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2026.7.30

【取材レポート】大阪市立美術館 開館90周年記念特別展「水滸伝」、物語を知らない人をも引き込む世界観

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9月6日(日)まで、大阪市立美術館開館90周年記念特別展「水滸伝」が開催されています。中国四大奇書のひとつ「水滸伝」は、小説や漫画、ドラマの形でも親しまれ、現代の日本でも愛されている……ようですね?

展示風景

と、自信のない書き方をしたのは、私自身が水滸伝をあまり知らないから。申し訳ありませんが、展覧会を訪れる直前に慌てて「水滸伝 あらすじ」と検索するくらい、予備知識のない状態でした…。

「そんな人が展覧会を楽しめるの?」という疑問はごもっとも。ですが、「そんな人だからこそ」の発見や驚きがあって楽しい展覧会でした!

展示風景

むしろ「水滸伝? よく知らないからスルーで…」という方こそ、本展に足を運んでみていただきたいです。物語を知らない人をも惹きつける、本物の「美術の力」を目の当たりにできると思います。

国芳の出世作「通俗水滸伝」シリーズ全74図が序盤で見られる!

展示風景

本展の大きな見どころとなるのが、江戸時代の浮世絵師・歌川国芳(うたがわ くによし、1797-1861)による「通俗水滸伝」シリーズ全74図の一挙公開です。

「水滸伝」とは、108人の豪傑たちが悪政に立ち向かう、中国で生まれた物語。江戸時代の日本でも流行し、浮世絵などの題材にもなりました。

歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人一個 打虎将季忠》江戸時代 文政末~天保前期(1828~33)頃 個人蔵

なかでも有名なのが国芳です。持ち前の大胆な構成力を活かし、豪傑たちのアクションを迫力たっぷりに描き出した「通俗水滸伝」シリーズは、国芳の出世作としても知られています。

本シリーズが一挙に公開される機会は珍しく、本展でも重要なパート。それが出し惜しみされることなく、最初の展示室ですべて公開されていました。

歌川国芳《水滸伝豪傑百八人之一個 清河県之産武松》 江戸時代 文政10年(1827)頃 個人蔵

水滸伝をよく知る人なら、「あっ、あの場面だ」と物語を思い出しながら鑑賞できるかもしれません。私は詳しくないので、絵を見ながら「この人はどんな人物?」「何をしている場面なんだろう?」と考えていました。

鑑賞していると自然と水滸伝そのものへの親しみが湧き、第2章から最終章まで興味深く展示を観ることができました。物語を知らない人をも序盤で深く引き込む、巧みな展示構成だと思います。

あなたの"推し豪傑"は誰?

歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人之一人 花和尚魯知深初名魯達》 江戸時代 文政10年(1827)頃 個人蔵

国芳の「通俗水滸伝」シリーズは、多くの絵画で1枚につき1人の豪傑が描かれています。水滸伝に詳しくなくても見やすく、人物のアクションが良い、刺青や髭がすごい、武器がかっこいい、敵の魔物(?)がキモかわいい……など、いろいろな視点で楽しめます。

私が気になったのは、《扈三娘一丈青(こさんじょういちじょうせい)》です。テストステロンがドバドバ出ていそうな、筋骨隆々の男性たちが並ぶなか、突然現れた女性の絵にパッと目を奪われました。

歌川国芳《水滸伝豪傑百八人之一個 扈三娘一丈青》 江戸時代 文政10年(1827)頃 個人蔵

扈三娘は涼しげな表情を浮かべていますが、その両手には刀が。激しく飛んでくる矢を刀で薙ぎ払っているのでしょうか、上半身を大きく捻る力強いポーズで描かれています。

あとで調べたところ、扈三娘はもともと裕福な家の令嬢で、強さと美貌を兼ね備えた女性武将だそう。二刀流の達人で、婚約者を助けるために自ら出陣して敵を生け捕りにしたことも。これはメロい女性の予感がします。

しかし家族を皆殺しにされ、望まぬ結婚までさせられる悲劇的な運命をたどるとのこと…。そ、そんなことがあっていいのでしょうか……水滸伝を読みたくなってきました。

展示風景

クセの強い外見や独特のポーズで描き出される英雄たちは、水滸伝を知らない人が見ても面白いのが凄いところ。むしろ、水滸伝を知らない人は先入観なく楽しめるかもしれません。

綺麗に整列して並ぶ豪傑たち

展示風景

余談ですが、パワフルな豪傑たちを描いた作品なのに、展示室では整然と並んでいるのが少々おかしく、可愛いらしさも感じました。

というのも、当時の浮世絵版画はサイズが規格化されていたため、ほとんどの作品が同じサイズなんです。決まったサイズでキャラクターを表現する点は、現代のトレーディングカードみたいだな、と思ったり。

左から、歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人一個 短命治郎阮小五》江戸時代 文政末~天保前期(1828~33)頃、歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人一個 豹子頭林冲》江戸時代 文政末~天保前期(1828~33)頃、歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人一個 摸著天杜遷》江戸時代 文政末~天保前期(1828~33)頃

また、本展は一部の写真撮影が可能で、第1章の国芳の「通俗水滸伝」シリーズはすべて写真を撮ることができます。お気に入りの作品を見つけて、トレカを購入するように写真で思い出を持ち帰ってはいかがでしょうか。

「水滸伝」、予習してから行くべき?

《傾城水滸伝》曲亭馬琴 作 歌川豊国・歌川国安・歌川貞秀 画 江戸時代 文政8~天保6年(1825~35)刊 立命館大学アート・リサーチセンター

答えはNOです。もちろん予習を否定するわけではありませんが、「原作を予習しなきゃ楽しめない」と思う必要はありません! 美術が持つ力を信じて、委ねてください。

展示風景

展覧会の企画側も、水滸伝をよく知らない来館者が多いことは想定済みではないか、と感じました。第1章に国芳の見やすい作品が配置され、初心者が自然に物語へと誘われる構成だからです。

展示風景

そして、第2章からは北宋時代の中国美術、葛飾北斎による水滸伝の挿絵、現代の小説や漫画、ドラマに関する展示など、「水滸伝」の成立から現代の受容に至るまでを概観できます。第1章で国芳が描いた豪傑たちのビジュアルに触れたからこそ、第2章以降も興味を持って前のめりに鑑賞できました。

《布袋戯偶》亦宛然掌中劇団

知識の有無は置いておいて、まずは美術館へ行ってみませんか? 作品を見て感じた「この人はどんなキャラクターなんだろう?」といった小さな疑問は、「水滸伝」という壮大な世界への扉を開いてくれると思います。

展覧会情報

◆大阪市立美術館開館90周年記念特別展「水滸伝」

会場:大阪市立美術館(天王寺公園内)
会期:2026年7月11日(土)~9月6日(日)
休館日:月曜日(ただし8月10日は開館)
※会期中、一部の作品の展示替えあり
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
展覧会公式サイト:大阪市立美術館開館90周年記念特別展「水滸伝」

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明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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