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2026.6.15
【取材レポート!】文字から作品を読み解くともっと面白い。『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』|根津美術館
東京・南青山の根津美術館では、企画展『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』が開催されています。絵画に添えられた言葉や作者のサイン、器に刻まれた文字など、作品の中に潜む「文字」に焦点を当てた展覧会です。作品の中の文字がどのような意味を持ち、鑑賞の手がかりとなるのかをやさしく解説しています。
目次
企画展『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』展示室入口
絵の片隅に残された印から歴史が見えてくる
重要文化財『竹雀図』 伝 牧谿筆 中国・元時代 13世紀 ※5月30日(土)~6月21日(日)展示
絵のなかにある文字として、最初に思い浮かぶのは画家の署名や印である落款(らっかん)です。ただ一口に落款といっても、その表現は画家の個性を反映するかのようにさまざま。また古い仏画のようにもともと落款がないものや、捺された印が画家本人ではなく、将軍や大名などの所蔵を示す館蔵印の場合もあります。
伝 牧谿の『竹雀図』に目を向けましょう。写真では見えにくいかもしれませんが、画面右上と左下には、それぞれ小さな印が捺されています。実はこれらは画家の印ではなく、かつてこの作品を手にした人々にまつわるものです。左下の「善阿」印は足利義満ゆかりの善阿弥、右上の「雑華室印」は足利義教の書斎を示しています。
こうした痕跡をたどることで、この作品が室町幕府の将軍家に長く伝来してきたことが分かるのです。
11人の禅僧が言葉を寄せた『江天遠意図』
重要文化財『江天遠意図』 伝 周文筆 大岳周崇ほか11僧賛 日本・室町時代 15世紀 ※5月30日(土)~6月21日(日)展示
賛(画賛)とは、絵の上部や余白に書き添えられた漢詩や和歌などのことです。画家自身が記したものは自画賛と呼ばれますが、絵を見た人が感想や賛辞を書き加えることも珍しくはありませんでした。
そのよい例が、たくさんの詩文が記された『江天遠意図』です。余白を埋めるように並ぶ漢詩は、絵の中に描かれた茅屋に心を寄せた禅僧たちが、それぞれの思いを詠んで書き添えたもの。絵と詩文を組み合わせた作品は「詩画軸」と呼ばれ、室町時代には送別や記念の品として親しまれました。
本作では11人の禅僧が、まるで寄せ書きのように賛を寄せています。なかには30人近い禅僧が言葉を書き連ねた詩画軸もあったといい、当時の交流の豊かさと、絵を介して言葉を送り合う文化の広がりを思わせます。
「どうやって書いたの?」仏画の中に隠された驚きの文字世界
仏画のなかの文字にも興味深い発見があります。経典の一節や尊像の名前、さらには種子(しゅじ)と呼ばれる梵字などが記され、信仰の世界を読み解く手がかりが、画面のあちこちに込められています。
特に目を引くのが、伝 王振鵬の『観音図』です。台座に坐る観音を、定規などを用いて建物を精緻に描く界画(かいが)の技法で表した一作で、その細密な描写にはつい見入ってしまいます。しかし、文字というテーマで注目したいのは作品の上部、つまり観音の頭上です。
そこにびっしり書き込まれているのは、なんと『観音経』およそ2000字。一文字一文字は肉眼では判読するのが難しいほど小さく、「いったいどうやって書いたのだろう?」とただただ驚かされます。
『文字絵十一面観音像』 大臨晋城筆 日本・江戸時代 嘉永6年(1853)
もう一点、大臨晋城による『文字絵十一面観音像』にも目を凝らしてください。遠目には、やわらかな線によって十一面観音が描かれているように見えます。ところが近づいてみると、その線の正体は文字。約4750字もの『観音経』を書き連ねることで、観音の姿を浮かび上がらせた文字絵なのです。
遠くから見れば美しい仏画、近づけば無数の文字。作品の前には虫眼鏡も用意されているので、覗き込みながら、気の遠くなるような手仕事をじっくりと確かめてみましょう。
桜と紅葉、華やかな屏風に隠された文字の仕掛け
この『吉野龍田図屏風』、ひときわ華やかな空気をまとっているのが感じられませんか。右隻には満開の桜、左隻には紅葉が広がり、そのゴージャスな色彩に思わず見惚れてしまいます。しかし、作品の魅力は美しい景色だけに留まりません。「絵のなかの文字」というテーマを意識すると、もうひとつ違った味わい方ができます。
その文字とは、それぞれの枝に翻る短冊に記された和歌。古今和歌集などから桜や紅葉を詠んだ歌が選ばれ、流麗な筆跡とともに画面にリズムを添えています。
さらに面白いのは、和歌の一部が枝葉によって巧みに隠されていることです。なかには数文字しか読み取れない短冊もありますが、当時の人々はそこから歌の続きを思い浮かべ、楽しんでいたといいます。
絵を眺めながら和歌の世界にも思いを巡らせる。そんな粋な遊びができたのも、和歌に親しみ、その知識を自然に共有していた当時の人々の豊かな教養があればこそ。作品の前に立つと、絵と言葉が織りなす雅な世界へと、するりと引き込まれていきます。
『飛天文雲版』に注目!銘文に残された改ざんの痕跡とは?
一方で絵画の落款に相当するのが、工芸のおける銘文です。作者や所有者の名前だけでなく、制作の目的や出資者、さらには使用する場所などが記されることもあり、作品の来歴をひもとく重要な手がかりとなっています。
南北朝時代に制作された『飛天文雲版』は、禅宗寺院で合図に用いられた鳴物です。その裏面には年紀や施主名、この鋳物を手がけた鋳物師(いもじ)の名が刻まれています。ところが目を凝らすと、一番上の年紀の部分だけが不自然に削られているように見えないでしょうか。
実はこれ、当初記されていた「延文四己亥年」(1359年)を「延長四丙戌年」(926年)へと書き換えた痕跡。つまり、およそ400年も年代をさかのぼらせているのです。
その理由は定かではありませんが、より古い作品に見せることで価値を高めようとしたためではないかと考えられています。銘文は作品の歴史を伝えるだけでなく、ときにはこうしたミステリアスな物語まで浮かび上がらせてくれます。
空想の国も登場、日本列島を描いた地図皿を愛でる
『染付日本地図長方皿』 日本・江戸時代 19世紀 山本正之氏寄贈
最後に、身の回りを彩る器から、少しユニークな作品をご紹介しましょう。『染付日本地図長方皿』は、18世紀末から19世紀にかけて盛んになった地図出版を背景に、染め付けで日本列島を表した肥前焼の皿です。長方形の見込みには日本地図が描かれ、陸奥や下総、薩摩といった国名も書き込まれています。
ところが、周囲には松前や琉球に交じって、「女護国」や「小人国」といった空想上の国々の名も見つかります。人々は食事の席でこの皿を囲みながら、まだ見ぬ土地や異国に思いを巡らせていたのかもしれません。
画家の署名や落款、絵に添えられた詩文や和歌の賛、仏画や工芸作品に記された文字。会場を巡っていると、文字が単なる説明ではなく、作品を深く味わうための大切な要素であることに気づかされます。
このほか、景色のなかに和歌一首が散らし書きされた同館蔵の『鏡山図』を、類品3幅とともに初めて同時公開しているのも見どころのひとつです。東洋の古美術を「文字」から読み解く面白さを、『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』で体感してみてください。
※写真に掲載した作品は、すべて根津美術館の所蔵です。
◆はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―
開催期間:2026年5月30日(土)〜7月12日(日)
所在地:東京都港区南青山6‐5‐1
アクセス:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線〈表参道〉駅下車 A5出口(階段)より徒歩8分。B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩10分。
開館時間:10:00~17:00(最終入館は16:30)
休館日:月曜日
入場料:一般1400(1600)円、学生(大学生以上)600(800)円。
※オンライン日時指定予約。( )内は当日券料金。
ウェブサイト:『はじめての古美術鑑賞 ―美術のなかの文字―』 根津美術館
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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