EVENT
2026.8.4
【取材レポート】福田美術館『幸せになりたい! ー祈りの絵画ー』幸せは自力で掴む派の私が祈ったこと
「幸せになりたい!」と言えば、「もっと努力したら?」と甘えや努力不足を問われがちな昨今。私にとっても、幸せは待つものではなく、自力で掴みに行くものです。
初詣ですら、「○○になりますように」とお願いすることはありません。「私は今年、○○を達成できるよう励みます」と決意表明するくらい、徹底して神頼みを避けています。
そんな私にとって、「仏画」や「吉祥画」はどこか他人事に思えるジャンル。福田美術館で開催中の『幸せになりたい! ー祈りの絵画ー』には、これらの祈りにまつわる日本の絵画が並ぶのですが、正直「私には合わない展覧会かも…」という気持ちを抱えて足を運びました。
「祈り」の絵画は自分事?他人事?
本展は、仏画、吉祥画、東山魁夷の3章構成。仏の姿を描いた作品や、縁起の良いモチーフが描かれた絵画などが並びます。
展覧会の最初を飾るのが、越塚友邦《仏誕》という作品。釈迦が生まれた瞬間に7歩進み、「天上天下唯我独尊」と唱えた場面です。
絵画そのものが大きいことや、周囲を取り囲むインドの神々が彩り豊かに描かれていることから、仏教に疎い私でも足を止めてじっくり見てしまいました。
こちらの生き物は何だろう……神様の肩と腕はどうなっているのでしょうか? 元ネタがわからなくても、こうした違和感を探すのが楽しかったりするんですよね。
吉祥画は動物を描いた絵画が多く、見ているだけで癒される内容でした。言葉遊びで動物と吉祥を結びつける場合もあり、小茂田青樹《池趣》のキャプションに書かれていたのは、「無事カエル お金がカエル 若ガエル」。思わず笑ってしまいましたが、本作は五穀豊穣や金運、交通安全といった願いと関連づけられるそうです。
このように絵画は楽しく鑑賞しましたが、最後まで「祈り」を自分事と捉えることはできませんでした。
なんかこう、もっと深く展覧会を楽しめる視点があるはずなんだけどな…。鑑賞の「ツボ」的なものをいまいち掴みきれず、腕を組んで首を傾げたまま美術館をあとにしようとした、そのときです。
展示室の外に、来館者が願い事を書いて投稿するスペースを見つけました。せっかくだし何か書くことないかな、と考えた私の願い事が、こちら。
「推しの願い事が叶いますように」
願ってしまった…。
あれほど「幸せは自力で掴むから願い事はしない」と言っていたのに…。自力で叶えられないから願ったのですが、このとき初めて「自分も祈ってるじゃん!」と気づき、祈りが急に自分事になりました。
私が気づいていなかっただけで、実は身近なテーマだったのでは? 展覧会の最初に戻り、もう一度観てみることにしました。
展覧会をもう一度観て、「わからない」に歩み寄る
とはいっても穿った見方をして、「仏さまが描かれていることと、画家が祈りを込めたかどうかは別じゃない?」などと考えてしまう私。それでもある2人の画家のおかげで、少しだけ「祈り」に歩み寄れたと思うんです。
1人目は京都生まれの画家・入江波光(1887-1948)。仏画や古画を研究し、法隆寺金堂壁画の模写にも励んだ彼は、さまざまな手法で仏教の世界を描き出そうとしました。
仏画を描いた画家は他にも多くいるなか、彼の異質さが一目でわかる作品が《浄天》です。浮遊する天女を描いた絵画ですが、色も線も淡すぎるくらい淡く、コントラストの効いた作品に囲まれた展示室ではかえって目立って見えました。
「見えない世界を絵によって見せる」のではなく、「見えない世界を見えないままに描く」というような誠実さを感じる作品。静かにこちらへ語りかけてくるようで、これほど上品で優しい宗教画は初めて見ました。
波光は一体どんな思いで仏画に取り組んだのか? それを読み解くヒントとなりそうなのが、代表作《臨海の村》です。仏画ではありませんが、それゆえに彼の祈りがストレートに表れていると思います。
本作に描かれるのは、夕日に照らされる漁村とそこに暮らす人々。絹地の裏から金箔を貼り、画面上部に金泥を刷いたそうで、柔らかい光に包まれています。
質素で堅実な暮らしを賛美するかのような、宗教画ではないのに宗教的な絵画。波光が祈っていたのは「個人」の幸福といったレベルではなく、もっと大きな「世界」のあり方だったのではないでしょうか?
もう1人の画家が、東山魁夷(1908-1999)です。本展では本人による文章とともに、風景画がまとめて展示されています。川端康成が賞賛したという美文の数々のなかで、特に印象に残ったフレーズを以下に引用します。
私自身、絵を描くのが特にうまいほうではありませんし、上手に描こうとも思わないんです。私にとって絵を描くことが祈りであるとすれば、上手に祈るとか下手に祈るとかは問題ではないと思います。
心が籠るか籠らないか、それが問題だと思うんです。
引用元:東山魁夷
東山魁夷《山峡朝霧》昭和52年(1977)福田美術館(旧山本憲治コレクション)
私は「祈り」と「絵を描くこと」を別々に捉えていましたが、魁夷にとっては「描くことは祈ること」でした。たしかに「祈ること」も「描くこと」も、自分の心と向き合う行為。「良い絵」とは、上手・下手よりも「祈り」があるかどうかなのかもしれません。
「推し」への祈りは永遠に……
「幸せは自力で掴む派」と言っていた私ですが、展覧会を見終えると「祈り」を「甘え」とは思わなくなっていました。絵画は個人の力が及ばないところにも祈りを届けようとしている、と感じたからです。
そして、祈りの形が絵画の人もいれば、私のように短冊や絵馬の人もいる。または、こんな写真はどうでしょうか?
展示室の外には、越塚友邦《仏誕》をもとにしたフォトスポットがあります。インドの神々が手前・奥と立体的に配置され、釈迦がいるべき場所にはお立ち台が。ここに推しのアクリルスタンドやぬいぐるみを載せて写真を撮ろう、という企画です。
美術館をあとにした私のスマホには、インドの神々に囲まれた推しの写真が。なんだかシュールな画面を見ながら、私は「祈り」について難しく考えすぎていたのかも、と思いました。祈りとは、もっと身近でカジュアルなものなのかもしれません。
展覧会情報
幸せになりたい! ー祈りの絵画ー
会場:福田美術館(京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16)
会期:2026年7月18日(土)~ 2026年9月6日(日)
※会期中の展示替えなし
※毎週火曜日・日曜日は「喋っていいDAY」
※毎月第3日曜の10:15から10:45まで、学芸員の無料解説あり
開館時間:10:00〜17:00(最終入館 16:30)
休館日:8/18(火)
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-

EVENT
2026.08.02
【東京・京橋】名門3ギャラリーが”持ち寄り”で魅せる! 特別企画展「ART POTLUCK, KYOBASHI」Gallery & Bakery Tokyo 8分で9月12日より開催
イロハニアート編集部
-

EVENT
2026.07.29
【2026年夏・新宿】SOMPO美術館『山口華楊展』レポート!花鳥画家が生涯描き続けた「生命の美」とは
ヴェルデ
-

EVENT
2026.07.28
【展覧会レポート】アルベール・マルケ展に、愛した水辺の風景が甦る【三重県立美術館/東京SOMPO美術館へも巡回!】
神谷小夜子
-

EVENT
2026.07.23
【上野・シンシナティ美術館展】81点が日本初公開!瀬戸康史の音声ガイドやミッフィー限定グッズ、お得なチケット情報
イロハニアート編集部
-

EVENT
2026.07.22
【千葉県立美術館・取材レポート!】印刷博物館の名品コレクションで出会う、美しき印刷の世界
はろるど
-

EVENT
2026.07.16
読者プレゼント実施中【取材レポート】三菱一号館美術館『“カフェ”に集う芸術家』展の見どころを写真とともに解説!
ヴェルデ
このライターの書いた記事
-

EVENT
2026.07.30
【取材レポート】大阪市立美術館 開館90周年記念特別展「水滸伝」、物語を知らない人をも引き込む世界観
明菜
-

EVENT
2026.07.24
取材レポート【京都文化博物館】『マリメッコ展 模様のちから Marimekko: Art of Printmaking -Beauty, Dream, Love』「花柄」に否定的だった?「ウニッコ」の誕生秘話から読み解く
明菜
-

EVENT
2026.07.23
【横浜美術館】『マリー・アントワネット・スタイル』約200点でたどるフランス王妃の魅惑のスタイル
明菜
-

EVENT
2026.07.17
【取材レポート!】あべのハルカス美術館『ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち』展覧会の主役は誰?ゴッホ展かと思いきや…
明菜
-

LIFE
2026.07.15
【山種美術館】全種類食べたい…!日本画から生まれた和菓子で心を緩める
明菜
-

EVENT
2026.07.14
【国立西洋美術館】『テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話』風景画の巨匠による80点超が集結
明菜

美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
明菜さんの記事一覧はこちら















