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2024.11.26
【京都】生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―日本の木漆工芸を革新した巨匠の世界とは?
20世紀の日本を代表する木漆工芸家の黒田辰秋(くろだ たつあき、1904年〜1982年)。
1970年には木工芸として初めて重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
その黒田の生誕120年を記念する展覧会『生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―』が、京都国立近代美術館にて2024年12月17日から開催されます。
目次
黒田辰秋の生涯とは?木工芸として初めて人間国宝に
黒田辰秋《朱蒔粉塗鹿花文文庫》 1925年 京都国立近代美術館
まず黒田辰秋の生涯についてご紹介しましょう。1904年に京都・祇園の塗師家の子として生まれた黒田は、1918年に蒔絵師の瀬川嘯流に弟子入りします。
当時の漆芸は分業制が一般的でしたが、黒田はその制度に疑問を持ち、図案制作、素地作りから加飾までを一貫して自身で行うようになりました。
富本憲吉の著作に親しみ、河井寛次郎を通して柳宗悦と交流すると、1927年には柳宗悦を指導者として、染織の青田五良らと上加茂民藝協團を設立します。
(1929年に解散)そして翌年には御大礼記念国産振興東京博覧会に特設館「民藝館」が出品され、富本憲吉、バーナード・リーチ、河井寬次郎、浜田庄司らが陶磁器を制作し、黒田は木工家具の制作を担当しました。
戦後になると1954年には石黒宗麿に懇請され、日本工芸会近畿支部の創設に協力します。1955年には第2回日本伝統工芸展に出品。翌年に正会員となって、以後、出品を続けました。
1964年には映画監督の黒澤明の依頼によって、御殿場山荘の家具セットを手がけます。また1967年には新宮殿正殿用扉飾り4組および「梅の間」用大飾棚を完成。
さらに中近東とヨーロッパを歴訪し、スペインのグラナダ郊外グアディスにおいて白椅子制作を見学します。1968年には新宮殿の「千鳥の間」「千草の間」用に小椅子30脚、および卓子10脚を納めました。
1970年には木工芸の技術において初めてとなる重要無形文化財保持者(人間国宝) に認定され、日本を代表する木漆工芸家として活動を続けるものの、1982年に惜しまれつつ77歳にて亡くなりました。
『生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―』の3つの見どころ
【黒田の代表作が一堂に!】
本展の三つの見どころとは…?まず一つは黒田の代表作が一堂に集結することです。作品集『黒田辰秋 人と作品』(1972年刊行)に掲載されている作品84点のうち、実に49点が紹介されます。
この作品集は1972年に白洲正子が音頭を取って編集されたもの。最初期からの代表作を網羅していて、黒田自身が創作者としての自己の歩みを振り返ることのできる書物だと語っています。
【北海道に残る黒田の名品が京都で初公開】
1974年に制作された《神代欅彫文飾棚》(第22回日本伝統工芸展)は、黒田晩年の代表作です。北海道立旭川美術館に収蔵された後、北海道内だけで紹介されてきましたが、今回初めて海を渡って京都で紹介されます。
また黒田が指導して制作された北海道博物館所蔵の《樺テーブルセット》も、北海道外では初めての展示となります。
【京都会場のみ限定で初期の代表作を公開】
螺鈿を全面に張り付けた《螺鈿総貼小棚》(1941年)は黒田の代表作の一つ。作品集『黒田辰秋 人と作品』にも掲載されていますが、京都会場のみ限定で公開されます。
黒田が生涯に5点ほど制作した三面鏡のうち、初めて3点を同時に展示!
特に見ておきたい作品として挙げられるのが、黒田が生涯に5点ほど制作した三面鏡です。過去の展覧会では1〜2点のみが展示されましたが、はじめて3点の三面鏡が同時に展示されます。
そのうちの1点(京都国立近代美術館所蔵)は、一時期、女優の浜美枝氏が所有して、愛用していたことを自身のエッセイで語っています。
流稜文の手箱は、直方体の箱の形状に合わせて渦を巻くように彫り文様を施した、黒田を代表する作品です。過去の黒田の展覧会では朱漆の作品のみが紹介されていましたが、本展では拭漆による作品もあわせて展示します。
1968年に新宮殿の「千鳥の間」と「千草の間」に小椅子、および卓子を納めた黒田。これは日本人としての椅子の造形を追い求めた黒田の理想の一つが実現したものでした。
本展では黒田の制作に協力した飛騨産業株式会社に残る小椅子および卓子の控品に加えて、完成前の第一から第三段階の小椅子の試作品も展示し、どのように黒田が自己の造形を完成させていったのかを辿ります。
黒田辰秋の軌跡から、木、漆、螺鈿の名品まで
最後に本展の構成についてご紹介します。
黒田辰秋《拭漆楢彫花文椅子(拭漆楢家具セット)》 1964年 豊田市美術館
第1部:黒田辰秋の軌跡 『黒田辰秋 人と作品』より
白洲正子が企画し、代表作を掲載した『黒田辰秋 人と作品』は、黒田の活動の軌跡を紹介する重要な作品集です。第1部ではこの作品集に掲載されている作品、また類品を通じて黒田の創作活動を概観します。
第2部:用と美の邂逅
1)上加茂民藝協團の時代
黒田にとってその後の創作活動の基礎を形成する時期となった上加茂民藝協團時代。約2年の短い期間で解散しましたが、最初期の黒田がどのように自身の仕事を模索していたのかを、当時の作品からひも解きます。
2)木の匠
素材を生かすことを制作の根幹に置いていた黒田。ここでは主に黒田が重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けた「木工芸」の技術による作品を紹介します。
その多くはシンプルながらも非常に手間のかかる拭漆の技術によるもので、個々の木材の特性を引き立てています。
3)漆の匠
生家は漆の下塗りを行う塗師だった黒田は、身近に漆がある環境の中で塗りの技術を身に付けていきました。
ここでは初期の朝鮮王朝時代の家具に影響を受けた作品から、彫り、乾漆による動的な形状のものまで、木理を生かした木の仕事とは異なった塗りの仕事に焦点をあてます。
4)螺鈿の匠
黒田は貝の持つ美しさに幼い頃からあこがれていました。黒田の螺鈿でよく知られているものが、メキシコ鮑を用いた燿貝(ようがい)の作品です。
その輝きから「燿貝」 と名付けたのは、板画*家の棟方志功でした。ここでは黒田がどのように貝の異なる質感を引き出したのかを、様々な螺鈿による作品を通じて紹介します。
*「板画」とは、棟方志功が版画を指すために用いた言葉です。木版の特性を活かして制作することから、「板」の文字を使いました。
まとめ
実用性と装飾性、それに素材の特性を一体化させたところに、生命感にあふれた独自の創作世界を切り開いた黒田。
古典に根差した活動は、民藝運動と関係づけられることが多いものの、あくまでも黒田は自らを「個人作家」としてみなしていました。また自身の作品の一つ一つが「地球と代えられる」だけの価値を有しているかということを問いかけていました。
黒田の作品は、国内外にて高く評価され、多くの展覧会に出品されています。そして後進の工芸家にも影響を与え、日本の木漆工芸の未来を開く原動力となりました。
『生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―』にて、伝統的でありながらも現代的な感覚を持ちえた黒田の作品の魅力を味わってください。
展覧会情報
『生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―』 京都国立近代美術館
開催期間:2024年12月17日(火)〜2025年3月2日(日)
所在地:京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
アクセス:地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口より徒歩約10分。市バス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ。
開館時間:10:00〜18:00
※金曜日は20時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし1月13日、2月24日は開館)、1月14日(火)、2月25日(火)、年末年始(12月29日〜1月3日)
観覧料:一般1,200円(1,000円)、大学生500円(400円)
※( )内は20名以上の団体及び夜間割引(金曜午後6時以降)
展覧会HP:生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―
巡回情報:豊田市美術館 2025年3月15日(土)~5月18日(日)
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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