STUDY
2021.7.26
西洋美術史を流れで学ぶ(第3回) ~ギリシャ美術編~
なぜか難しく語られがちな西洋美術史を気さくに楽しく紹介するこの連載。前回(※)はエーゲ美術について紹介しました。急に暗黒時代に突入して文献がなくなるという衝撃のラストでした。
※関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第2回) ~エーゲ美術編~
https://irohani.art/study/4275/
今回はエーゲ美術とセットで語られがちなギリシャ芸術。ムッキムキなイケメン像がたくさん出てくる時代です。
西洋美術のスタンダード・ギリシャ美術の登場
紀元前700年ごろからギリシャ地方はまた盛り上がってきます。ギリシャ美術が登場。建築、彫像、絵画など、この後の西洋美術史の基本となる表現が見られるようになります。
建築では「ドーリア式」「イオニア式」「コリントス式」という3つの型が誕生。有名な『パルテノン神殿』もこの時期です。
Steve Swayne, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
また絵画では「壺絵」といわれ、食器にデザインのパターンや人物画を描く文化が生まれました。黒像式と赤像式の2種類があり、印象が大きく違います。
British Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
なかでもエーゲ美術のころに比べてめちゃめちゃ進化したのが「彫像」。かつては表情がなく『もののけ姫』のこだま的なサイズでしたが、ギリシャ美術に入ると「クーロス」といわれるかなりリアル感を増した男性の裸像が現れます。
直立不動で微笑みを浮かべるちょっと挙動不審なアルカイック期
Ricardo André Frantz (User:Tetraktys), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
Metropolitan Museum of Art, CC0, via Wikimedia Commons
初期はアルカイック期といわれ、ちょっと左足を出して左右の足に均等に体重がかかるようになっており、軽く微笑んでいるのが特徴。「アルカイック・スマイル」といわれ、日本の飛鳥時代にできた仏像にも同じ特徴があります。微笑みによって生命力を表現していたんです。
いま考えると「おい大丈夫か。緊張してんのか 」と背中をさすりたくなるくらいぎこちないポーズと表情なんですが、エーゲ美術と比べると飛躍的に写実性を増しています。
当時の人々は神と人は同じ造形をしていると考えていました。そのため、神と人のどっちを彫ったのかがよくわかっていません。
クラシック期辺りからだんだんマッチョに
Ricardo André Frantz (User:Tetraktys), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
さて、アルカイック期が200年くらい続いた後に「クラシック期」がやってきます。より「人間としての自然なポーズ」を極めた結果、左右どちらかの足に体重をかける「コントラポスト(対置)」という手法ができます。
これにより彫像の自由度がグンと高まり、手や顔の表情、衣類のひだなどの動きが出てきます。
合わせて筋肉の動きが顕著になるのもこの辺りからです。「ギリシャ彫刻」で画像検索してみてください。画面はもはやボディビルの大会。メタボは1人もいません。
なぜ全員マッチョなのか。その要因の1つは、当時のギリシャでは7歳から「スパルタ」という兵役があったからです。現代でも残る言葉で、数年前に実写映画化もされましたが、その凄惨さは異常。しごかれまくった結果、青年たちは総じてムッキムキになりました。
またこの時代から神に捧げるため、古代オリンピックが開かれており、全員が全裸で競技をしていたそうです。また神に捧げるためにミスターコンも開かれていました。
つまり「美男子」=「神を喜ばすことができる」とガチで信じられており、みんな来世のためにも体を鍛えていたんですね。この辺りはエジプト文明の来世思想(※)に通ずる部分です。
※関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第1回) ~メソポタミア文明・エジプト文明編~
https://irohani.art/study/4157/
ただギリシャ彫刻って、見たままを掘ってるわけではないのも確か。簡単にいうと盛ってます。これを理想主義といい「こんな美しい身体、憧れるなぁ」っていう肉体を表現したわけです。神に捧げるものですからね。
ギリシャ彫刻の黄金期・ヘレニズム期
さて話を筋肉から芸術に戻しましょう。紀元前334年にギリシャ地域の強国・マケドニアのアレクサンドロス大王が「東方大遠征」をします。
スパルタ兵を連れて、アジア、エジプト、メソポタミアあたりをばばーっと支配するわけです。
そのためギリシャ地方はめっちゃお金持ちになり、かつギリシャ文化が世界中に伝播します。すると個人的に作品を買う人も出てきました。芸術が大衆のものになった初めての時期です。
つまり作品をつくるモチベーションが、だんだんと「神々のため」から「王のため」に変わるんです。
このアレクサンドロス大王の時代を「ヘレニズム期」といいます。そこで彫像はさらに大きく形を変えます。
クラシック期にも捻ったり曲がったりしてましたが、まだ「前から見ること」を前提として作られていました。ヘレニズム期はさらに体や衣類の曲線が派手になり、前後左右どこから見ても美しい彫像が特徴です。
有名な作品は『ミロのヴィーナス』と『ラオコーン』『サモトラケのニケ』など。特に大蛇と神官・ラオコーンとの戦いを描いた『ラオコーン』は全体を通して非常に躍動感のある激しい作品。しかし人物の表情などの繊細さも兼ね備えているヤバい傑作です。
Vatican Museums, Public domain, via Wikimedia Commons
このヘレニズム文化の彫像は完成度高すぎて、後年、マニエリスム、バロックなどの時代で「お手本」として再登場します。美術史を通じて、ものすごくレベルの高い作品なんですね。
さて今回はムッキムキなナイスガイ像が次々に作られたギリシャ芸術について紹介しました。次回はエトルリア・ローマ芸術について解説していきます。
▼西洋美術史を流れで学ぶ(第4回) ~ローマ・エトルリア編~
https://irohani.art/study/4513/
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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。
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