EVENT
2022.4.26
大規模な個展が全国へ巡回中!生命力に溢れた生物や植物を描くミロコマチコの絵画世界
1981年に大阪府に生まれたミロコマチコ。2012年にデビュー絵本『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)が第18回日本絵本大賞を受賞すると、その後も『てつぞうはね』(ブロンズ新社)や『ぼくのふとんは うみでできている』(あかね書房)で立て続けに絵本賞や文芸賞を受賞するなどして活躍。雑誌や書籍の挿画、企業広告、それにアートディレクションでも幅広く作品を発表してきました。
目次
クリエイションギャラリーG8で開催中の『ミロコマチコ展「うみまとう」』展示風景。会場内の撮影も可能です。
一方で画家としても評価されていて、2019年には東京から奄美大島へと拠点を移すと、島の自然からインスピレーションを受けた作品などを制作してきました。そのミロコマチコの主に画家としての活動を紹介する個展が、東京・銀座のクリエイションギャラリーG8にて開催中です。
ライブペインティングによって生まれた魑魅魍魎の世界
『ミロコマチコ展「うみまとう」』展示風景よりライブペインティングの部屋
まず最初の展示室にて待ち構えているのは色彩の荒々しい海。激しい筆触によって描かれた植物や動物といったモチーフが、床から壁、柱に至るまで、空間のすべてを埋め尽くすように広がっています。
そして床にさまざまな色に染められた布が無数に広がっているのと同時に、染料と思しき液体を入れた桶なども置かれています。ともかくプリミティブとも呼べるような表現に驚いてしまいますが、これは会期の初めにミロコマチコがライブペインティングにて描いたもの。音楽家の曽我大穂や染色家の金井志人らと協働し、約5日間かけて制作された作品なのです。
『ミロコマチコ展「うみまとう」』展示風景より。ライブペインティングの記録映像
ライブはギャラリーのインスタグラムでもリアルタイムに配信されましたが、会場でもその様子を映像で紹介。当初、ほぼ真っ白だった空間がどのように変化し、作品が完成したのかを見ることができます。
またビニールシートが引かれた部分を歩くことも可能で、ミロコマチコが布や染色で表した世界の中へと入っていくこともできます。まるで見知らぬ獣たちが潜む太古の森の中をさまよっているような気分にさせられました。
「絵はおまじない」。人形から染色、そしてペインティングへ
『ミロコマチコ展「うみまとう」』展示風景より。左奥に見えるのが『光のざわめき』(2022年)
次の展示室へと移動してみましょう。そこに並ぶのは主に昨年から今年にかけて描かれた絵画をはじめ、人形の作品、それに布のインスタレーションです。
ミロコマチコは単に絵筆をキャンバスへと走らせるだけでなく、ペインティングする際に着ていた布や下に敷いていた布など染め、キャンバスへ貼り付けるなどして作品を制作しています。そして奄美大島にて伝統的な染色に出会うと、島で生まれた植物や水でキャンバスとなる布や絵そのものを染め、島で感じる色や空気を作品として表現しました。
「絵はおまじない」と定義するミロコマチコは、描く時に身につけていた衣やキャンバスとなっていた紙には、絵具や水の滴が空気や勢いをもってまとっていて、力を宿していると考えています。またペインティングの際に着ていた衣が、完成して役目を終えても、解いて人形に着せると”息づき”が続くとして、作品を制作してきました。
「うみまとう」とは、”生み出す”ことと生き物の根源である”海”、そしてまとわりつき絡むことを意味する”纏う”を組み合わせた言葉です。完成した作品だけでなく、ペインティングや仕立てていく衣や染色のプロセスなどを公開することで、ミロコマチコの「うみまとう」世界の全体を見せようとしているのかもしれません。
奄美大島の森の中で描く。『光のざわめき』の制作映像が見逃せない
『Sun 9 January, 2022』 映像制作:エビス製作室 ※『光のざわめき』制作映像
会場にて展示されている『光のざわめき』の制作の様子を追った映像にも要注目です。舞台は奄美大島の深い森の中。窪地のようなぽっかり開けた空間に、白い布を敷き、木製パネルを立てかけ、白い衣に身をまとったミロコマチコが登場します。足元は素足です。そして手で絵具を伸ばしながらパネルに色をつけて描いていきます。
『Sun 9 January, 2022』 映像制作:エビス製作室
風に揺れる葉の音が聞こえ、時間によって移ろう光の中、ミロコマチコは一心不乱にパネルと向き合います。手でパタパタと音を立てるように色をつけるかと思いきや、大きなチューブから絵具を出したり、石を手にしてパネルを傷つけんとばかりに線を加えていきます。
『Sun 9 January, 2022』 映像制作:エビス製作室
そして時には両手を静かに振り上げ、パネルへ全身を委ねるように描いていくのです。さらに布などを切っては貼っていきます。その光景はもはや絵を描く画家というよりも、自然と交信し、絵に魂を吹き込みながら交歓するシャーマンのようでした。
『Sun 9 January, 2022』 映像制作:エビス製作室
獣の目を描き入れて完成した『光のざわめき』。映像ではすぐに他の場所へ移されず、しばらく森の中に留め置かれる様子も記録されています。最後に先ほどの展示室へと戻り、改めて『光のざわめき』と向き合ってみましょう。そこには奄美大島の自然が乗り移ったともいえる、類い稀な生命力が感じられるのではないでしょうか。最初のライブペインティングの作品と同じく、凄まじいエネルギーが渦巻いていました。
現在全国各地を巡回中!スケジュールは?
なお現在、ミロコマチコの美術館での展覧会『いきものたちはわたしのかがみ』が全国各地を巡回中です。
『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』公式サイト
https://mirocomachiko-cm.exhibit.jp
この春に横須賀美術館での会期(2月10日〜4月10日)を終え、夏には千葉県の市原湖畔美術館にて開催が予定(7月16日〜9月25日)されています。そちらを楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。
『ミロコマチコ展「うみまとう」』会場入口。予約は不要ですが、来場者多数の場合は入場制限を行うことがあります。
会期は5月23日までの開催ですが、通常休館日の日曜に加えて、GW期間(4月29日〜5月5日)もお休みとなります。お出かけの際はご注意ください。
『ミロコマチコ展「うみまとう」』 クリエイションギャラリーG8
開催期間:2022年4月5日(火)~ 5月23日(月)
所在地:東京都中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
アクセス:JR線新橋駅、東京メトロ銀座線新橋駅5番口より徒歩3分。
開館時間:11:00~19:00
休館日:日曜、4月29日(金)〜5月5日(木)。
入場無料
http://rcc.recruit.co.jp/g8/
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-
EVENT
2024.09.12
【京都10/11〜】特別展「巨匠たちの学び舎 日本画の名作はこうして生まれた」47名の巨匠の名品が一堂に。
明菜
-
EVENT
2024.09.04
東京都美術館「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」奄美に生き、奄美を描いた画家を知る
さつま瑠璃
-
EVENT
2024.08.31
【東京 品川】浮世絵がデジタルで蘇る:「動き出す浮世絵展」開催!! 2024年12月21日(土)~
イロハニアート編集部
-
EVENT
2024.08.30
戦前から戦後まで駆け抜けた瑛九の全貌を明らかにする関東では13年ぶりの回顧展
つくだゆき
-
EVENT
2024.08.28
京都国立近代美術館9/13〜『LOVEファッション―私を着がえるとき』
新 麻記子
-
EVENT
2024.08.13
京都9/14〜『生誕140年記念 石崎光瑤』鮮やかな花鳥画の大作が並ぶ
明菜
このライターの書いた記事
-
INTERVIEW
2024.09.14
世界をシンプルに捉えたい!アーティスト、田村久美子の抱く夢とは?【イロハニ作家対談コラム】
はろるど
-
EVENT
2024.09.11
『浮世絵お化け屋敷』の後期展示の見どころレポート!幽霊と妖怪を描いた浮世絵の名品が大集合
はろるど
-
EVENT
2024.08.20
風景をシンプルに描いたlandscape作品で大人気!田村久美子の個展「YOURSCAPE ~ あなたが見るセカイ〜」が、南青山イロハニアートスタジオにて開催!
はろるど
-
EVENT
2024.07.24
【東京都美術館】大地に耳をすます 気配と手ざわり
はろるど
-
EVENT
2024.06.18
『今森光彦 にっぽんの里山』過去最大の約190点の作品が公開!
はろるど
-
EVENT
2024.06.17
北斎 グレートウェーブ・インパクト!あの傑作が新千円札に採用
はろるど
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
はろるどさんの記事一覧はこちら