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2026.10.28
【会場レポート】山種美術館の60年をたどる、近代日本画の名品。「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」の見どころとは?
近代日本画のオールスターが、10年ぶりに勢ぞろい!今年開館から60周年を迎えた山種美術館にて、特別展『ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ―横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―』が開催されています。
横山大観、村上華岳、上村松園、速水御舟らの名画に加え、同館の看板猫・竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】や、修復後初お披露目となる小室翠雲《海寧観潮》も登場。国内屈指の日本画コレクションをたっぷり味わえる展覧会として人気を集めています。見どころをご紹介します。
目次
右:竹内栖鳳(たけうちせいほう)《班猫》(はんびょう)【重要文化財】 1924(大正13)年 中央:村上華岳(むらかみかがく)《裸婦図》 【重要文化財】 1920(大正9)年 左:上村松園(うえむらしょうえん)《砧》(きぬた) 1938(昭和13)年
山種美術館の歴史をたどる、60年のあゆみ
菱田春草(ひしだしゅんそう)《月四題》(つきよんだい) 1909〜10(明治42〜43)年頃
山種証券(現・SMBC日興証券)の創立者・山﨑種二が個人で集めた作品を基礎とし、重要文化財6点を含む約1800点のコレクションを有する山種美術館。種二は「絵の値打ちは作者である画家の人柄に負うところ大だ」という考えのもと、上村松園や川合玉堂といった当時活躍していた画家と交際しながら作品を収集し、奥村土牛のように将来性を信じた画家の支援にも力を注ぎました。
その後は二代目館長・山﨑富治とともに、旧安宅コレクションの速水御舟作品を一括購入。東山魁夷らに皇居ゆかりの作品の制作を依頼したほか、若手画家を応援する「山種美術館賞」(1971〜1997年、隔年)を設けました。
速水御舟(はやみぎょしゅう)《昆虫二題》(こんちゅうにだい) 1926(大正15)年
1998年の千代田区三番町への仮移転を経て、2009年10月には渋谷区広尾に新美術館をオープン。日本画の魅力を広く発信すべく、多彩なテーマによる展覧会を開くとともに、2016年からは「山種美術館賞」の趣旨を継ぐ公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード」を実施し、受賞作品を買い上げるなど、新たな才能の発掘と育成に努めています。
2007年に就任した現館長の山﨑妙子は、60年の歴史を振り返って「バブル崩壊やリーマンショック、そしてコロナ禍といった苦難もあったなか、多くの方々の支えもあり、美術館を運営していくことができた」と感謝の気持ちを語ります。
名品中の名品が一堂に。山種コレクションの真髄に触れる
それでは、実際の展示の様子をご紹介しましょう。やはり最大の見どころは、同館のコレクションから厳選された名品が一堂に並んでいることです。ともに重要文化財の竹内栖鳳《班猫》と村上華岳《裸婦図》を筆頭に、上村松園《蛍》、土田麦僊《大原女》、福田平八郎《筍》、そして速水御舟《昆虫二題》など、教科書や画集で目にする作品を間近に楽しむことができます。
渡辺省亭(わたなべせいてい)《葡萄》 19〜20世紀(明治〜大正時代)
渡辺省亭の《葡萄》に目を向けてください。籠に盛られた葡萄と、こぼれ落ちた実を食べようとする1匹のねずみが描かれています。ねずみの柔らかな毛並みも、穴の開いた葡萄の葉も驚くほど細やか。多産のねずみは子孫繁栄を、実を多くつける葡萄は繁栄や豊穣を表します。一見意外な顔合わせですが、とてもおめでたい画題の作品なのです。
下村観山(しもむらかんざん)《老松白藤》(ろうしょうはくとう) 1921(大正10)年
下村観山の《老松白藤》は、明治神宮造営局の依頼により、伏見宮家に奉献するために制作された作品です。
松にかかる藤花の組み合わせは、和歌や『源氏物語』など古典文学で古くから親しまれ、松は男性、藤は女性の象徴とされてきました。左右に枝を伸ばす巨木の幹は、桃山時代の障壁画を思わせるほど豪胆で華麗ですが、目を凝らすと小さな熊蜂が1匹描き込まれていることに気づきます。絵の前で、どこにいるのか探してみましょう。
よみがえった大画面―《海寧観潮》が語る修復の力
小室翠雲(こむろすいうん)《海寧観潮》(かいねいかんちょう) 1922(大正11)年
山種美術館では、種二の掲げた「美術を通した社会貢献」のもと、展示や収集だけでなく、研究や保存修復についても努めてきました。本展でも、2025年にバンク・オブ・アメリカの文化財保護プロジェクトの助成を受けた作品が、修復後初めて公開されています。
それが小室翠雲の《海寧観潮》です。中国の銭塘江(せんとうこう)では、旧暦8月の満潮時に海水が川を逆流し、高い波が遡る現象が起きますが、その光景を臨場感たっぷりに描いています。押し寄せる波はもちろん、翠雲が中国への取材を踏まえた、船や船頭たちの細やかな描写も見どころです。
サイズは表装を含めると縦241.8センチ、横259.9センチと、掛軸としては異例の大きさ。経年により左右の裂が収縮して歪みが生じ、縦方向には皺、横方向には折れと亀裂が見られました。
そこで、裏打ち紙を交換して折れや亀裂を解消。さらにクリーニングによりシミを和らげ、めくれている紙を糊で接着するなどの修復を施し、鑑賞性を高めて、制作当初の状態に近づけました。
会場では、修復前の作品の様子も写真で紹介されています。見比べると、修復後は全体がぱっと明るくなり、水面や人物の淡い色彩、舟を細密に描いた線のタッチも、くっきり浮かび上がって見えます。「こんなに見違えるとは…」と驚くばかり。約100年前の迫力ある光景が、いま目の前へ鮮やかによみがえっています。
「人柄」で結ばれた、種二と画家たちの交流
横山大観(よこやまたいかん)《心神》(しんしん) 1952(昭和27)年
種二と近代日本画家たちとの交流を通して収集された作品も見逃せません。雲の合間に富士山がそびえる横山大観の《心神》は、同館の設立にあたり、「美術館をつくるなら」という条件のもと、大観から特別に購入を許された一枚です。
種二と大観はとりわけ親しく、大観は一時期、熱海にあった種二の別荘に滞在して「嶽心荘」と名付けたほか、東京に自邸を建てる際には、種二が後見役を務めたといいます。
上村松園も、種二と親しかった画家のひとりです。松園が息子で日本画家の松篁とともに京都から上京するたび、種二は旅館や車、食事の手配まで、手厚くもてなしました。
小林古径(こばやしこけい)《清姫》(きよひめ) ※右から「日高川」「鐘巻」「入相桜」 1930(昭和5)年
紀州の道成寺伝説を題材とした小林古径の《清姫》も、種二との深い関わりを物語る作品といえます。会場では全8図のうち、「日高川」「鐘巻」「入相桜」の3点を展示。院展にて好評を博し、長く古径の手元に置かれていましたが、美術館の設立を条件に購入が許されました。
岩絵具の質感、金箔の輝き―日本画ならではの醍醐味
右:上村松園《蛍》 1913(大正2)年 左:今村紫紅(いまむらしこう)《大原の奥》 1909(明治42)年
筆者がはじめて山種美術館を訪れたのは、20年以上前の2005年、桜にちなんだ近現代の日本画を紹介する『桜さくらサクラ・2005』でした。速水御舟や菱田春草、そして横山大観らの描いた桜の作品に心惹かれ、当時はまだ知らなかった近代日本画の魅力にすっかり虜となりました。
以来、三番町時代から現在の広尾まで足繁く通い、近代日本画を中心に、さまざまな名画と出会ってきました。奥村土牛の作品の瑞々しい色彩に心を打たれ、上村松園の上品で凛とした美人画に見惚れ、速水御舟の描く、ときにはかないまでの繊細な表情をした作品を前に、思わず目頭が熱くなったことを覚えています。近代日本画の魅力を教えてくれたのは、ほかならぬ山種美術館でした。
天然の岩絵具の質感や金箔の輝きを実際に目の当たりにし、四季の風情を感じ、心が穏やかになる時間は日本画鑑賞ならではの醍醐味といえます。その贅沢なひとときを、本展にてぜひ味わってください。
※作品は全て山種美術館所蔵。写真は主催者の許可を得て撮影しました。
展覧会情報
【開館60周年記念特別展3】
ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ―横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ―
開催場所:山種美術館
開催期間:2026年10月10日(土)~12月6日(日)
所在地:東京都渋谷区広尾3-12-36
アクセス:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日[11/23(月・祝)は開館、11/24(火)は休館]
入館料:一般1500円、大学生・高校生1200円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)
公式HP:ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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