Facebook X Instagram Youtube

EVENT

2026.8.12

【取材レポート・京都市京セラ美術館】『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』「もっと見たい!」を生む工夫

Googleで優先するソースとして追加

北斎や広重と並んで江戸時代を代表する浮世絵師、歌川国芳(うたがわ くによし)。武者絵に美人画、猫に妖怪と、さまざまなジャンルの浮世絵で活躍しました。

その人気の秘訣はどこにあるのか探るべく、京都市京セラ美術館で開催中の『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』へ。国芳の作品が200点以上も展示される本展では、代表作からレアな肉筆画まで、多彩な作品が並びます。

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』展示風景展示風景

そこで私が気づいたのは、国芳が作品に忍ばせた数々の“仕掛け”。彼は人を楽しませ、夢中にするため、画中にさまざまな工夫を凝らしていました。

いつしか私も、仕掛けを探すこと自体を楽しむように。この記事では、鑑賞者を夢中にさせる国芳作品の魅力を深掘りしていきます。

国芳の人気はどこから来たのか?

歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2-3年(1845-46)頃 個人蔵歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2-3年(1845-46)頃 個人蔵

12歳のときに描いた絵が初代歌川豊国に認められ、15歳で弟子入りした歌川国芳(1797-1861)。しかし、豊国や歌川国貞などが人気を博した時代、20代の国芳はあまり目立った活躍ができませんでした。


転機が訪れたのは30代の頃。中国から伝わった物語「水滸伝」に登場する英雄たちを描いた「通俗水滸伝豪傑百八人之一個(一人)」シリーズが大評判となり、躍進のきっかけを掴みました。

歌川国芳《本朝水滸伝豪傑八百人一個 天眼礒兵衛 夜叉嵐》天保2年(1831)頃 個人蔵歌川国芳《本朝水滸伝豪傑八百人一個 天眼礒兵衛 夜叉嵐》天保2年(1831)頃 個人蔵

「水滸伝」シリーズは個性豊かなアウトローたちを描いた浮世絵の連作で、大きな見どころのひとつが「刺青」です。彼らの身体中に彫られた華やかな刺青は、豪傑たちの只者ではない迫力を表現し、作品をよりドラマチックなものへと演出。作品の影響で刺青ブームが盛り上がり、国芳の絵が刺青の図柄になったこともあるとか。


これを機に波に乗ったのか、国芳は「水滸伝」シリーズをはじめとする武者絵のほか、美人画や役者絵、妖怪、猫、風刺画……などなど、さまざまな分野で大活躍しました。

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』展示風景展示風景

ですが、他にも多くの優れた絵師がいた時代に、なぜ国芳だったのでしょうか。なぜ人々は、国芳の絵を見たがったのでしょうか?

そうした疑問を胸に展覧会を見ていると、あることに気づきます。本展には200点以上の作品が展示されていますが、どの作品もただ眺めるだけでは終わらないのです。

歌川国芳《みかけハこハゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)頃 個人蔵歌川国芳《みかけハこハゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)頃 個人蔵

見れば見るほど面白い発見ができる作品の数々。どうやら国芳は、絵を見る人が「もっと見たくなる仕掛け」を、作品のあちこちに忍ばせていたようです。

「あれ?」と二度見させる達人、国芳

歌川国芳《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》弘化元-2年(1844-45)頃 個人蔵歌川国芳《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》弘化元-2年(1844-45)頃 個人蔵

たとえば《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》。展覧会で何気なく目にした本作は、刀を持った男性が睨みを利かせている作品です。

着物には大きなドクロの模様が描かれ、はじめは「へー、江戸時代の人もドクロをカッコいいと感じたのかな」「ちょっと厨二っぽい? ダークヒーロー系なのかな?」と思っていたんです。ですが、あることに気づいて二度見。何かというと……

歌川国芳《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》(部分)弘化元-2年(1844-45)頃 個人蔵歌川国芳《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》(部分)弘化元-2年(1844-45)頃 個人蔵

猫が寄り集まってドクロの形になっているんです!!

これは「寄せ絵」というもので、国芳が得意としたジャンル。寄せ絵のアイデアだけで1枚の絵が描けるくらいなのに、国芳はそれを隠し味として着物の柄に忍ばせました。

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』展示風景展示風景

この1枚をきっかけに、私の展覧会の見方はガラッと変わってしまいました。「もしかして、他の作品にも何か隠されているのでは…?」と気になって、着物を重点的に見ていくようになります。

「他に面白い柄の着物はないかな?」
「この柄はどんな意味があるんだろう?」

そう考えながら絵を見ていると、「絵の見方」自体も変わっていることに気がつきました。それまでは絵の全体像をぱっと見て、好きかどうかを判断していたのに対し、1枚1枚の絵をじっくりと見て「面白いポイントはどこだ?」と探すようになっていたのです。

歌川国芳《猫の当字 かつを》天保末(1841-43)頃 個人蔵歌川国芳《猫の当字 かつを》天保末(1841-43)頃 個人蔵

着物の柄に限らず、仕掛けを1つ見つけるたびに、「やった!」と国芳と心が通じた気持ちになる。そして「次の作品ではどうだろう?」とまた探したくなる。いつのまにか作品を鑑賞するというより、国芳と宝探しをする体験に変わっていました。

ついに国芳本人が登場!しかし……

そうして宝探しを進めていると、最終章である人物に出会います。それは国芳自身。宝探しを仕掛けた本人に、ようやく出会うことができました。

その登場の仕方にもクセがありまして…。

歌川国芳《名誉右に無敵左り甚五郎》嘉永初期(1848-50)頃 個人蔵歌川国芳《名誉右に無敵左り甚五郎》嘉永初期(1848-50)頃 個人蔵

《名誉右に無敵左り甚五郎》は、江戸時代初期に活躍した彫刻家、左甚五郎が人形を彫っている場面。中央に座る甚五郎は、国芳本人とされています。

しかし甚五郎は背中を向けており、顔をうかがうことはできません。散りばめられた「地獄変相図のどてら」「芳桐紋の手ぬぐいと座布団」「傍らの猫」というヒントの意味がわかる人にだけ、その人物が国芳だとわかるのです。

歌川国芳《名誉右に無敵左り甚五郎》(部分)嘉永初期(1848-50)頃 個人蔵歌川国芳《名誉右に無敵左り甚五郎》(部分)嘉永初期(1848-50)頃 個人蔵

このように、国芳は自分を絵に登場させることはあったものの、あの手この手で顔を隠していました。ほかにも、《流行逢都絵希代稀物》では中央にいる大津絵描きが国芳の自画像ですが、舞い上がる紙で顔を隠しています。

歌川国芳《流行逢都絵希代稀物》嘉永5年(1852)頃 個人蔵歌川国芳《流行逢都絵希代稀物》嘉永5年(1852)頃 個人蔵

それはまるで、国芳が仕掛けた最大の宝探しのよう。宝を見つけられても、彼が自ら顔を見せてくれることはないのですが…。

ここまでたどり着いた鑑賞者に、国芳は何を思うのでしょうか?「よくやった!」なのか、「まだまだこんなもんじゃねえ」なのか…。

隠された顔に浮かぶ表情を想像し、なんだか憎たらしく、でも愛おしさも感じていました。

「もっと見たい!」と思わせる国芳の浮世絵

歌川国芳《宮本武蔵と巨鯨》弘化4年(1847)頃 個人蔵歌川国芳《宮本武蔵と巨鯨》弘化4年(1847)頃 個人蔵

あらゆるジャンルで活躍した国芳。どの分野でもユニークな発想で取り組んで人気を博し、本展では「浮世絵スーパークリエイター」と称されています。

私が感じた国芳の凄さは、絵を「見る」だけで終わらせず、鑑賞者に「発見」させるところです。宝探しを楽しんでいるうちに、国芳という人間にも少し近づけた気がしてきます。

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』展示風景展示風景

最後まで国芳のすべてを知ることはできませんでしたが、だからこそ国芳の新作が見たい! 次も面白いに決まってる! 私が江戸時代に生きていたら、こんな風に思っていそうです。

展覧会を見終えた今でも、「まだまだ私が見逃した仕掛けがあったんだろうなあ…」と考えてしまいます。何度でも絵を見たくなるのも、国芳の狙いかもしれません。

展覧会情報

『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』京都市京セラ美術館 会場入口京都市京セラ美術館 会場入口

◆浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展
会場:京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階
会期:2026年7月18日(土)~9月23日(水・祝)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日 ※ただし9月21日(月・祝)は開館
展覧会ウェブサイト:浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展


【写真15枚】【取材レポート・京都市京セラ美術館】『浮世絵スーパークリエイター 歌川国芳展』「もっと見たい!」を生む工夫 を詳しく見る イロハニアートSTORE 50種類以上のマットプリント入荷! 詳しく見る
明菜

明菜

  • instagram
  • twitter
  • homepage

美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

明菜さんの記事一覧はこちら