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2026.11.5
【SOMPO美術館】なぜマルケのグレーは印象に残るのか。35年ぶりの回顧展で見えたもの
アルベール・マルケという名前を聞いて、すぐに作品を思い浮かべられる人は、それほど多くないかもしれません。
個人的にも、マルケといえばまず思い浮かぶのは、グレーを基調とした静かな風景画でした。
SOMPO美術館で2026年12月13日まで開催されている「アルベール・マルケ展」を見ても、その印象自体が大きく覆されるわけではありません。むしろ、やはりマルケは「グレーの画家」なのだと思います。
ただ、初期から晩年まで作品を続けて見ていくと、そのグレーの見え方が少し変わってきます。
マルケは、マティスらとともにフォーヴィスムから出発した画家です。若い頃には鮮やかな色彩や自由な筆触を試しながら、やがて「マルケのグリ」と呼ばれる灰色をはじめ、ニュアンスのある中間色を使った独自の風景画へと向かいました。
強い色彩から出発した画家が、やがて色を抑えることで、色をどう見せるかを探っていった。今回の展覧会を見て、そんなふうに感じました。
1875年、ボルドー生まれのマルケはパリでマティスと出会い、1905年のサロン・ドートンヌでフォーヴィスムの画家として注目されます。今回の展覧会は、日本では35年ぶりとなる本格的な回顧展。約90点で初期から晩年までの画業をたどります。
アルベール・マルケ《裸婦、通称フォーヴの裸婦》1898年、ボルドー美術館
「マルケのグリ」は、色がないわけではありません
展示を見始めて、最初に気になったのは「水の色」でした。
マルケの作品には、グレーを基調とした風景が多く登場します。出品作には《灰色の港[アルジェリアの港]》という作品もあります。
アルベール・マルケ《灰色の港[アルジェリアの港]》1924年頃 、ポーラ美術館
空や建物の色は全体に抑えられています。その中で川や海には青や緑が少し入っている。決して鮮やかな色ではありませんが、周囲がグレーや中間色でまとめられているため、水面の色が意外と目に入ってきます。
ところが、ほかの作品も見ていくうちに、色が目に入るのは水だけではないことに気づきました。
街並みの屋根や建物、木々にも、赤や黄色、緑などが置かれています。どれも強い色ではありませんが、画面全体の色調が抑えられているため、ちょっとしたハイライトのように見えてきます。
アルベール・マルケ《ラ・ロシェル》1920年、ボルドー美術館
「マルケのグリ」という言葉からは、「灰色の風景を描いた画家」というイメージを持ちがちです。でも実際に何枚も見ていると、面白いのはむしろ、グレーや中間色の中で、ほかの色がどう見えてくるかなのではないかと思えてきました。
フォーヴィスムから出発したことと「マルケのグリ」は別物ではなく、色との向き合い方が変わった結果としてつながっているようにも見えます。
アルベール・マルケ《港の二隻の貨物船 》1942年頃 、福岡市美術館
少し高いところから街を見る
色とともに気になったのが、構図です。
マルケの風景画には、少し高いところから街や水辺を見下ろした作品が多くあります。ホテルや自宅の窓などから、川や港、その向こうに広がる建物を俯瞰気味に捉えています。
アルベール・マルケ《ル・アーヴルの縁日 》1906年、ボルドー美術館
細部まで描き込むというより、川、道路、建物などを大きな面として整理しているように見えます。人物や船も驚くほど簡潔で、近づくとほんの数本の線だったりします。
マティスはマルケを「我らの北斎」と呼びました。人物や船を少ない線で捉え、細部を描き込まなくても、その動きや特徴を伝える。高いところから街を見下ろす大胆な構図にも、日本の浮世絵を思わせるところがあります。
アルベール・マルケ《サン=ミシェル河岸からノートル=ダム大聖堂を望む》なかた美術館
水辺の風景画では、個人的にはシスレーを思い出す作品もありました。ただし、マルケのほうが形の整理や省略はかなり大胆です。何を細かく描くかではなく、どこまで描かなくても風景として成立するのか。そこも面白さの一つです。
旅をしても、また同じ水辺へ
マルケはかなりの旅好きで、フランス国内はもちろん、北アフリカや地中海沿岸などを旅しました。そして行く先々で、港や川、海を数多く描いています。
ただ、実際に作品を見ると、水だけが主役ではありません。水辺と街並みが一緒に描かれ、水面、岸辺、道路、建物、木々が一つの風景として収められています。
さらにマルケは、気に入った場所では、時間や天候を変えながら同じ風景を繰り返しました。
1912年に描かれた作品として《ルーアン、ボワエルデュー橋とパリ河岸、快晴》と《ルーアン、パリ河岸、曇天[ルーアンのセーヌ河]》があります。同じ場所でも、晴天と曇天では水だけでなく、街全体の色の見え方が変わります。
アルベール・マルケ《ルーアン、パリ河岸、曇天[ルーアンのセーヌ河]》1912年、上原美術館
晩年にはポン=ヌフも何度も描きました。《ポン=ヌフとサマリテーヌ》《ポン=ヌフ、夜景》《ポン=ヌフ、曇天》、さらに《雪と緑色の空、パリ(ポン=ヌフ)》まであります。
アルベール・マルケ《ポン=ヌフとサマリテーヌ》1940年、ひろしま美術館
アルベール・マルケ《ポン=ヌフ、曇天》個人蔵(協力:ギャルリーためなが)
夜、曇り、雪。同じ場所でも、作品の印象は変わります。
連作というとモネを思い出します。個人的には、水辺の風景画ならやはりモネのほうが好きです。光や色彩の変化は、モネのほうが分かりやすく目を引きます。
一方、マルケはそこまで華やかではありません。でも続けて見ると、水の青、屋根や建物の色、雪景色の緑色の空など、作品ごとの違いが目に入ってきます。
アルベール・マルケ《雪のコンティ河岸》1947年、ボルドー美術館
同じ場所を繰り返し描くことで、天候や光によって風景全体の色がどう変わるかが、より分かりやすく見えてきます。
グレーの風景は、意外と色がある
グレー一色の世界ではありません。抑えた色調の中に、水の青や緑、建物や屋根の赤や黄色がさりげなく置かれ、それらがふっと目に入ってきます。
今回の展覧会で面白かったのは、「グレーの画家」という印象が覆されたことではなく、そのグレーの中に、思っていた以上に色があることに気づいたことでした。
アルベール・マルケ《ハンブルク港》1909年、ボルドー美術館
2026年12月13日までSOMPO美術館で開催されている本展は、マルケがグレーや中間色を使いながら、風景の色をどのように捉えていたのかを知る機会にもなっています。
展覧会を見終わったあと、普段何気なく見ている川や街並みの中にも、いつもなら気づかない色が見えてくるかもしれません。
開催概要
◆「開館50周年記念 アルベール・マルケ展」
【開催期間】2026年9月22日(火)~12月13日(日)
【会場】SOMPO美術館
【所在地】東京都新宿区西新宿1-26-1
【アクセス】
JR「新宿」駅西口より徒歩5分
東京メトロ丸ノ内線「新宿」駅より徒歩5分
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅C13出口より徒歩6分
西武新宿線「西武新宿」駅より徒歩7分
都営大江戸線「都庁前」駅A1出口より徒歩7分
【開館時間】10:00~18:00
※金曜日は20:00まで
※入場は閉館30分前まで
【休館日】月曜日、9月24日(木)、10月13日(火)、11月24日(火)※10月12日(月・祝)、11月23日(月・祝)は開館
【観覧料】
一般(26歳以上):2,000円
25歳以下:1,200円
小中高校生:無料
障がい者手帳をお持ちの方:無料
※事前購入券は一般1,800円、25歳以下1,100円
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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