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2026.6.26
【マーク・ロスコ】カラフルな四角「だけ」の絵はこう見る!抽象芸術を楽しめるようになるコツを紹介
大きな色の四角が、二つか三つ並んでいる。輪郭はぼんやり滲んで、人物も風景も物語もない。「これのどこが名画なのか、さっぱりわからない」。スマホでマーク・ロスコの絵を見たとき、多くの人が思うはずです。
ところが美術館で実物の前に立った人の中に、不思議な反応をする人がいます。長い時間、動かずに見つめる人。静かに涙を流す人さえいる。何が描かれているわけでもないのに、心が動く。なぜ同じ絵で、こうも反応が変わるのでしょうか。
マーク・ロスコ《No. 14, 1960》(1960年)。サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)蔵。巨大なオレンジと深い青の色面が、ぼんやりとした境界で重なり合う。スマホの画面では「ただの四角」にしか見えないかもしれない。(動画引用:SFMOMA公式Instagram)
近づくと、絵が変わる
ロスコの絵を美術館で見るのと、スマホで見るのとでは、まったく別の体験になります。その理由は単純で、大きさです。実物は縦2メートルを超えます。美術館の部屋に入るとまずその大きさに足が止まり、全体を見渡そうと一歩下がっても、視野に収まりません。
ここで一つだけ試してほしいことがあります。下がるのではなく、逆に近づいてみてください。色が変わり始めます。遠くからは均一に見えていた色面が、何層もの薄い絵の具でできていることに気づくはずです。赤の下にオレンジが透け、その奥から暗い紫がにじむ。輪郭はどこにもありません。
ロスコ自身も「45センチの距離で見てほしい」と言ったそうです。腕を伸ばせば届くほどの近さです。そこまで寄ると、色が視界の端まで広がって、絵と自分の境目がぼやけてくる。「絵を眺めている」感覚が薄れて「色の中にいる」に変わる瞬間があります。
しばらくすると色が明るく浮かび上がったり、奥へ沈んだりして、画面が静かに呼吸しているように見えてきます。絵は止まっているはずなのに、目の中では何かが動き続けている。ロスコの絵を見るうえで、この「近づく」という行為が一番大事かもしれません。
ワシントンのナショナル・ギャラリーは、ロスコ作品の世界最大級の公的コレクションを所蔵している。実際の展示室で色に囲まれる体験は、画面越しとはまるで違う。(動画引用:National Gallery of Art公式Instagram)
ロスコは「見る環境」にこだわった
ロスコは自分の絵がどんな環境で見られるかに、強くこだわった画家でした。1958年、ロスコはニューヨークの高級レストラン「フォーシーズンズ」から壁画の依頼を受けます。報酬は当時としては破格の金額でした。ロスコは引き受け、暗い赤と茶色を基調にした重厚な連作を、何か月もかけて描き進めます。
ところが完成が近づいたころ、突然、納品を拒否しました。受け取った報酬も返しています。その理由について、ロスコはこう語ったと伝えられています。あの店で食事をする客の食欲を台無しにしてやろうと思って引き受けたが、結局あんな場所に自分の絵を飾る気にはなれなかった、という趣旨の発言をしたと言われています。
過激な言い方ですが、ロスコが嫌だったのは、自分の絵が「食事中の背景」になることでした。おしゃべりの合間にちらっと目をやって「きれいな色ね」で終わる。そういう見方では、自分の絵は何も届けられない。
テキサス州ヒューストンに建つロスコ・チャペル。反射池の上に立つのはバーネット・ニューマンの彫刻《ブロークン・オベリスク》。窓のない八角形の建物の中に、ロスコの暗い色調の絵が14点並ぶ。, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons.
のちにロスコは、テキサス州ヒューストンに小さな礼拝堂を設計するプロジェクトに取り組みます。八角形の静かな空間に、暗い紫や黒に近い巨大な絵を14点。「ロスコ・チャペル」と呼ばれるこの場所は、絵と人だけが向き合う空間を、ロスコ自身が設計したものです。残念ながらロスコはチャペルの完成を見届けることなく、1970年に亡くなっています。
「わかる」必要はない
ここで少しだけ、身体の話をしてみます。ロスコの絵を考えるうえで、意外と大事なのは「頭で理解する」より先に「身体が反応する」という感覚だからです。
美術館で実物の前に立つと、つい「これは何を表現しているんだろう」と考えてしまいます。意味を見つけて、言葉にして、納得したい。でもロスコの絵に関しては、そうしたアプローチを外す必要があるかもしれません。フランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティは、人間の身体について面白いことを言っています。
モーリス・メルロ=ポンティ(1908–1961)。「身体の現象学」で知られるフランスの哲学者。私たちの身体は頭で考えるより先に世界を感じ取っていると説いた。, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons.
たとえば熱いマグカップにうっかり触れたとき、「熱い」と頭で判断する前に、手はもう離れている。身体は頭の命令を待たずに、すでに身体自身が世界を感じ取っているのです。
ロスコの絵の前で起きていることも、これに近いのかもしれません。視界全体に色が広がった瞬間、「きれい」や「暗い」と判断するよりも早く、もう身体の方が反応を始める。胸が詰まったり、呼吸が少し変わったり、涙が出る人もいます。もちろん何も起きなかったという人もいるでしょう。それはそれで構わない。
ただ「意味を探そう」とする頭のモードを少し緩めたほうが、色は身体に届きやすくなります。これが抽象画を前にしたときのコツかもしれません。
まずは近づいてみる
ロスコの絵を「わからない」と感じたとしても、何もおかしくありません。むしろ普通の反応です。ロスコの絵は「近くで、静かに、色に囲まれる」という条件が揃って初めて届くようにできているため、スマホを見てピンとこないのは当然のことです。
もし美術館で実物に出会う機会があったら、一つだけ試してみてください。45センチまで寄って、意味を考えるのをやめて、ただ色を見る。その距離感だからこそ、画面越しでは届かなかった何かを感じるはずです。
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大学院で哲学(環境倫理学)を学んだあと、高校の社会科教員に。子どもの誕生をきっかけに、ライターへ転身。西洋哲学史の書籍『世界と人間を深く理解するための哲学の教科書』(ナツメ社)の執筆も担当した。立場や考え方の違いを越えて、芸術には人と人をつなぐ力があると信じている。週末は海外サッカー(プレミアリーグ)に夢中。
大学院で哲学(環境倫理学)を学んだあと、高校の社会科教員に。子どもの誕生をきっかけに、ライターへ転身。西洋哲学史の書籍『世界と人間を深く理解するための哲学の教科書』(ナツメ社)の執筆も担当した。立場や考え方の違いを越えて、芸術には人と人をつなぐ力があると信じている。週末は海外サッカー(プレミアリーグ)に夢中。
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