INTERVIEW
2021.12.16
空き瓶と陶芸が出合ったら?梅津庸一が語る美術の面白さとは
「この1年弱で500個ほど作りました」
ニコニコと爽やかな表情で陶芸作品を紹介してくださったのは、美術家の梅津庸一(うめつ・よういち)さん。絵画、ドローイング、陶芸などの制作、「パープルームギャラリー」や「パープルーム予備校」の運営など、多岐にわたる活動をしている方です。どの活動もユニークな視点から問題が提起され、彼の一挙手一投足はいつもアート界に波紋を起こします。
梅津庸一さん。筆者がインタビュー中に写真を撮り忘れたため、急遽自撮りを送っていただきました。ありがとうございます。
自作の展示や個展・グループ展のキュレーションにも積極的で、現在は2つの展示を並行中。東京のワタリウム美術館では個展『梅津庸一展 ポリネーター』が、京都の⾋居アネックスでは二人展『6つの壺とボトルメールが浮かぶ部屋 梅津庸⼀+浜名⼀憲』が開かれています。
今回は京都の展示を拝見し、「美術の面白さ」などについてお話を伺いました。「見る専」のアート好きである私もますます美術が好きになってしまう、刺激的なインタビューになりました。
陶芸というジャンルを揺さぶる
――絵画からキャリアを始めた梅津さんは、最近は陶芸作品を作っていらっしゃいます。新作の《ボトルメールシップ》シリーズは、どのような作品ですか?
《ボトルメールシップ》は、僕が飲んだお酒の瓶を中に入れて焼いているんです。空き瓶を粘土でくるんでしばらく経つと、粘土が乾燥して十数パーセント縮むので、ヒビだらけになって崩壊してきます。その前にヒビを粘土でラフに修復して、窯に入れて焼くと、ガラスが溶けてヒビの間から流れ落ちてきます。この緑の部分はハートランドのガラスの色なんです。
梅津庸一《ボトルメールシップ》2021 ハートランドの瓶が溶け、緑の釉薬をかけたようになっている。
釉薬って、要はガラスなんです。僕が普段、絵画で試みているような絵具の質を、制御不能なガラスの流れで再現できないかな、と試行錯誤しています。ワタリウム美術館の「ポリネーター」展を準備しているときに得たヒントを発展させました。
――作品の土台の部分はどのように作っているんですか?
100円ショップで買ってきたトレイに粘土を詰めて型取りしました。陶芸って、器の芸術性を追求する分野じゃないですか。僕の場合、そこは百均の商品でいいと割り切り、さらに捨てるはずだった空き瓶も使う。既製品と作品のあいだの領域で「芸術性」とはいったいなんなのかを陶芸を通して考えています。
釉薬は和陶芸の伝統的なものを研究して取り入れています。
――どんなきっかけで陶芸を始めたのでしょうか?
2019年に古門前の艸居で展覧会に誘われ、そのために陶芸を始めたのがきっかけでハマりました。
僕は絵画作品の場合、美術史をたびたび参照してきました。美術批評的な強度は担保されるんですが、その分、息苦しい時もあった。陶芸の場合、触ってたまたまできたものが作品になったりする。美術というよりは忘れていた図画工作っぽい感覚が呼び覚まされます。それで気がついたら何百点も作っちゃったんだと思います。
とはいえ、楽しく粘土遊びをするだけではだめです。作品にチープな既製品を用いたり、陶芸とは何か問いかけたり、陶芸というジャンルを揺さぶることを常に心がけています。
美術の面白さとは何か?
――今回の⾋居アネックスでの展示や作品は、どのようなことを意識して作りましたか?
展覧会は、空間、色、形などできるだけ造形言語のみで構成しました。今回は自画像などのアイコンをあまり使わないようにしています。アイコンが前景化するとどうしても観客はメッセージを読み解こうとしてしまう。そういったヒントが少ない展覧会を目指しました。
パープルームでは美術教育問題とか明確な問題提起と仮想敵の設定がありました。最近、僕個人の活動では、そのようなわかりやすい問題提起を極力控えるようにしています。美術って何だろうとか、美術の力だったりとか、美術における面白さみたいなものが、今あまり語られていないような気がしていて。
――美術の面白さですか?
今のアートシーンでは、作品自体ではなく作品に付随する「情報」や「テーマ」に関心が寄っている気がします。
――トレンドみたいな?
そうですね。最近はそういう状況に思うところがあっていろいろなところから距離をとっています。
それに、2021年の作品ではあるけど、1970年と言われても問題ないだろうし、1920年でもいける可能性があります。陶芸は100年経っても変わらない。江戸時代のものですら、新しく見えるじゃないですか。
ところが、作品に同時代(=現代)のモチーフを持ってきちゃうと、時代性をおびてしまいます。今回は絵画でも陶芸でも、あまり時代が特定できないよう心がけました。
――それは難しいことではないですか? 自分が生きている時代を好きに選ぶことはできないですよね。
作っているときは夢の中にいるような感じがしていました。時折、現実と地続きの何かを取り入れたくなっちゃうんですけど、そこを我慢して。これって何なんだろう、とか不安になりながら作る。
人生の複雑さと作品の複雑さ
――染織にも興味を持っているそうですが、陶芸でも染織でも、梅津さんは自ら挑戦するんですね。陶芸作家に発注し、自分はプロデュースに回る、という方法もあると思うのですが。
僕は自分でやります。絵を人に描かせないのと一緒です。
――こだわりがあるんですね?
アイディアよりもどう作るかのほうが、僕にとっては重要です。古い考えだけど、作家が自分で作るってすごく大事だと僕は思っています。自分が生きている時間を削って、有限の時間のなかで作るからこそ意味がある。
例えばこのドローイングは、細かい判断や偶然が重なることで成立しています。
自分と同じような人生を生きるよう、人に指示を出しても意味がないのと同じことです。生きることや人生の複雑さと、同様の複雑さが作品にあってほしい、と僕は思っています。
おわりに
粘土でガラス瓶を包んで窯で焼いてしまうなんて、今まで誰が考えたでしょうか。梅津さんの切れ味鋭い視点が光ります。これまでの陶芸とは異なる方法で芸術性を高めようとする姿勢からは、美術への純情さも窺えました。
絵画にドローイング、陶芸、そして染織。今後の梅津さんの活動にも目が離せません。
◆作家プロフィール
梅津 庸⼀(うめつ よういち)
1982年山形県生まれ。美術家、パープルーム主宰。日本における近代美術絵画が生起する地点に関心を抱き、日本の美大予備校や芸大での教育に鋭い視線を投げかけた制作、活動を行う。自画像をはじめとする絵画作品やパフォーマンスを記録した映像作品の制作、展覧会の企画、論考の執筆などの活動に加え、制作/半共同生活を営む私塾「パープルーム予備校」の運営など、多岐にわたる活動を展開。
◆展覧会情報
『6つの壺とボトルメールが浮かぶ部屋 梅津庸一 + 浜名一憲』
会期:2021年12月4日(土)~2022年1月22日(土)
会場:艸居アネックス(京都)
http://gallery-sokyo.jp/exhibitions/exhibitions-4663/
『梅津庸一展 ポリネーター』
会期:2021年9月16日(木) ~ 2022年1月16(日)
会場:ワタリウム美術館(東京)
http://www.watarium.co.jp/jp/exhibition/202109/
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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