Facebook X Instagram Youtube

EVENT

2026.10.2

【展覧会レポート!】開館10周年、すみだ北斎美術館の「推し」が大集合「ベスト オブ すみだ北斎美術館」の名品コレクションを巡る

Googleで優先するソースとして追加

2016年、葛飾北斎の生誕地である東京・墨田区に開館したすみだ北斎美術館。開館以来、北斎と門人たちの作品を多彩な切り口で紹介し続け、今年3月には累計来館者数150万人に達するなど、日本屈指の北斎専門館として人気を集めてきました。

現在、開館10周年を記念し、特別展「ベスト オブ すみだ北斎美術館―隅田川両岸景色図巻と名品―」が開催中です。学芸員が個々の視点で選び抜いた、同館ならではの名品コレクションを一挙公開。いったいどんな展示なのか、会場の様子とともに見どころをレポートします。

北斎とすみだをつなぐ、「隅田川両岸景色図巻」

葛飾北斎「隅田川両岸景色図巻」(部分) 文化2年(1805) ※前後期で巻替え

まず肉筆画では、現存する北斎作品のなかで最も長い「隅田川両岸景色図巻」に注目してください。劇作者・烏亭焉馬(うていえんば)の依頼を受け、現在の墨田区内にあった焉馬の自宅で描かれたことが分かっており、まさに北斎とすみだのつながりを象徴する作品といえます。

明治35年にフランスの国立競売場で競売にかけられて以降、100年以上にわたり所在不明となっていましたが、2016年の開館記念展で公開され、約100年ぶりに里帰りを果たしました。

葛飾北斎「隅田川両岸景色図巻」(部分) 文化2年(1805) ※前後期で巻替え

そこに広がるのは、柳橋から山谷堀へといたる両岸の景色です。細かな風景描写もさることながら、人々の生き生きとした表情も見どころ。絵巻の中へ入り込んでいくと、川面を渡る風の音や登場人物の話し声までもが聞こえてきそうな臨場感に包まれ、あたかも小舟に乗って、隅田川をゆっくりと遡っていくかのような感覚を味わえます。

表具の布地の一致が解き明かした、思わぬ事実

右:葛飾北斎「雀と罠図」 左:葛飾北斎「節季候図」(個人蔵) ともに文化7年(1810) ※前期展示

初公開された「雀と罠図」と「節季候図」は、かつて同じ押絵貼屏風を構成していた可能性が高いことが分かった作品です。手がかりは、意外にも掛軸の表具に使われた布地(裂)。すみだ北斎美術館の調査により、この2作と「梅樹図」の3作品は、裂が一致することが明らかになりました。さらに北斎館(小布施町)の所蔵する「ほととぎす聞く美人読書」も、現在は表具が変わっているものの、証言によればかつて同じ裂が使われていたといいます。

制作から約200年を経て、「節季候図」の出現をきっかけに、離れ離れになっていた作品たちが表具の布地を通して一つの物語を語りはじめました。北斎研究の奥深さを感じるとともに、ロマン溢れる展示として本展のハイライトを飾っているといえるでしょう。

希少な柱絵「初夢美人図」と、洋風版画への挑戦

葛飾北斎「初夢美人図」 天明4〜5年(1784〜85)頃 ※前期展示

錦絵や摺物においても、他ではなかなか見られない希少な作品が少なくありません。例えば北斎が春朗と名乗っていた最初期の「初夢美人図」は、他での所蔵が知られていない柱絵。そこには炬燵にもたれかかり、富士山を背に鷹を掲げた若衆に寄り添う夢を見ながら、眠る美人の姿が描かれています。おめでたい夢を見ながら微笑む、どこか愛おしい表情も見逃せません。

葛飾北斎「賀奈川沖本杢之図」 文化(1804〜18)初年頃 ※前期展示

北斎が洋風版画に傾注した時期に手がけた「賀奈川沖本杢之図」や「阿蘭陀画鏡 江戸八景」は、ともに現存数が少ない貴重な作品です。

このうち「賀奈川沖本杢之図」は、題名からおそらく本牧付近の景色を描いたものとされ、題名の横書きや額縁風の枠などからも、洋風表現を意識していることがわかります。波の構図は左右反転ながら「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」と共通しますが、強い陰影が生む不穏な雰囲気に思わず目を引きつけられます。

珍しい落款の摺物と、フランスから帰ってきた黄表紙

葛飾北斎「高輪休茶屋」 文化(1804〜18)頃 ピーター・モース コレクション ※前期展示

商業目的のために版元から刊行されるのでなく、仲間内で作り出版した摺物も、北斎は生涯を通して数多く手がけました。なかでも宗理期以降は狂歌師との交流が盛んとなり、さまざまな狂歌入りの摺物を制作しています。

「日本橋霞」と「高輪休茶屋」は、向岳北斎という珍しい落款を持つ作品です。向岳の読みや意味は未だ明らかになっておらず、同シリーズはこの2点のほか「浅草若菜」「隅田川柳」の全4点が確認されるのみ。「高輪休茶屋」における波は、絵具を使わず紙の凹凸だけで表す空摺という技法によるもので、私家版ならではの手の込んだ仕事を見ることができます。

葛飾北斎『白井権八幡随長兵衛 驪比異塚』 安永9年(1780) ※前期展示

黄表紙では『白井権八幡随長兵衛 驪比異塚』も見ておきたい作品のひとつです。北斎が絵師としてデビューした翌年に出版された一冊で、画風には師の勝川春章よりも、当時人気を博していた鳥居清長の特徴が色濃く表れています。

元はフランスの宝石商でコレクターのアンリ・ヴェヴェールと、同じくフランスで美術商を営んだ林忠正の旧蔵品として知られ、フランスから日本へと戻ってきました。

葛飾北斎『画本狂歌 山満多山』 享和4年(1804) ※前期展示

このほか、当時の色合いが綺麗に残る狂歌絵本『画本狂歌 山満多山』では、同書の販売時に使用された袋もあわせて公開。北斎の代表作のひとつである『北斎漫画』は、世界で僅か2つしか確認されていない奥付を持つ貴重な一冊が展示されています。

「ベスト オブ」のタイトルが示す通り、名品揃いの展覧会であるのはいうまでもありませんが、こうしたレアな作品が多いのも大きな見どころではないでしょうか。

正体不明の絵師が残した、魅力あふれる「三美人図」

天淵道人「三美人図」 文化(1804〜18)後期文政(1818〜30) ※前期展示

孫弟子まで含めると、200人以上の門人がいたとされる北斎。本展では、門人の双璧ともいわれる魚屋北溪や蹄斎北馬をはじめ、現在ではあまり知られていない二代葛飾北斎らの作品を展示しています。

天淵道人(てんえんどうじん)の「三美人図」は、室内の遊女、道中姿の花魁、そして風に吹かれる芸妓を描いた、三幅対の風雅な作品です。色味は強く、衣装などの質感表現も緻密で、文化後期から文政期にかけての北斎の画風がうかがえますが、作者の天淵道人については、この作品以外は何もわかっていません。謎めいた人物だけに、今後の調査や研究が待たれます。

あなたの「ベスト オブ」は、どの作品ですか?

特別展「ベスト オブ すみだ北斎美術館―隅田川両岸景色図巻と名品―」展示風景

会場内では、学芸員それぞれの「推し」作品を、「学芸員のイチ推し!」としてコメント付きで紹介。さらに会場の外では「あなたのベスト オブ すみだ北斎美術館」として、12の出品作品の中からお気に入りを選び、シールを貼って投票できるコーナーも設けられています。(※中間順位と最終結果は同館公式SNSにて発表)

北斎のアトリエ 展示コーナー

最後にあらためて実感したのは、すみだ北斎美術館が誇るコレクションの層の厚さです。肉筆画から錦絵、摺物、版本まで、一人の絵師からこれほど多彩な表現が生まれていたのかと驚かされることばかりでした。

もしすみだ北斎美術館へまだ訪れたことがないなら、この展覧会こそ絶対におすすめしたい一本です。10年という歳月をかけて積み重ねられてきた、学芸員たちそれぞれの「推し」に、ぜひ出会ってみてください。

※作品は「節季候図」を除き、すべてすみだ北斎美術館蔵。会場内の展示作品は主催者の許可を得て撮影しました。

展覧会情報

◆開館10周年記念 特別展 ベスト オブ すみだ北斎美術館―隅田川両岸景色図巻と名品―
開催場所:すみだ北斎美術館
開催期間:2026年9月15日(火)〜11月23日(月・祝) ※前後期で一部展示替えを実施
前期:9月15日(火)〜10月18日(日) 後期:10月21日(水)〜11月23日(月・祝)
所在地:東京都墨田区亀沢2-7-2
開館時間:9:30〜17:30(入館は17:00まで)
休館日:毎週月曜日(月曜が祝日・振替休日の場合は翌平日)
開館:10月12日(祝・月)、11月23日(祝・月) 休館:9月24日(木)、10月13日(火) ※10月20日(火)は展示替えのため特別展は休室
観覧料:一般1500円、65歳以上1000円、高校生・大学生1000円、中学生500円、小学生以下無料
美術館サイト:ベスト オブ すみだ北斎美術館―隅田川両岸景色図巻と名品―


【写真12枚】【展覧会レポート!】開館10周年、すみだ北斎美術館の「推し」が大集合「ベスト オブ すみだ北斎美術館」の名品コレクションを巡る を詳しく見る イロハニアートSTORE 50種類以上のマットプリント入荷! 詳しく見る
はろるど

はろるど

  • twitter
  • homepage

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

はろるどさんの記事一覧はこちら