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STUDY

2025.6.25

『パンどろぼう』をアートの視点で見てみよう!キャラクターとストーリーに込められた創作の工夫

大人気シリーズの絵本『パンどろぼう』。2020年に第1作が刊行されてから、わずか5年で累計部数450万部を突破し、ますます注目を集めています。

『パンどろぼう』 作・柴田ケイコ KADOKAWA『パンどろぼう』 作・柴田ケイコ KADOKAWA

なぜこれほど人気を博しているのか?その理由をひも解いていくと、作者・柴田ケイコのこだわりが見えてきます。キャラクターはもちろん、ストーリーや場面ごとに描き込まれた小物など、細かな部分までたくさんの工夫が詰まっているのです。

この記事では、そんな「パンどろぼう」シリーズを、いつもとは一味違う「アートの視点」で眺めてみます。「すでに読んだことがある」という方も、見方を変えるとさらに楽しみが広がるでしょう。

子どもから大人まで多くのファンを生み出した、『パンどろぼう』の魅力に迫ります。

予想外の展開はどうやって生まれたの?キャラクターとストーリーへのこだわり

『パンどろぼう』 作・柴田ケイコ KADOKAWA『パンどろぼう』 作・柴田ケイコ KADOKAWA

「パンどろぼう」シリーズが読者を惹きつけるのは、個性的なキャラクターはもちろん、予想外に展開するストーリーに夢中になれるからだと言えます。おいしそうなパンなのに食べたらまずかったり、お店の厨房を荒らした犯人をつきとめたら危険な目にあったり……。

実は、独創的なキャラクターと読者の想像を超えるストーリーは、ひらめきから生まれた部分もありますが、相当な時間をかけて練られています。

作者の柴田は、登場人物の設定とプロット案を同時に作り込んでいるそうです。プロットとは物語の構想や筋書きのことで、この作業がもっとも大変だと語っています。(※1)

1作目の『パンどろぼう』の場合、キャラクター設定とプロットに1年、ラフ(画面構成の下書き)にさらに1年かかったとのこと。(※2)

パンどろぼうが盗んだパンを食べて「まずい」とショックを受ける有名なシーンも、こうした作業を積み重ねて出てきたアイデアです。

また、この絵本は、登場人物の動きやスピード感のある表現が特徴で、状況が生き生きと伝わります。様々な角度から描かれたキャラクターや物語の展開に目を向けてみると、作品をより深く味わえるでしょう。

(※1)参考文献:河上展儀編、南谷佳世、木村帆乃編集協力「ゆるいユーモアにみんなが夢中!『パンどろぼう』と柴田ケイコの絵本」『月刊モエ 2023年9月号 巻頭特集「パンどろぼう」と柴田ケイコの絵本』白泉社、2023年8月、p.18

(※2)参考サイト:絵本作家 柴田ケイコさんインタビュー。20万部突破の大ヒット絵本『パンどろぼう』ができるまで(ぱんてな、2021年3月19日)

細かいところに注目!『パンどろぼう』を彩る小物たち

『パンどろぼうとなぞのフランスパン』 作・柴田ケイコ KADOKAWA『パンどろぼうとなぞのフランスパン』 作・柴田ケイコ KADOKAWA

『パンどろぼう』には、様々な小物が登場します。たとえば、「せかいいちおいしいもりのパンや」の厨房(上の写真)を見てみましょう。

パン作りの道具や材料をはじめ、キッチンの設備まで細かく描かれています。「こんな風に作るんだ」と想像が広がりますよね。

さらに注目したいのが、『パンどろぼうとなぞのフランスパン』のワンシーン。厨房に掲げられている「パンしょくにんのこころえ」には、次の言葉が書かれています。

・はやねはやおき
・パンはいきもの
・いつもていねいに
・あいをこめてそだてる

※引用:作・柴田ケイコ『パンどろぼうとなぞのフランスパン』KADOKAWA、2023年(初版:2021年)、p.4〜5

主人公がパンに注ぐ情熱と愛情が感じられる場面ですね。

作者の柴田は、言葉にしなくてもキャラクターの性格が伝わるよう、主人公の家をパンの形をしたインテリアで埋め尽くすなど、工夫を凝らしています。(※3)

柴田がディテールにこだわるのは、子どもたちが絵本のページに潜む小さな仕掛けを楽しんでいるからだと言います。言葉よりも絵を注意深く見る子どもが多いため、表現に遊びの要素を加えることを大事にしているそうです。(※4)

ひとつひとつのシーンを丁寧に作り上げる工程が、オリジナリティ溢れる世界観につながっています。

読み聞かせがさらに楽しくなる!作者の思いが込められた表情と言葉

『パンどろぼうとほっかほっカー』 作・柴田ケイコ KADOKAWA『パンどろぼうとほっかほっカー』 作・柴田ケイコ KADOKAWA

「パンどろぼう」シリーズといえば、キャラクターの表情やセリフ、動きを表す音が特徴的ですよね。『パンどろぼうとほっかほっカー』では、通りかかった車に水をかけられ、主人公がずぶ濡れになってしまいます。(上の写真)

パンどろぼうに同情しつつも、思わず笑いがこみ上げてくるシーンです。

また、息子たちに読み聞かせをした経験が、現在の絵本制作に活かされていると柴田は語っています。(※5)絵本を親子のコミュニケーションツールと捉えて、様々な作品を読んできたそうです。

さらに、キャラクターの言葉にフォーカスすると、子どもに対する温かなまなざしが感じられます。

たとえば、第1作から登場している「せかいいちおいしいもりのパンや」のおじさんのセリフ。主人公に対して、「そもそも ぬすみは いけないよ」と伝えた上で、彼に新しい道を示してくれます。

柴田は、子どもたちが絵本を読む時は、誰にも叱られずにワクワクした気持ちでいてほしいと話します。彼らの長所を見つけるのが大切で、時にはそっと背中を押してあげることも必要だと、作品を通して伝えているのです。(※6)

「パンどろぼう」シリーズでは、困難を乗り越えて成長していく主人公の姿が一貫して描かれています。ユーモアたっぷりの表現を楽しめると同時に、読者が自分らしさを見つけ、前に進む勇気を与えてくれる作品です。

まとめ

『パンどろぼうとほっかほっカー』 作・柴田ケイコ KADOKAWA『パンどろぼうとほっかほっカー』 作・柴田ケイコ KADOKAWA

この記事では、「パンどろぼう」シリーズをアートの視点で紹介し、幅広い世代に愛されている理由を探りました。

個性的なキャラクターとユーモラスなストーリーを丁寧に作り上げ、オリジナリティ溢れる世界観を表現する柴田ケイコのエピソードにも触れました。

思わず笑ってしまう展開と読者を勇気づけるキャラクターたちは、これからも多くのファンを魅了することでしょう。

それぞれのシーンの小物に注目したり、セリフを声に出してみたりと、様々な楽しみ方ができる「パンどろぼう」シリーズ。ページをめくるたびに、「こんな工夫があったんだ!」と発見があるはずです。

《参考文献》
・作・柴田ケイコ『パンどろぼう』KADOKAWA、2021年(初版:2020年)

・作・柴田ケイコ『パンどろぼうとなぞのフランスパン』KADOKAWA、2023年(初版:2021年)

・作・柴田ケイコ『パンどろぼうとほっかほっカー』KADOKAWA、2023年

・河上展儀編、南谷佳世、木村帆乃編集協力「ゆるいユーモアにみんなが夢中!『パンどろぼう』と柴田ケイコの絵本」『月刊モエ 2023年9月号 巻頭特集「パンどろぼう」と柴田ケイコの絵本』白泉社、2023年8月、p.6〜35

《参考サイト》※掲載日順
・絵本作家 柴田ケイコさんインタビュー。20万部突破の大ヒット絵本『パンどろぼう』ができるまで(ぱんてな、2021年3月19日)

・人気絵本作家・柴田ケイコの最新作『パンダのおさじとフライパンダ』創作の秘訣「自分と読者の“ワクワク”が重なるように」(Real Sound、2023年6月24日)

・『パンどろぼう』作家で二児の母・柴田ケイコさん「親も子も、できないことはできなくていい」(VERY、2023年8月24日)

・「絵本って、本当にできる人じゃないと作っちゃダメっていう意識があって」。ヨシタケシンスケさんと柴田ケイコさんが対談!(kodomoe 2024年5月28日)

・【大塚健太さん×柴田ケイコさん インタビュー】 にゃぞにゃぞを解いて宝物をとりもどせ!『ハムスたんていと かいとうニャー』 親子で楽しめる絵本誕生のひみつ(Gakken こそだてマップ、2025年5月22日)

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浜田夏実

浜田夏実

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

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