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EVENT

2024.11.13

【世田谷文学館】漫画家・森薫と入江亜季展|アナログの手描きにこだわる二人の漫画家展

東京・世田谷文学館にて「漫画家・森薫と入江亜季 展 ―ペン先が描く緻密なる世界―」が2025年2月24日まで開催されています。

会場のようす

同時期にデビューし、同じ雑誌で連載を重ねてきた漫画家・森薫と入江亜季。

アナログの手描きにこだわるお二人の繊細で力強いペン画の世界を堪能できる展覧会となっています。

本展のために描き下ろされた新作。展覧会のメインビジュアル、森薫(左)©Kaoru Moriと入江亜季(右)©Aki Irie

森薫の経歴と画風について〜異文化の風習や歴史、衣装などを精緻に描きつつ、独自の世界観を構築する作風

森薫(もり かおる)は、1978年生まれの日本の漫画家で、高校時代より同人活動を開始し、2002年に「月刊コミックビーム」(エンターブレイン)で「エマ」を発表してデビューしました。

森は“メイド好き”としても知られ、「エマ」ではアイコン的なメイドではなく、1800年代ビクトリア朝時代のイギリスのメイド像を歴史考証に基づき忠実に描いています。

このこだわりが評価され、「エマ」は2005年にアニメ化され、2006年には番外編も制作されました。平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞も受賞しています。

森薫 今昔連載作品 SCRIBBLES ©Kaoru Mori

その後、2008年10月から「Fellows!」(エンターブレイン)で「乙嫁語り」の連載を開始し、2013年2月からは後継誌「ハルタ」で同作を継続。2012年にはアングレーム国際漫画祭世代間賞も受賞。

森の作品は、異文化の風習や歴史、衣装を緻密に描写し、独自の世界観を構築しています。
また、プライベートでは、ヤドカリやファンシーラット、猫、カタツムリを飼育しており、今後はリクガメの飼育も検討しているほどの動物好き。

森薫『乙嫁語り』第73話 湿版写真「ハルタ」No.55(左)、第78話 閑暇(前編)「ハルタ」No.60(右) ©Kaoru Mori

入江亜季の経歴と画風について〜ファンタジーの中に現実感を織り交ぜたり、広大な自然を背景に冒険を描く作風

入江亜季(いりえ あき)は香川県出身の漫画家です。高校時代から同人活動を始め、2004年に「月刊コミックビーム」(エンターブレイン)で「アルベルティーナ」を発表しデビューしました。

2004年には読切シリーズ「群青学舎」を連載、2006年には個人誌をまとめた単行本「コダマの谷」を刊行しました。

入江亜季『乱と灰色の世界』 ©Aki Irie

2008年からは初の長編作品となる「乱と灰色の世界」の連載を開始し、7年間にわたって執筆。キラキラと輝く魔法の世界で少女の成長が描かれ、ファンタジーの中に現実味を感じさせる物語が展開され、2015年に完結を迎えました。

2012年には、同作が文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員推薦作品に選ばれています。『北北西に曇と往け』では、アイスランドの広大な自然を背景に、主人公が行方不明の弟を探す冒険が描かれ、ミステリアスな要素も加わっています。作中に登場するジムニーJA11と同型の中古車も購入しています。

入江亜季『青騎士カタローク』 ©Aki Irie

展覧会について

本展では、森薫と入江亜季の作品世界をより深く感じられるよう、貴重な原画とともに、彼女たちが、影響を受けた作家の単行本や、同人誌時代からデビュー後のそれぞれの代表作や多彩なイラストレーション作品、さらに、本展のために描き下ろされた新作までを展示しています。

会場のようす

また、漫画制作の現場を垣間見ることができるように、机周りの様子や創作メモ、取材風景なども公開。これにより、物語の世界観はもちろん、一枚の原稿がどのようにして生み出されるのか、その過程のセクションもあり、関連資料を含めると総展示数は600点を超えます。

漫画の描き方のコーナーから 下書き(左上)、ペン入れ(右上)、消しゴム・ベタ・修正(左下)、トーン(右下) 森薫 ©Kaoru Mori

どの作品も、美しい線画や華麗なコマ割り、感情を引き出すセリフが見事に組み合わさり、ドラマティックかつファンタスティックな物語が紡ぎ出されています。読者はページをめくるごとに作品の世界に引き込まれ、壮大な物語の中に浸ることができます。

森薫 付属ポスター書き下ろしイラスト ©Kaoru Mori(左)、入江亜季『乱と灰色の世界』第19話 逃げろ逃げろ日々くん ©Aki Irie(右)

漫画家としての情熱が込められた制作の現場を体感し、彼女たちが描く緻密で情熱的な世界観に触れてみてください。

会場のようす

また、会場では鑑賞のポイントやイラストの裏話が紹介され、読者からの質問に答えるQ&A、森と入江がお互いの印象を語ったり、互いの好きな絵を紹介したりと、合同展ならではのメッセージも掲示されています。

入江亜季『旅』トキの旅「青騎士」 No.5B・6B ©Aki Irie

森さんが語る入江さんの魅力

「入江さんはよく「体験したものでないと描けない」と語りますが、それは非常に誠実な姿勢だと思います。作品に対して曖昧な想像で「こんな感じだろう」と嘘をつくのではなく、自分の実感をもって描くことを大切にしているのでしょう。

そうしたリアリティが、少し空想的な設定であっても作品に重みを与え、地に足のついたものにしています。それが、私が考える入江さんの漫画の魅力です。」(展覧会会場での展示より抜粋)

森薫 イラストレーション とらのあなテレホンカード(左)、トレーディングカード「妖精伝承」”メイド オブ オールワークス”(右) ©Kaoru Mori(左)

入江さんが語る森さんの魅力

「森さんは関連書籍だけでなく、関係のない本も徹底的に読み込み、点を知ることでいつしか線だけでなく面を理解するようになっていきました。同時に、歴史を時間と空間の両面から学ぶことで視野が広がり、先を見通す力が身についていったと思います。賢さとは、空間と時間の広い視野を持つことだと感じますが、森さんを見ていると、歴史を学ぶとは本来こういうことなのだと実感させられます。」(展覧会会場での展示より抜粋)

入江亜季 イラストレーション ©Aki Irie

まとめ

旅好きで実際に現地を訪れて情報を収集しながら作画を進める入江亜季と、室内で文献を細かく調べて細部を仕上げる森薫。作風だけでなく、作品を完成させるまでのスタンスも対照的です。

展示会場は途中、二つに分かれており、両者の独自の世界観を存分に楽しむことができます。森薫と入江亜季の緻密で繊細なペン画の世界に触れる貴重な機会ですので、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

森薫『乙嫁語り』&入江亜季『乱と灰色の世界』合作/ⒸKaoru Mori ⒸAki Irie

展覧会情報

漫画家・森薫と入江亜季 展
―ペン先が描く緻密なる世界―
会場:世田谷文学館
開催期間:2024年11月2日(土)~2025年2月24日(月・祝)
所在地:東京都世田谷区南烏山1-10-10
アクセス:京王線 芦花公園(ろかこうえん)「南口を出て右方向」徒歩5分
開館時間:10:00~18:00
(展覧会入場、ミュージアムショップは17:30まで)
休館日:月曜日(祝日の時はその翌日)、年末年始(2024年12月29日~2025年1月3日)
料金:一般1,000円、65歳以上・大学・高校生600円、小・中学生300円、障害者手帳をお持ちの方(ただし大学生以下は無料)500円
公式サイト:漫画家・森薫と入江亜季 展

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つくだゆき

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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

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