STUDY
2022.7.8
【初心者向け!】どこを見ればいい?西洋彫刻を楽しむ3つのポイント
アートは好きだけど、あまり詳しくないからどう見たらいいか正直わからない…と思ったことはありませんか?
作品の背景を知ってから作品を見ると「そうだったのか!」と思うことも多いですよね。
西洋美術はヨーロッパ内のキリスト教や政治の状況とも深く関係していて、すべての知識を頭に入れるのは大変です。
ウィーン美術史美術館 正面階段にある彫刻 (Source:Kunsthistorisches Museum), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
そこで今回の記事では、彫刻作品を見る際に、どのようなポイントに注意すべきかについてローマの大学院で美術史を専攻している筆者が解説していきます。
彫刻を見るポイント①:質感
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ『プロセルピナの略奪』(撮影:Paolo Picciati), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
彫刻作品を見る際にまず注目してほしいのが、石の質感です。
例えば、バロック彫刻の巨匠ベルニーニの作品では、洋服の素材ごとの微妙な質感の違いが石で表現されています。
美術館に行けばたくさんの彫刻作品を見ることができるので、見慣れてしまっているひともいるかもしれませんがこれらはすべて石なのです。
ニット素材、シルク素材、ボタン、髪の毛、ひげ、肌、手のしわ…
パーツごとの質感の違いに注目してみると、芸術家のこだわりを感じることができます。
彫刻を見るポイント②:バランス
ミケランジェロ『バッカス』(撮影:Rufus46), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
筆者がローマで美術史を勉強して間もないとき、教授に言われて一番衝撃的だったのは「大理石の重さを感じろ」という言葉でした。
はて? と思われるかもしれませんが、要するに、石の重みはどこかで何かが支えていなければ、大理石は自立しないということです。
彫刻作品を作る上で一番難しいのは、指先や外側に伸びた腕(脚)だと言われています。
これは、重さを支える軸の部分から離れれば離れるほどサポートの力が弱く、簡単に壊れてしまうからです。
大理石の像は自分の筋肉で身体を動かせる生身の人間ではないので、傾斜の大きい構図ではサポートが必要になります。
古代ギリシア・ローマでは、人物像の足元に樹の幹などが設置され、身体を支える役割を果たしていました。
それから1,000年以上が経ち、ルネッサンス期の偉大な彫刻家ミケランジェロは、この「サポート部分」さえも作品のテーマに盛り込むことに成功しました。
実際、『バッカス』という作品では酔って身体が不安定になっているバッカスの後ろに、少年(サテュロス)が描かれています。
このサテュロスはストーリー上重要な役割を果てしているだけでなく、傾いているバッカス像の大理石の重みを支える構造上の要となっているのです。
彫刻作品を見る際は、大理石の石の重さがどのように支えられているかに注目してみてください。
彫刻を見るポイント③:人物の表情
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ『プロセルピナの略奪』(撮影:Sonse), CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
当然ですが、彫刻作品ではデザインも重要な要素です。
肖像のようにシンプルな作品であっても、依頼主が「周囲にどう思われたいか」というメッセージが込められていることは間違いありません。
古代ローマ帝国のマルクス・アウレリウス帝は、どの肖像でもほぼ同じ顔をしています。
権威を表すための肖像の多くは気難しい表情をしている一方、ストーリーのある作品の彫刻は喜怒哀楽を前面に表しています。
彫刻作品で好まれる『ピエタ』というテーマでは、聖母マリアは大泣きしているときもあれば、静かに悲しみを表現していることもあります。
芸術家が作品を作るときは、それぞれのディテールに思いを込めています。
表情は中でも最も重要な要素の1つなので、「なぜこの像はこの表情なのか?」を深く考えてみると、彫刻鑑賞が楽しくなりますよ!
『神は細部に宿る』を見つけよう!
筆者が美術館などで彫刻を見る際はいつも、「神は細部に宿る」という言葉を思い出します。
芸術家の積み重ねた「細部」の結果が、目の前にある作品なのです。
彫刻は基本的にすべて石から生み出されたということを念頭に置くと、より彫刻家たちの思惑や苦労を感じられて楽しいかもしれません。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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