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2026.9.18

取材レポート【泉屋博古館】『寛永行幸と花の都の文化びと』天皇そっちのけで大騒ぎ?400年前の出来事を描いた屏風

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今、あなたの目の前を天皇が通りかかったら、どうしますか?

足を止めて頭を下げる? それとも写真を撮るためにスマホを取り出す?

多くの人にとって、それは一生に一度あるかないかの機会。今から400年前の京都で、実際にそのような出来事がありました。徳川秀忠・徳川家光の招きに応じ、後水尾天皇が京都・二条城に行幸された「寛永行幸」です。

《二条城行幸図屏風》江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

泉屋博古館にて、この歴史的なイベントを振り返る展覧会『寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと』が開幕しました。会期は10月18日(日)までです。

本展で展示される《二条城行幸図屏風》は、天皇や将軍が乗る御輿や牛車をはじめとする行列が通りを進む様子をいきいきと描いた作品。しかし、天皇をありがたそうに拝む人がいる一方、行列そっちのけで食べたり飲んだり、喧嘩したりする人々も。さらには、プライベートな空間を作って遊女を侍らせる男性まで…。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

「絵画に描かれる人が、こんなに俗っぽくていいの?」

とニヤニヤしながら見ているうちに、すっかり本作の虜になってしまいました。難しい歴史の勉強ではなく、400年前の京都に集った人々の人間味に触れる感覚です。展覧会で見つけた、本作のおもしろポイントを紹介していきますね。

ポイント①偉い人はどこにいる?周りの人の仕草を見よう!

《二条城行幸図屏風》の画面は上段と下段に分かれ、それぞれ異なる場面が描かれています。上段は後水尾天皇が二条城へ向かう行列、下段は将軍や大名たちが御所へ向かう行列です。

大きな画面に3000人以上もの人々が小さく描き込まれた本作は、主役と言える偉い人も目立つようには描かれていません。そこで注目したいのが、周りの人々。たとえば、警護のために配置された侍を見てみましょう。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

貴人が通る際には平伏するよう決められている彼らの向きを辿っていくと、高貴な人がいると思しき車や輿を見つけられます。それ以外のときは頭を上げて周囲を警戒していますが、居眠りしているように見える人もいて、サボっているのかいないのか…。偉い人が近くにいるときだけシャンとして、そうでないときは力を抜くのは、今も昔も変わらないのかも?

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

沿道もよく見てみると、一様に手を合わせて拝む人々を見つけられます。何を真剣に拝んでいるのか、と彼らが向くほうに視線を移すと、そこには鳳凰の飾りをつけた鳳輦(天皇が乗る輿)が。なるほど、それで人々がありがたそうに拝んでいるのですね。

《二条城行幸図屏風》(部分:後水尾天皇の鳳輦)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

このように画面に散りばめられたヒントから誰がどこにいるかを特定できちゃいます。寛永行幸そのものをよく知らなくても、民衆や侍の仕草から物語を読み解けるのが本作の面白さ。絵には3000人以上の人々が描かれていますが、それぞれの感情が読み取れるくらい、描写がいきいきとしています。

ポイント②行幸そっちのけ?自由すぎる沿道の人々

天皇が通るときに手を合わせる人々がいる一方、行幸そっちのけでやりたい放題な人々も目に入ってきます。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

飲んだり食べたりはマシなほうで、なかには喧嘩をする人々も。せっかく天皇が目の前を通ろうとしているのに、おかまいなしに振る舞っています。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

さらには、幕を張って自分のプライベートな空間を作り、遊女を侍らせる男性までいます。いったい何をしようとしているのか…。しかし、幕で遮れば外からは見られませんが、自分も行列が見えなくなるのでは…?

行列はゆっくりと厳かに進むのに対し、集まった人々はどんちゃん騒ぎ。静と動の対比によって騒々しさが高められ、彼らのはしゃぐ声まで聞こえてきそうでした。「寛永行幸」という仰々しい響きも和らぎ、思わず笑ってしまいます。

ポイント③細部まで凄い&全体的なまとまりも凄い◎

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

細かいのは人物の仕草や表情だけではありません。沿道に集まる人々の衣服に注目すると、さまざまな柄が描かれているのが伝わるでしょうか? 無地で色だけ変えるといった省エネもできたと思うのですが、柄の描き分けにも手を抜かなかった絵師……凄すぎます。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

また、本作は背景の金箔も印象的ですが、金に彩られるのは背景だけではありません。よく見てみると、衣服の柄や人々が持つ扇子などの細かい装飾にも、部分的に金があしらわれています。

見れば見るほど、「こんなものまで描かれている!」「なんか変なことしてる人がいる!」と発見がある《二条城行幸図屏風》。時間を取ってじっくり鑑賞したい作品です。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

そして、本作の凄さは「細かさ」だけではありません。3000人以上もの人々が好きなように振る舞っているのに、「とっ散らかり」が一切ないんです。一人ひとりを細かく描きながらも、全体としてまとまりのある画面に仕上がっています。

屏風という大画面で、「細かさ」と「まとまり」を両立させるとは、きっと相当な技量の絵師が描いたのでしょう。では、そんな作品を描いた絵師とは、いったい誰なのでしょうか?

ポイント④凄い作品なのに作者がわからない?

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

ところが、これほどの作品を描いた人物が誰なのかは、実はわかっていません。作風の揺れの少なさなどから、ひとつの工房で作られたと推測されるものの、手がけた絵師の名前ははっきりとしません。

緻密な描写力と全体をまとめる構成力からは、絵師の「ただものではないオーラ」が溢れ出ています。贅沢にあしらわれた金箔を見ても、本作が並大抵のものではないことは明らかでしょう。

それなのに、作者の名前が残っていないとは…。いったい誰が描いたのか、ここにきて謎が深まります。

ポイント⑤誰が依頼したのかもわからない?

《二条城行幸図屏風》(部分:徳川家光将軍の牛車)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

作者だけでなく、誰が本作を依頼したのかも詳しくはわかっていません。行事の性質からして幕府方の有力者ではないか、と考えられるものの、確かなことは謎に包まれています。

その手がかりのひとつになるかもしれないのが「馬」。丁寧に読み解いていくと、ある歴史上の人物と思しき人が特徴的に描かれているのです。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

下段に描かれた馬たちを見ていきましょう。皆、同じような朱色の鞦飾りを身につけています。ただし、将軍家の馬のみ茶色っぽい飾り。特別な色をまとっています。

ところが、もう一頭だけ茶色の飾りを身につけた馬がいます。将軍家の馬ではないのに…。

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

その馬に乗るのは、伊達政宗ではないか? とも考えられるそう。伊達家には、政宗が将軍と同じ色の飾りを入手し、馬につけて行列に参加したエピソードが伝わっています。絵師がこのネタを描き込んだのだとすれば、その背後には依頼主の意向が見え隠れするような……。

誰が依頼し誰が描いたのか、謎に包まれている《二条城行幸図屏風》。場面の描写はこんなにも克明なのに、実はわからないことだらけ…。そんなミステリアスなところも、本作の魅力かもしれません。

寛永文化を伝える名品の数々

展示風景

本展では《二条城行幸図屏風》だけでなく、寛永行幸や当時の文化を象徴する作品を多数展示。着物に焼きもの、押絵など、さまざまなジャンルの作品が揃います。

東福門院《能「楊貴妃」押絵》江戸時代 17世紀 泉屋博古館

たとえば、将軍の娘にして後水尾天皇の后となった東福門院(徳川和子)。彼女が制作に関わった押絵の数々は、ふっくらと立体的な仕立てが愛らしく、平面の絵とはまた違う魅力を放っています。

《銹絵木戸文水指》江戸時代・17世紀 京都府指定文化財 京都・法常寺

後水尾天皇も芸術に造詣が深かったらしく、《銹絵木戸文水指》は天皇みずから成形に携わったと伝わる水指です。手でこねたような蓋のつまみには指の跡があり、後水尾天皇の指の形かも…? と考えられています。

このように、屏風の中に描かれていた人々が、実際に手を動かして作ったとされる作品も展示されるのが本展のポイント。「絵の中の人」と現実がつながり、「歴史の手触り」を感じられる内容でした。

400年前の京都を覗いてみよう

《二条城行幸図屏風》(部分)江戸時代・17世紀 京都市指定文化財 泉屋博古館

朝廷と幕府の融和ムードが生まれるきっかけとなった寛永行幸。歴史的な行事を記録した《二条城行幸図屏風》には天皇や将軍も描かれますが、面白いのはなんといっても、思い思いに過ごす民衆たち。肩の力を抜いて鑑賞したい作品です。

クスッと笑えるポイントが随所に仕込まれる本作を入り口に、京都の歴史と文化に触れてみてはいかがでしょうか?

展覧会情報

◆寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと
会期:2026年9月5日(土)〜10月18日(日)
会場:泉屋博古館
開館時間:10:00〜17:00(最終入館時間 16:30)
休館日:月曜日(9/21、10/12は開館)、9/24(木)10/13(火)
展覧会公式サイト:寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと


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明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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