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2026.8.12
【取材レポート・京都市京セラ美術館】『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』「もっと見たい!」を生む工夫
北斎や広重と並んで江戸時代を代表する浮世絵師、歌川国芳(うたがわ くによし)。武者絵に美人画、猫に妖怪と、さまざまなジャンルの浮世絵で活躍しました。
その人気の秘訣はどこにあるのか探るべく、京都市京セラ美術館で開催中の『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』へ。国芳の作品が200点以上も展示される本展では、代表作からレアな肉筆画まで、多彩な作品が並びます。
そこで私が気づいたのは、国芳が作品に忍ばせた数々の“仕掛け”。彼は人を楽しませ、夢中にするため、画中にさまざまな工夫を凝らしていました。
いつしか私も、仕掛けを探すこと自体を楽しむように。この記事では、鑑賞者を夢中にさせる国芳作品の魅力を深掘りしていきます。
国芳の人気はどこから来たのか?
歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2-3年(1845-46)頃 個人蔵
12歳のときに描いた絵が初代歌川豊国に認められ、15歳で弟子入りした歌川国芳(1797-1861)。しかし、豊国や歌川国貞などが人気を博した時代、20代の国芳はあまり目立った活躍ができませんでした。
転機が訪れたのは30代の頃。中国から伝わった物語「水滸伝」に登場する英雄たちを描いた「通俗水滸伝豪傑百八人之一個(一人)」シリーズが大評判となり、躍進のきっかけを掴みました。
歌川国芳《本朝水滸伝豪傑八百人一個 天眼礒兵衛 夜叉嵐》天保2年(1831)頃 個人蔵
「水滸伝」シリーズは個性豊かなアウトローたちを描いた浮世絵の連作で、大きな見どころのひとつが「刺青」です。彼らの身体中に彫られた華やかな刺青は、豪傑たちの只者ではない迫力を表現し、作品をよりドラマチックなものへと演出。作品の影響で刺青ブームが盛り上がり、国芳の絵が刺青の図柄になったこともあるとか。
これを機に波に乗ったのか、国芳は「水滸伝」シリーズをはじめとする武者絵のほか、美人画や役者絵、妖怪、猫、風刺画……などなど、さまざまな分野で大活躍しました。
ですが、他にも多くの優れた絵師がいた時代に、なぜ国芳だったのでしょうか。なぜ人々は、国芳の絵を見たがったのでしょうか?
そうした疑問を胸に展覧会を見ていると、あることに気づきます。本展には200点以上の作品が展示されていますが、どの作品もただ眺めるだけでは終わらないのです。
歌川国芳《みかけハこハゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)頃 個人蔵
見れば見るほど面白い発見ができる作品の数々。どうやら国芳は、絵を見る人が「もっと見たくなる仕掛け」を、作品のあちこちに忍ばせていたようです。
「あれ?」と二度見させる達人、国芳
歌川国芳《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》弘化元-2年(1844-45)頃 個人蔵
たとえば《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》。展覧会で何気なく目にした本作は、刀を持った男性が睨みを利かせている作品です。
着物には大きなドクロの模様が描かれ、はじめは「へー、江戸時代の人もドクロをカッコいいと感じたのかな」「ちょっと厨二っぽい? ダークヒーロー系なのかな?」と思っていたんです。ですが、あることに気づいて二度見。何かというと……
歌川国芳《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》(部分)弘化元-2年(1844-45)頃 個人蔵
猫が寄り集まってドクロの形になっているんです!!
これは「寄せ絵」というもので、国芳が得意としたジャンル。寄せ絵のアイデアだけで1枚の絵が描けるくらいなのに、国芳はそれを隠し味として着物の柄に忍ばせました。
この1枚をきっかけに、私の展覧会の見方はガラッと変わってしまいました。「もしかして、他の作品にも何か隠されているのでは…?」と気になって、着物を重点的に見ていくようになります。
「他に面白い柄の着物はないかな?」
「この柄はどんな意味があるんだろう?」
そう考えながら絵を見ていると、「絵の見方」自体も変わっていることに気がつきました。それまでは絵の全体像をぱっと見て、好きかどうかを判断していたのに対し、1枚1枚の絵をじっくりと見て「面白いポイントはどこだ?」と探すようになっていたのです。
歌川国芳《猫の当字 かつを》天保末(1841-43)頃 個人蔵
着物の柄に限らず、仕掛けを1つ見つけるたびに、「やった!」と国芳と心が通じた気持ちになる。そして「次の作品ではどうだろう?」とまた探したくなる。いつのまにか作品を鑑賞するというより、国芳と宝探しをする体験に変わっていました。
ついに国芳本人が登場!しかし……
そうして宝探しを進めていると、最終章である人物に出会います。それは国芳自身。宝探しを仕掛けた本人に、ようやく出会うことができました。
その登場の仕方にもクセがありまして…。
歌川国芳《名誉右に無敵左り甚五郎》嘉永初期(1848-50)頃 個人蔵
《名誉右に無敵左り甚五郎》は、江戸時代初期に活躍した彫刻家、左甚五郎が人形を彫っている場面。中央に座る甚五郎は、国芳本人とされています。
しかし甚五郎は背中を向けており、顔をうかがうことはできません。散りばめられた「地獄変相図のどてら」「芳桐紋の手ぬぐいと座布団」「傍らの猫」というヒントの意味がわかる人にだけ、その人物が国芳だとわかるのです。
歌川国芳《名誉右に無敵左り甚五郎》(部分)嘉永初期(1848-50)頃 個人蔵
このように、国芳は自分を絵に登場させることはあったものの、あの手この手で顔を隠していました。ほかにも、《流行逢都絵希代稀物》では中央にいる大津絵描きが国芳の自画像ですが、舞い上がる紙で顔を隠しています。
歌川国芳《流行逢都絵希代稀物》嘉永5年(1852)頃 個人蔵
それはまるで、国芳が仕掛けた最大の宝探しのよう。宝を見つけられても、彼が自ら顔を見せてくれることはないのですが…。
ここまでたどり着いた鑑賞者に、国芳は何を思うのでしょうか?「よくやった!」なのか、「まだまだこんなもんじゃねえ」なのか…。
隠された顔に浮かぶ表情を想像し、なんだか憎たらしく、でも愛おしさも感じていました。
「もっと見たい!」と思わせる国芳の浮世絵
あらゆるジャンルで活躍した国芳。どの分野でもユニークな発想で取り組んで人気を博し、本展では「浮世絵スーパークリエイター」と称されています。
私が感じた国芳の凄さは、絵を「見る」だけで終わらせず、鑑賞者に「発見」させるところです。宝探しを楽しんでいるうちに、国芳という人間にも少し近づけた気がしてきます。
最後まで国芳のすべてを知ることはできませんでしたが、だからこそ国芳の新作が見たい! 次も面白いに決まってる! 私が江戸時代に生きていたら、こんな風に思っていそうです。
展覧会を見終えた今でも、「まだまだ私が見逃した仕掛けがあったんだろうなあ…」と考えてしまいます。何度でも絵を見たくなるのも、国芳の狙いかもしれません。
展覧会情報
◆浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展
会場:京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階
会期:2026年7月18日(土)~9月23日(水・祝)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日 ※ただし9月21日(月・祝)は開館
展覧会ウェブサイト:浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展
画像ギャラリー
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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