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2026.7.1

【取材レポート】『「怖い」本』展。東洋文庫ミュージアムで見つけた、古今東西の「怖い」

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怖い映画、怖い絵、怖い話…。世の中に「怖い〇〇」はたくさんあふれていますが、「怖い本」となるとどのような姿を想像しますか?

企画展『「怖い」本』展示室風景企画展『「怖い」本』展示室風景

東京・文京区の東洋文庫ミュージアムで開催中の企画展『「怖い」本』は、「怖い」という言葉から連想される古今東西の書物を集めたユニークな展覧会です。

死後の世界、残酷な刑罰、歴史的な悪人、天災の記録まで。文字や図版に封じ込められた「怖い」本とはどのようなものなのか、展示の見どころをご紹介します。

地獄や九相図が伝える、日本の人々の「死」への眼差し

『往生要集』 源信 985年成立 1210年刊『往生要集』 源信 985年成立 1210年刊

「この世で悪い行いをした人が死後に責め苦を受ける世界」である地獄。そのイメージは、日本では主に仏教の影響を受けて形づくられました。平安時代に成立した『往生要集』によれば、人は生前の行いによって地獄を含む「六道」のいずれかに転生。また、六道のひとつである人道については、生者と死者のもたらす「穢れ」が説かれており、死はけっして遠い世界の話ではありませんでした。

『九相図巻』(くそうずかん) 鎌倉時代成立か 書写年不明『九相図巻』(くそうずかん) 鎌倉時代成立か 書写年不明

そんな死生観を視覚的に伝えるのが『九相図巻』です。野外に置かれた遺体が朽ちていく様子を9つの段階に分けて描いた仏教絵画で、5つ目の「噉食相(たんじきそう)」では、腐敗臭に引き寄せられた野生の獣が遺体を食い荒らす場面が生々しく描かれています。どれほど美しい人であっても、命が尽きればこのような姿になる。そうした無常の戒めが、絵の中に込められているのです。

「怖い」は変わる。怨霊から愛すべき妖怪たち

『風流人形の内、一つ家の図、祐天上人』 歌川国芳 1856年『風流人形の内、一つ家の図、祐天上人』 歌川国芳 1856年

目に見えない何かが災害や病気を引き起こすと信じられていた古代の日本。祟りを避けるため、怨霊を鎮める儀式が各地で行われました。

ところが近世になると、人ならざるものへの眼差しは大きく変わります。死霊も化け物もキャラクター化され、絵本や物語、玩具の題材として人々を楽しませる存在になっていくのです。「怖い」という感覚は普遍的ではなく、時代とともに移り変わるものでした。

『菅家物語』 室町時代成立 江戸時代前期(17世紀)写『菅家物語』 室町時代成立 江戸時代前期(17世紀)写

菅原道真を主人公とした『菅家物語』は、道真が太宰府で没した後、落雷など京に災いをもたらし、鎮魂されて天神として祀られるまでを描いた作品。しかし現代の目で見ると、怖いというよりどこかユーモラスで、親しみやすささえ感じられます。

右2冊が『絵本百物語』 桃山人撰 竹原春泉画 1841年右2冊が『絵本百物語』 桃山人撰 竹原春泉画 1841年

江戸後期の浮世絵師・竹原春泉が挿絵を手がけた『絵本百物語』は、40種以上の妖怪が登場する怪談本です。「百物語」とは、人々が夜に集まって怪談を100話語り継ぎ、最後の話が終わると妖怪が現れるとされた遊びのことで、江戸時代に流行しました。

本書に描かれた妖怪たちは恐ろしいというより、ひょうきんで愛嬌があります。「もう妖怪なんて怖くない」と言わんばかりの、ユーモアたっぷりの描写に思わず笑ってしまうかもしれません。

大鯰をみんなで退治!鯰絵が伝える恐怖と笑い

『地震風刺絵』(鯰絵) 1855年刊『地震風刺絵』(鯰絵) 1855年刊

災害や疫病をテーマにした資料にも、こうしたユーモアは顔をのぞかせます。かつて人々は、流行病や自然災害といった理不尽な災いに直面したとき、その原因を鬼や妖怪など「人ならざるもの」に求めました。

『地震風刺絵(鯰絵)』もそのひとつ。1854年に起きた東海・南海地震では、東海道から九州にかけて大きな被害をもたらし、翌年には安政の大地震が江戸を襲いますが、発生直後から「鯰絵」と呼ばれる浮世絵が次々と刊行されました。

そこには地震の元凶とされた大鯰をみんなで懲らしめる場面なども描かれ、おかしみのある表現の中に、やり場のない恐怖と不安を見ることもできます。

殉教、拷問、刑罰。人が生んだ「怖い」の記録

『イエズス会士書簡集』 1780〜83年 パリ刊『イエズス会士書簡集』 1780〜83年 パリ刊

人が人を虐げ、裁き、傷つける行為が生む「怖い」は、より複雑な様相を帯びています。16世紀末以降の日本で相次いだキリスト教信者の殉教は、当時のヨーロッパでは信仰の証として称えられました。アジアで布教を展開したイエズス会士による『イエズス会士書簡集』には、1737年のトンキン(現・北ベトナム)における殉教の様子が表されています。

『中国の刑罰』 メイソン 1804年 ロンドン刊『中国の刑罰』 メイソン 1804年 ロンドン刊

また人権という概念が生まれる以前の刑罰には、身体に直接苦痛を与えるものが数多く存在しました。中国・清代の刑罰を記したメイソンによる挿絵には、足の腱を切るなど、目を背けたくなるような残虐な刑の記録が残されています。

現代の感覚からすれば、ただ恐ろしく、理不尽に映るこれらの行為も、当時の社会では正当な行為とされることがありました。こうした作品や資料をたどっていくと、「怖い」の基準が時代や社会によって大きく異なるという事実が、自然と浮かび上がってくるのです。

わからないから怖い。「うつろ舟」という江戸時代のミステリー

『源頼光公舘土蜘作妖怪図』 歌川国芳 1843年『源頼光公舘土蜘作妖怪図』 歌川国芳 1843年

この他、歌川国芳が妖怪を描きながら幕府を風刺した浮世絵や、ろくろ首との関係も指摘される「飛頭蛮」の伝承資料、また西アジアから北アフリカにかけてのおとぎ話の集大成である『アラビアンナイト』など、実に多彩な「怖い本」が並ぶ本展。最後にぜひご覧いただきたい作品を一点ご紹介します。

『うつろ舟の図』 19世紀(江戸時代)書写『うつろ舟の図』 19世紀(江戸時代)書写

江戸時代の瓦版の写しである『うつろ舟の図』です。大きな釜のような球体と人の姿が描かれ、一見しただけでは怖さはまったく感じられません。しかしここには、1803年に起きたある不思議な出来事が伝えられています。一体、なんだと思いますか?

その出来事とは、常陸国(現在の茨城県)の海岸に「うつろ舟」が漂着したというもの。舟の中には見知らぬ文字が記され、青白い肌に赤い髪の女性が一人、大切そうに箱を抱えて乗っていたとされています。

思わず想像してしまうのはUFOに乗った宇宙人…。同様の出来事を伝える瓦版は他にも残っているものの、真相はいまだ謎のまま。何が何だかわからないからこそ、背筋がゾクゾクするような怖さを覚えるのでした。

行く前にチェック!会期・料金・アクセスまとめ

東洋文庫のシンボルとも言える「モリソン書庫」東洋文庫のシンボルとも言える「モリソン書庫」

開幕からおよそ1か月、SNSでも話題を集めている企画展『「怖い」本』。現在、土日を中心に混雑が続いており、時間帯によっては入場まで待つ場合があります。同館では、平日(火曜休館)または土日の午前中、もしくは15時以降の来館を推奨しています(最終入館16時30分)。

東洋文庫ミュージアムの公式Xアカウント(@toyobunko_m)でも、最新の混雑状況について発信中です。会期は9月23日まで。怖くて、でも楽しく、そして学びの多い「怖い本」の世界を、この夏ぜひ体験してみてください。

※作品・資料はすべて公益財団法人東洋文庫蔵。なお本記事で紹介する作品・資料の順番は、実際の展示順とは異なります。ご鑑賞の際は、会場ならではの展示構成もお楽しみください。

展覧会情報

企画展『「怖い」本』 東洋文庫ミュージアム
開催期間:2026年6月3日(水)〜9月23日(水・祝)
所在地:東京都文京区本駒込2-28-21
アクセス:駒込駅(JR山手線・東京メトロ南北線2番出口)徒歩8分、千石駅(都営地下鉄三田線A4番出口)徒歩7分。
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:火曜日
入場料:一般1000円、65歳以上900円、大学生800円、高校生700円、中学生以下無料。
ウェブサイト:東洋文庫

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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