EVENT
2024.3.13
【金沢3/19〜】『卒寿記念 人間国宝 鈴木藏の志野展』に学ぶ「志野」の革新
国立工芸館(石川県金沢市)で『卒寿記念 人間国宝 鈴木藏の志野展』が開催されます。会期は3月19日(火)〜6月2日(日)です。
日本を代表する陶芸家のひとりであり、史上二人目の「志野」における重要無形文化財保持者(人間国宝)である鈴木藏(すずき・おさむ、1934-)さん。卒寿を迎える2024年、初期から最新作までの作品が一堂に展示されます。
古典を大切にしながらも独自の美意識を反映した作品を通し、鈴木さんの軌跡と“今”を学べる展覧会となりそうです。
見どころ①初期から最新作まで多数の展示
1934年、鈴木藏さんは美濃焼の産地として知られる岐阜県土岐市に生まれました。多治見市市之倉町の丸幸陶苑(まるこうとうえん)に勤務する父の助手として働く中で、本格的にやきものづくりの道へと進みます。
1966年、31 歳で独立した鈴木さんは、ガス窯での焼造に挑戦。それまで「志野」は薪窯でしか焼けないとされており、その作陶スタイルは常識を覆すものでした。
創意工夫を重ねながら独自の作風を積み重ねていった鈴木さんが、重要無形文化財「志野」の保持者に認定されたのは、1994年、59歳のときでした。荒川豊蔵(1894-1985)に続き二人目の「志野」の保持者であり、現役陶芸家として最長の人間国宝です。
本展では初期から最新までの多岐にわたる作品が展示されます。鈴木さんの軌跡と"今"を展覧でき、多様な作品群から志野の可能性までもを垣間見られる機会となりそうです。
見どころ②「革新」が「伝統」へ
「伝統ということについて、物をつくる側から言えば、革新しかありえない。つまり、革新の中から生まれたものが、伝統となっていく」
というご本人の言葉のとおり、鈴木さんは伝統を大切にしつつも独自のスタイルを確立し、作品を作るなら「新しくて、力強いもの」という姿勢を貫いて今日まで作陶に取り組んでいます。
そもそもガス窯を用いたのも、伝統的な薪窯での焼造では窯の中で起きている現象がわからないという課題があったからです。「窯の神様の力を借りる」と言われるように、神秘的な偶然は優れた作品を生み出してきたものの、人が意図的に再現するのは困難です。
一方ガス窯は温度などのコントロールがしやすく、一度良い結果が得られれば条件を再現したり、より良い作品づくりの参考にしたりできます。(それでも毎回成功すると決まっているわけではなく、私のような素人から見れば神業以外の何物でもありません)
鈴木さんは偶然を待つのではなく、確かな意志を持って「志野」に取り組み、独自の作品をつくり出してきました。伝統を大切にしながらも自身のスタイルを展開し、今や「志野」を代表する鈴木さんの作品は、革新から伝統へと定着しようとしています。
見どころ③「志野」に凝縮される日本の美
重要文化財《鼠志野茶碗 銘 峯紅葉》桃山時代/16~17世紀 五島美術館蔵
鈴木さんは「志野は日本で生まれた独特の創作であり、日本人の感性、美意識といった最も基本的なすべてが凝縮されている。」ともおっしゃっています。
「志野」の始まりは桃山時代で、多くが美濃で焼成されました。日本陶磁の歴史において初めての白いやきものであり、初めて筆を使って絵付を施したやきものです。その技法は追求され続け、「無地志野」「絵志野」「鼠志野」「紅志野」「赤志野」「練上(ねりあげ)志野」など、さまざまな個性を持つ作品が生まれてきました。
鈴木さんの作品にも、あたたかみのある白色の釉薬に、焼成によって生まれるほのかな赤みの「緋色」、柑橘の肌のようにピンホールの現れた表面の「ゆず肌」など、脈々と受け継がれてきた志野の魅力が詰まっています。本展は洗練された日本の美を堪能できる素晴らしい機会になりそうです。
展覧会情報
卒寿記念 人間国宝 鈴木藏の志野展
会場:国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)
会期:2024年3月19日(火)~6月2日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月1日、8日、29日、5月6日は開館)、5月7日
観覧料:一般1000円、大学生600円 他
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式ウェブサイト:人間国宝 鈴木藏の志野展
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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