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LIFE

2025.4.7

世界で類をみない、名画を陶板再現する大塚国際美術館の見どころ。フェルメールの「合奏」も新たに登場!

徳島県鳴門市にある大塚国際美術館は、日本最大級の常設展示スペースを誇る世界初の「陶板名画美術館」です。

美術館といえば、実際の絵画や彫刻を展示するのが一般的。しかし同館では世界26か国、190以上の美術館が所蔵する1,000点以上の名画を陶板で再現し、オリジナルと同じサイズと色彩で再現した名画を、日本にいながら一堂に鑑賞できます。

ジョット「スクロヴェーニ礼拝堂壁画」 1304〜1305年 スクロヴェーニ礼拝堂 パドヴァ(イタリア)ジョット「スクロヴェーニ礼拝堂壁画」 1304〜1305年 スクロヴェーニ礼拝堂 パドヴァ(イタリア)

ルネサンスの至宝「システィーナ礼拝堂」を再現!

システィーナ・ホール ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂天井画および壁画」 1508〜12年/1536〜41年 システィーナ礼拝堂 ヴァティカンシスティーナ・ホール ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂天井画および壁画」 1508〜12年/1536〜41年 システィーナ礼拝堂 ヴァティカン

正面玄関から長いエスカレーターをあがり、まず出迎えてくれるのが同館の見どころのひとつシスティーナ・ホール。ヴァティカンのシスティーナ礼拝堂の天井画と壁画を陶板で原寸大に再現したスペースで、2018年のNHK紅白歌合戦にて米津玄師さんがライブで歌声を披露したことでも話題を集めました。

ミケランジェロと盛期ルネサンス絵画の最高傑作として名高い天井画の奥行きは実に40メートル。そこには天地創造から人類の誕生、そして人類の堕落や刑罰といった神と人類の関わりなどが描かれ、ミケランジェロならではの動きのある人体表現や劇的な構図を見ることができます。

システィーナ・ホール ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂天井画および壁画」 1508〜12年/1536〜41年 システィーナ礼拝堂 ヴァティカンシスティーナ・ホール ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂天井画および壁画」 1508〜12年/1536〜41年 システィーナ礼拝堂 ヴァティカン

なおシスティーナ・ホールは、一つ上のフロアのテラスからも鑑賞できますが、そこから眺める「最後の審判」を表した正面の祭壇壁画も大変な迫力でした。上からのアングルもおすすめです。

ジョットの輝き、モネの光—時代を超えた色彩の饗宴

「聖ニコラオス・オルファノス聖堂壁画」 1310〜1320年頃 聖ニコラオス・オルファノス聖堂 テサロニキ、ギリシア「聖ニコラオス・オルファノス聖堂壁画」 1310〜1320年頃 聖ニコラオス・オルファノス聖堂 テサロニキ、ギリシア

こうした教会や遺跡などの壁画を空間ごと再現した展示を同館では「環境展示」と呼んでいますが、他にもフランスの「聖マルタン聖堂壁画」やイタリアの「スクロヴェーニ礼拝堂」、それにトルコの「聖テオドール聖堂壁画」なども絶対に見ておきたいスポットです。

ジョット「スクロヴェーニ礼拝堂壁画」 1304〜1305年 スクロヴェーニ礼拝堂 パドヴァ(イタリア) ジョット「スクロヴェーニ礼拝堂壁画」 1304〜1305年 スクロヴェーニ礼拝堂 パドヴァ(イタリア) 

「聖ニコラオス・オルファノス聖堂」では13世紀前半の後期ビザンティンの壁画をまるで現地にタイムスリップしたように体感できる上、「スクロヴェーニ礼拝堂」ではジョットの描いた美しい壁画装飾が身体に降り注いでくるような鑑賞体験を得られます。歴史好きならずとも、一歩足を踏み入れた瞬間に引き込まれること間違いありません。

モネの大睡蓮 クロード・モネ 1916〜26年 オランジュリー美術館 パリ ほかモネの大睡蓮 クロード・モネ 1916〜26年 オランジュリー美術館 パリ ほか

また印象派の画家、モネが晩年に集大成として描き、現在はパリのオランジェリー美術館が所蔵する「大睡蓮」を屋外にて展示。陶板の特性を生かして、「作品を自然光の下でみてほしい」としたモネの願いを叶えられています。ちょうど天気が良いと、睡蓮の花と水面が青空と一体になって溶けていくような感覚を味わえます。

2000年後も色褪せないアート。陶板名画の魅力とは?

陶板制作工程(印刷) 写真提供:大塚オーミ陶業株式会社陶板制作工程(印刷) 写真提供:大塚オーミ陶業株式会社

ここで陶板名画について一度おさらいしておきましょう。陶板とは茶わんやタイルと同じように、土を使って焼いた陶器の板のこと。その陶板に最高約1300度もの高温で作品を焼き付けて再現したものを陶板名画と呼びます。約50メートルの窯で約8時間かけてじっくりと焼き上げられます。

陶板名画の最大の特徴は紙やキャンバス、土壁に比べて色が劣化しないことです。約2000年経っても色があせずに鮮やかなまま残されるというから驚きます。

陶板制作工程(焼成) 写真提供:大塚オーミ陶業株式会社陶板制作工程(焼成) 写真提供:大塚オーミ陶業株式会社

また技術者の手仕事によって、それぞれの画家らの筆遣いを可能な限りにおいて忠実に再現。写真では分かりにくいかもしれませんが、絵の画肌や壁画の質感もかなり豊かに仕上がっています。なお劣化のない陶板だけに、優しくなでるようであれば作品に触れることもできるのです。

「最後の晩餐」の修復前&修復後のすがた

レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」 修復前・修復後レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」 修復前・修復後

「環境展示」のほかに、古代から現代までの6つの時代順に作品を並べた「系統展示」と、さまざまな時代の作品を「食卓の情景」や「運命の女」などテーマをごとに紹介する「テーマ展示」の3つの展示がある大塚国際美術館。その中でも特に見ごたえがあるのが、陶板だからこそ実現し得た展示と言えるでしょう。

レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐(修復後)」 1495〜98年 サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ修道院 食堂 ミラノレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐(修復後)」 1495〜98年 サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ修道院 食堂 ミラノ

その1つがレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の修復前と修復後の対面展示です。すでにレオナルドが生きていた頃から劣化がはじまった「最後の晩餐」は、18世紀の頃から別の人物による描き加えが行われるなど当初の画像が変形し、1943年には戦争によって建物が破壊されるといった、極めて悲惨な状態にありました。

そこで1979年から20年余りにわたって科学的検査をもとに修復作業を実施。その結果、人物の表情がはっきりと浮かび上がり、美しい色彩と光が蘇りましたが、その2つの画面を実寸大にて細かく見比べられます。

幻の名画に出会える「散逸した作品の復元」

7つのヒマワリ7つのヒマワリ

世界中に散らばるゴッホの7つの「ヒマワリ」を揃えたコーナーも大きな見どころです。ゴッホは生涯において10数点の「ヒマワリ」を描き、そのうち花瓶に入った「ヒマワリ」は7点あり、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの世界各地の美術館や個人が所蔵しています。

フィンセント・ファン・ゴッホ「ヒマワリ」 1888年 1945年兵庫県芦屋市にて焼失フィンセント・ファン・ゴッホ「ヒマワリ」 1888年 1945年兵庫県芦屋市にて焼失

左:エル・グレコの祭壇衝立画復元左:エル・グレコの祭壇衝立画復元

エル・グレコが1600年頃に描いた祭壇衝立画の復元展示も陶板ならではのもの。19世紀初頭のナポレオン戦争により破壊され、幻の祭壇画となりましたが、ここではマドリードのプラド美術館にある5点と、ブカレストのルーマニア国立美術館にある1点で祭壇衝立画を原寸大で復元しています。

その荘厳な光景に思わず身震いしてしまいますが、「もしこの作品が今も存在していたら…」というロマンも感じられるのではないでしょうか。

現地でしか見られないはずの名画、ここに集結

ラファエッロ「アテネの学堂」 1509〜10年 ヴァティカン宮殿 署名の間 ヴァティカンラファエッロ「アテネの学堂」 1509〜10年 ヴァティカン宮殿 署名の間 ヴァティカン

現存しない作品を鑑賞できるのはもちろん、来日が難しい、あるいは一度も日本に来たことのない作品を見ていくのも楽しみ方のひとつです。

例えば、ヴァティカン宮殿の署名の間を飾るラファエッロの『アテネの学堂』。古代ローマ風の壮大な大聖堂と彫像により、人間の英知と理性的な哲学を表した巨大な壁画です。

レンブラント・ファン・レイン「夜警」 1642年 アムステルダム国立美術館 アムステルダムレンブラント・ファン・レイン「夜警」 1642年 アムステルダム国立美術館 アムステルダム

レンブラント畢竟の大作である「夜警」や、オランダ風景画の最高峰とも呼ばれるフェルメールの「デルフトの眺望」、さらにピカソが人間の暴力や悲劇に対して強い反対の意志を示した「ゲルニカ」も必見の作品と言えるでしょう。

カラヴァッジョ「聖マタイの召命」 1600年 サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂 ローマカラヴァッジョ「聖マタイの召命」 1600年 サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂 ローマ

キリストが徴税人マタイに声をかける場面をドラマチックに描いた、カラヴァッジョの傑作「聖マタイの召命」を前にしていると、作品が絵画か陶板のどちらかであるかを超えて、打ち震えるような感動を覚えるのでした。

美術の教科書を超えて、名画と出会う1日を

大塚国際美術館大塚国際美術館

地下3階より地上2階までの5つのフロアに、100もの展示室が続く大塚国際美術館。展示室をすべて歩くと実に4キロという途方もない面積を有するため、「どのように館内を歩いて良いか見当がつかない…」という方も多いかもしれません。なお本来の順路に沿っていくと、短くとも2〜3時間かかります。

「レンブランドの自画像」「レンブランドの自画像」

時間があまりない方におすすめしたいのが、フロアマップにも掲載されたモデルコースです。モデルコースでは「システィーナ・ホール」から「レンブラントの自画像」へと至る主要35展示をピックアップ。

本来の順路をかなり飛ばして鑑賞するかたちになるものの、約1時間20分にて館内をまわることができます。「美術の教科書に載っていたけど、実際には見たことがない」という作品を一気に鑑賞できるのも魅力です。

「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」

しかしもったいない気がするのも率直なところ…。そこでやはり丸一日をかけてじっくり名画に浸るのが良いのではないでしょうか。筆者も朝10時前に入館し、「モデルコース」を中心に5つのフロアの作品を午前中で鑑賞。

その後、レストランでランチを楽しみながら1時間ほど休んだ後、1巡目で気になった作品を重点的に見て周り、再び15時頃カフェで休憩。そして閉館時間の17時近くまで滞在し、じっくりと作品を目に焼き付きました。

歩く、味わう、くつろぐ。すべてがアートな美術館

カフェ・ド・ジヴェルニーカフェ・ド・ジヴェルニー

広い館内を歩いていると途中でお腹が空くこと必然ですが、同館では「食」に関しても不足がありません。館内には計3つのレストランとカフェがあり、ランチやお茶などのシーンにあわせてカジュアルに利用ができます。

ボストンランチ 阿波尾鶏のチキンサンドウィッチとクラムチャウダースープ 1階 レストラン ガーデン フェルメール「合奏」がアメリカ・ボストンの美術館に所蔵されていたことにちなみ、2025年3月18日(火)~5月31日(土)限定メニューボストンランチ 阿波尾鶏のチキンサンドウィッチとクラムチャウダースープ 1階 レストラン ガーデン フェルメール「合奏」がアメリカ・ボストンの美術館に所蔵されていたことにちなみ、2025年3月18日(火)~5月31日(土)限定メニュー

「レストラン ガーデン」(別館1階)では、鯛茶漬けなど鳴門の食材を活かしたランチを広々とした庭園を眺めながら味わえる上、モネの池に面した「カフェ・ド・ジヴェルニー」(地下2階)では軽食やケーキを楽しむことができます。

またゴッホ「アルルのゴッホの部屋」を再現した撮影コーナーのある「カフェ フィンセント」(地下3階)でも気軽にスイーツやコーヒーなどがいただけます。

カフェ フィンセントカフェ フィンセント

また「あまりにも広いと疲れてしまうかも…?」と思ってしまうかもしれませんが、心配は無用です。館内の随所には自由に腰掛けられるベンチやソファが用意されていて、休憩する場所には困りません。(スマホの充電スポットもあり。)

公式サイトにも「歩きやすい靴でお越しください」とあるように、動きやすい格好で出かけるのがおすすめです。荷物はインフォメーション近くにある返却式の無料コインロッカーに預けるのがベストですが、モネの「大睡蓮」など一部、屋外へ出るルートも存在します。その点を頭に入れて服装をチョイスした方が良いかもしれません。

行方不明のフェルメールの「合奏」を新たに公開!

フェルメール「合奏」 1663~66年頃 イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館 ボストンフェルメール「合奏」 1663~66年頃 イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館 ボストン

最後にこの春、大塚国際美術館に新たな作品が公開されたことをお知らせします。それがフェルメールの「合奏」。

1990年3月18日にアメリカ・ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館で起こった「美術史上最大の未解決盗難事件」で失われた13点のうち1点で、現在もFBIや美術専門家による調査が続けられ、1000万ドルの懸賞金がかけられている行方不明の傑作です。

その「合奏」を陶板で原寸大に再現した作品を、「デルフトの眺望」や「真珠の耳飾りの少女 (青いターバンの少女)」など、11点のフェルメールの作品が並ぶフェルメール・ギャラリーにて新たにお披露目されました。

フェルメール・ギャラリー 展示風景フェルメール・ギャラリー 展示風景

公開日はちょうど事件から35年を迎える2025年3月18日。フェルメールファンはもちろん、西洋美術ファンにとっても見逃せない展示となることでしょう。

システィーナ礼拝堂の天井画に圧倒され、フェルメールの繊細な光に見惚れ、古代遺跡の壁画にロマンを感じる——美術に詳しくなくても、思わず夢中になってしまう稀有なアート体験がここには詰まっています。

次の旅先に、日本が誇る陶板名画の殿堂、大塚国際美術館を加えてみてください。

※本記事に掲載した写真は大塚国際美術館の展示を撮影したものです。

展覧会情報

大塚国際美術館
所在地:徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1
開館時間:9:30~17:00 ※入館券の販売は16時まで
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)。1月は連続休館あり、その他特別休館あり、8月無休。
入館料:一般3,300円、大学生2,200円、小中高生550円。
 ※当日のみ再入館可能
美術館HP:大塚国際美術館

【写真24枚】世界で類をみない、名画を陶板再現する大塚国際美術館の見どころ。フェルメールの「合奏」も新たに登場! を詳しく見る イロハニアートSTORE 50種類以上のマットプリント入荷! 詳しく見る
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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