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STUDY

2025.4.15

【後編】抽象絵画といえば、ピエト・モンドリアン。「原色」「格子」「パズル」の画風は、どうやって生まれた? ~ピエト・モンドリアンのスタイルの変遷~

「抽象絵画の創始者」と呼ばれ、赤・青・黄の原色が印象的な『コンポジション』という作品で有名なピエト・モンドリアンは、初期の頃は写実的な絵を描いていました。

ピエト・モンドリアンの生涯を通じて、画風はどのように変わったのでしょうか?
この記事 (後編) ではピエト・モンドリアンの画風の変化と、代表作をまとめました。

参考

ピエト・モンドリアンの作風は、次の5つに分類されています。

(1) 自然主義時代 1890 - 1907
(2) 表現主義時代 1907 - 1911
(3) キュビスム時代 1911-1914
(4) 新造形主義 1914-1917
(5) 抽象期間 1917-1944

ピエト・モンドリアンの画風は、どう変わった?

『撃たれたウサギ (Dead Hare)』(1891年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

自然主義時代

1890年~1907年 (18歳~25歳) に描かれたピエト・モンドリアンの絵は、『コンポジション』と比べると「これが同じ画家が描いたものなのか?」と思うほどに作風がまったく違います。

この段落の上にある『撃たれたウサギ』は、19歳のときの作品です。
実物が丁寧に描写されています。(写真かと見間違うほどですよね)

表現主義時代

『日元の風車 (Mill in Sunlight)』(1908年頃作), Public domain, via Wikimedia Commons.

『The Red Tree』(1908年~1910年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

1907年~1911年の4年間と期間は短いですが、ピエト・モンドリアンの表現主義時代は以前と明らかに違う作風です。

さきほど紹介した2枚の絵のうち、上の『日元の風車』は明らかに「ピエト・モンドリアンが感じたものを、感じたまま描きたいように表現した」様子が伝わります。下の『The Red Tree』は、木の赤色と背景の青色が強調されています。

どちらの絵も、パッと見た限りでは後年の『コンポジション』との共通点は見つけにくいでしょう。

しかし、『日元の風車』の赤色・黄色、『The Red Tree』の赤色・青色など色が強調されている様子は、後年の『コンポジション』の(赤・青・黄色)に通じる部分があります。

『Horizontal Tree』(1911年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

キュビズム時代の作品『炊飯器と静物Ⅱ (Still Life with Gingerpot II)』(1911-1912年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

キュビスム時代

ピエト・モンドリアンがキュビズムに出会ったのは39歳のときでした。40歳近くになって作風を変えることは早いのか遅いのかはわかりませんが、相当な衝撃だったことは間違いありません。

ピエト・モンドリアンがキュビズムにはまっていたのは、パリに滞在していた1911年~1914年の間でした。

この段落の上にある『Horizontal Tree』は、一つ前の段落の『The Red Tree』よりも更に簡略化された印象を受けます。『炊飯器と静物Ⅱ』も、1911年以前のピエト・モンドリアンであれば描いていなかったような作品です。

『Composition IV』(1914年), Public domain, via Wikimedia Commons.

『Composition with Color Fields』(1917年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

新造形主義

1914年のピエト・モンドリアンは一度オランダに戻ります。1914年~1917年の「新造形主義期間」は、次の「抽象主義」への準備期間だったかもしれません。

この時期、ピエト・モンドリアンは『Composition IV』『Composition with Color Fields』などの作品を制作しました。

これらはキュビズムのような雰囲気を残しつつ、後の『コンポジション』シリーズ通じる「正方形で表現された抽象画」という要素も感じさせます。

ピエト・モンドリアン独自のアート『コンポジション』(1920年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

『ブロードウェイ・ブギウギ (Victory Boogie Woogie)』(1942年~1944年作), Public domain, via Wikimedia Commons.

抽象期間

1917年~1944年の27年間が、私たちが最も良く知る「ピエト・モンドリアンらしい」時期かもしれません。

コンポジションは、1921年に確立した水平・垂直の直線と三原色から成る作風で、従来の絵画にあった空間や奥行きの効果を省き、純粋なリアリティと調和の実現を目指しました。

1930年作「赤・青・黄色のコンポジション」では、3色が動きとエネルギーを連想させるように配置され、黒い線と3色の長方形のグリッドによってバランスと調和を生み出し、20世紀で最も重要な絵画の1つになっています。

1940年にニューヨークへ移住してからは、上下左右の直線の数が増え、色彩もより鮮やかになったことで作品の華やかさが増しました。『ブロードウェイ・ブギウギ』はモンドリアン晩年の代表作となりました。

イヴ・サンローランのドレス『モンドリアン・ルック』, Public domain, via Wikimedia Commons.

ピエト・モンドリアンの影響

イヴ・サンローランのドレスの柄になった

1965年、ファッションデザイナーのイヴ・サンローランはオランダのピエト・モンドリアンの作品に着想を得たミニドレスを発表しました。(『コンポジション』の絵がそのまま柄になった感じです)

このドレスは白地のシンプルなワンピースを黒の水平線と垂直線で分割し、そこに三原色を大胆に配した直線的なAラインのデザインでした。

サンローランは極限まで装飾的要素をそぎ落とすことで、モンドリアンの単純化された造形原理を衣服に移すことに成功。現代アートをファッションに取り入れた初の試みとして注目を集めました。

『モンドリアン・ルック』と呼ばれたドレスはアート作品とファッションを融合させることで伝統的なオートクチュールの世界に新風を吹き込み、サンローランの名を世界的に高めるきっかけとなりました。

広告やレコードジャケットでも引用された

『コンポジション』の「格子柄」「赤・青・黄色の鮮やかな色彩」は非常に印象的で、同時に取り入れやすいため、数多くの広告作品にオマージュとして取り入れられました。

お気に入りのCDジャケットや、記憶に残る広告も、実は『コンポジション』の影響を受けているかもしれません。

国内で見られるピエト・モンドリアンの作品

京都国立近代美術館

ピエト・モンドリアンの作品は日本国内では京都国立近代美術館に所蔵されています。

所蔵作品

・ヘイン河畔の樹
・コンポジション (プラスとマイナスのための習作)
・コンポジション

『京都国立近代美術館』公式サイトはこちら
京都国立近代美術館 | The National Museum of Modern Art, Kyoto

海外の美術館

ピエト・モンドリアンの作品の大半は、欧米の美術館で見ることができます。

直近では2021年に作品が来日して展覧会が開かれました(モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて)。次の機会が早く訪れるように願いたいですね。

まとめ

ピエト・モンドリアンは奥行きを排して抽象化を極めた『コンポジション』シリーズを発表し、現代アートのみならずファッションや広告業界に大きな影響を与えました。

とはいえ、『コンポジション』が生まれるまでは色々な作風を試みており、様々な経験や研究の成果として『コンポジション』が生まれました。

日本国内でピエト・モンドリアンの作品を見ることができるのは京都国立近代美術館のみですが、機会がありましたら訪れてくださいね。

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中森学

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セールスライター。マーケティングの観点から「アーティストが多くの人に知られるようになった背景には、何があるか?」を探るのが大好きです。わかりやすい文章を心がけ、アート初心者の方がアートにもっとハマる話題をお届けしたいと思います。SNS やブログでは「人を動かす伝え方」「資料作りのコツ」を発信。

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