識を学ぶ入り口ともいえます。展覧会でぜひ実物を鑑賞して、茶道具の魅力をより深く感じてみましょう。
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文筆家(ライター)。芸術文化を専門に取材執筆を行い、アートと社会について探究する書き手。SNSでも情報を発信する他、さつまがゆく Official Podcastでは取材執筆にまつわるトークを配信中。
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