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2023.7.6
いよいよ聖堂の完成が視野に!『ガウディとサグラダ・ファミリア展』の見どころレポート
スペイン、カタルーニャ地方のレウスに生まれ、州都バルセロナにユニークな作品を残した建築家のアントニ・ガウディ(1852〜1926年)。そのうち長らく「未完の聖堂」といわれながら、完成の時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリアは、ヨーロッパのみならず、世界から多くの人々が日々訪れるなど人気を集めています。
目次
このサグラダ・ファミリアに焦点を絞り、ガウディの建築思想と創造のインスピレーション、さらに聖堂の建設プロセスを解き明かす展覧会が、東京国立近代美術館にて開かれています。
若き日のガウディの活動とは?学生時代の図面から貴重な建築論ノートまで。
銅板機具の職人の父のもと、5人兄弟の末っ子に生まれたガウディ。16歳にしてバルセロナへ移り住むと、建築学校への進学を志し、21歳にて県立バロセロナ建築学校へと入学します。その後、夭折(ようせつ)したふたりの兄姉のほか、医者の兄や母を亡くすものの、数カ所の建築事務所を掛け持ちでアルバイトしながら生活を送り、26歳の時に卒業して、建築家の資格を獲得しました。
アントニ・ガウディ『クメーリャ革手袋店ショーケース、パリ万国博覧会のためのスケッチ』 1878年
そしてパリ万博に展示された革手袋店のショーケースをデザインすると、万博会場最良のデザインとして評価され、バルセロナの資産家だったアウゼビ・グエルというパトロンを得ることになりました。
アントニ・ガウディ『ガウディ・ノート』 1873〜79年
ここで見ておきたいのは若きガウディが記した建築論ノートです。実はガウディは自らの建築に対する考えを書籍として残しませんでしたが、ノートには装飾に関する覚書などが書かれ、その建築観の一端を知ることができます。
右:アントニ・ガウディ『大学講堂、横断面 (卒業設計〈建築家資格認定試験〉)』 ファクシミリ (オリジナル:1877年)
学生時代の精緻な図面も見どころです。グアッシュにて細部まで美しく彩色される様子は一枚の絵画のようで、ガウディの卓越した技量が伺えました。
歴史、自然、幾何学の3つの観点から創造のインスピレーションを探る。
『フィンカ・グエル、馬場・厩舎模型』1:25 1984〜85年
ガウディの独創的な建築はどこから生まれてきたのでしょうか。展覧会ではその建築様式の源泉と展開を「歴史」、「自然」、「幾何学」の3つの観点から探っています。
アントニ・ガウディ/制作:ジャウマ・プジョールの息子『グエル公園、破砕タイル被覆ピース』 1904年頃
約800年間、イスラム教とキリスト教の共生する時代を経験したスペイン。その中でガウディも東方趣味としてイスラム建築に関心を抱きます。そしてイスラム建築のタイル装飾を吸収し、タイルの破片を素材とする独自の「破砕タイル」の手法を考案すると、多彩色建築の可能性を切り拓きました。
19世紀は「建築史」が生まれるなど、過去の建築を再評価した時代でもありました。ガウディも過去の建築様式を貪欲に吸収すると、ゴシックを乗り越えた新たなネオ・ゴシックともいうべき建築に挑戦します。
左:アントニ・ガウディ『カサ・ビセンス、鉄柵の棕櫚の模型』 1886年頃
建築の周囲の環境にも目を向けたガウディは、オーガニックな形態に関心を寄せた建築家でもありました。そして棕櫚の木から鉄柵のパターンを生み出すなど、自然を建築のモチーフに取り込みます。
『コローニア・グエル教会堂、地下聖堂模型』1:25 1984〜85年
さらに地質学や考古学が進展すると、死と再生を象徴する洞窟へのロマンが高まり、ガウディも洞窟を思わせるような造形を建築に用いました。
『コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験(部分)』1984〜85年 『コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験/1:50』 1984〜85年
また幾何学にも長けていたガウディは、建築のバランスをとるアーチを求めるため、「逆さ吊り実験」と呼ばれる独自の方法を考案します。ガウディは「建築家の言葉は幾何学」であり、「私は建築学者」であるとまで主張していました。
ガウディによるオリジナル模型も公開!サグラダ・ファミリアの建設の軌跡と特徴。
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室『サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型』 2001〜02年
それではサグラダ・ファミリアの建設プロセスについて紐解いていきましょう。ガウディが2代目の建築家として就任したのは1883年のこと。そこから1926年に亡くなるまで聖堂の設計と建設に心血を注ぎます。そして図面だけでなく、膨大な数の模型を作り、修正を加えながら外観や内部構造を練り上げていきました。
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、側廊高窓オリジナル模型』1:25 1883〜1912年頃
サグラダ・ファミリアの特徴として挙げられるのが、パラボラ塔群による外観構成、内部の樹木式構造、そして徹底したねじれ面造形、また多彩色の鐘塔頂華(しょうとうちょうか)などです。
サグラダ・ファミリア内観 2020年5月撮影 ※展示写真パネル
ゴシック聖堂の内部空間は伝統的に「森」として捉えられてきましたが、ガウディはサグラダ・ファミリアにおいて、より写実的な樹木式構造の柱が林立する「森」を誕生させます。
右:制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鐘塔頂華の模型』1:25 2005〜10年
聖堂の鐘塔の頂点を飾る頂華に関しては、当初20種類の案が存在していました。そして1921年に鐘塔建設が頂華の基部に達すると、以前の案より9メートル高い長さ17メートルの最終案が決定されます。また色にこだわりを見せたガウディは、ビザンティンのモザイクタイルの伝統を受け継ぐヴェネツィアの工房に金と赤ガラスタイルを発注します。そして最初の1塔が完成するとガウディは、「大地と天が結ばれるようだ!」との言葉を残しました。
イエスの塔の完成予定は2026年!ガウディの死後も建築が進むサグラダ・ファミリア。
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:女性の塑像断片』 1898〜1900年 他
ガウディの死後も建設が続いたサグラダ・ファミリアでしたが、1936年に勃発したスペイン内戦による聖堂はかなりの被害を受け、模型は破壊され、図面も焼失してしまいます。しかし1939年の内戦終了後より修復工事に着手すると、第二次世界大戦後も建設が続きました。
サグラダ・ファミリア 建築写真 右から1992年、1996年、2012年、2023年 ※展示写真パネル
サグラダ・ファミリアの建設が急ピッチで進んだのは、1884年にガウディ建築が世界遺産に登録されたのち、世界中からバルセロナへ観光客が押し寄せた1990年代以降のことです。特に今世紀に入ると献金総額が莫大に増え、その分、建設も進展を見せます。2019年からのコロナ禍によって一時、建設は中断しましたが、現在は勢いを取り戻し、2026年にはメインタワーであるイエスの塔の完成も予定されています。
外尾悦郎『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:歌う天使たち』 サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面に1990〜2000年に設置
会場では100点を超える図面、模型、写真、資料に加え、ドローンなどを駆使して撮影された聖堂の高精細映像も公開。ガウディの類稀なるユニークなアイデアに触れながら、サグラダ・ファミリアの魅力を味わうことができます。
手前:制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室『サグラダ・ファミリア聖堂全体模型』 1:200 2012〜23年
なお人気の展覧会だけあり、土日の午後を中心に展示室への入場の待ち時間も発生しています。(7月2日の段階で最大40分)よって当面は金曜と土曜日の夜間開館も狙い目となるのではないでしょうか。また窓口も混み合うため、チケットはオンラインでの購入がおすすめです。混雑状況などは公式Twitterアカウント(@gaudi2023_24)にてお確かめください。
展覧会情報
『ガウディとサグラダ・ファミリア展』 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
開催期間:2023年6月13日(火)~ 9月10日(日)
所在地:東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口より徒歩3分
開館時間:10:00~17:00
※金・土曜は20:00まで開館
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
観覧料:一般2200円、大学生1200円、高校生700円
https://www.momat.go.jp/
https://gaudi2023-24.jp/
※佐川美術館:2023年9月30日(土)~12月3日(日)、名古屋市美術館:2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)へと巡回予定。
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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