STUDY
2023.4.10
“ローマ四大聖堂”とは?サン・ピエトロ大聖堂以外の3つを徹底解説!
カトリックの総本山であるサン・ピエトロ大聖堂は、イタリア・ローマ市内に位置する国「ヴァチカン市国」にあることは、有名な話ですよね。しかし、ヴァチカン市国の外にもヴァチカンの治外法権が認められた場所があるのはご存じでしたか?
Nicholas Gemini, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
実は「ローマ四大聖堂」は、1929年のラテラノ条約によりヴァチカンの所有物と認められている少し特別な大聖堂なのです。この記事では、ローマの大学院で美術史を専攻する筆者が、「ローマ四大聖堂」のうちサン・ピエトロ大聖堂以外の3つを紹介します。
サン・ピエトロ大聖堂についてもっと知りたい方はこちら!
▼サン・ピエトロ大聖堂の建築の特徴【ミケランジェロとベルニーニ】
https://irohani.art/study/7933/
サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂
Patrik Kunec, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂は、ローマの中心地から少し離れたエリアにある大聖堂です。サン・ジョバンニ大聖堂は、324年に建設されたローマ市内最古の聖堂であり、カトリックにおける最高権威の大聖堂の1つです。
実はサン・ジョバンニ大聖堂がこの地に建設された起源は古代ローマ皇帝の宮殿にあります。コンスタンティヌス帝によりこの地のラテラノ宮殿がローマ司教(のちの教皇座)に寄付され、それからおよそ千年間にわたって教皇の居住地がありました。サン・ジョバンニはローマ司教座の教会として、カトリックの重要な教会であり続けました。
Tango7174, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
教皇がサン・ジョバンニ大聖堂に隣接するラテラノ宮殿の居住をストップしたのは、1309年の教皇アヴィニョン捕囚が原因でした。14世紀にはラテラノ宮殿は2度の大火事にあっており、15世紀後半に教皇がローマに帰ったときには居住できないほどに荒廃していました。それをきっかけに教皇はサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ大聖堂やサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂に居住し、16世紀にはヴァチカン宮殿に移り今に至ります。
サン・ジョバンニ大聖堂の建築の大半は近世以降の修復によるものですが、一部中世から残されたものもあります。後陣に向かって左側の扉からつながる回廊は、13世紀前半に建てられたもので、柱の1つ1つに異なる装飾が施されているのが特徴です。
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂
Nicholas Gemini, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂は、ローマの心臓テルミニ駅から歩いて5分程度のところにあります。サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の起源は「雪の聖母」と呼ばれる伝説にあります。伝説によれば、352年ごろ後継者のいない貴族の夫婦が聖母マリアに財産を捧げることを誓いました。すると、8月5日の真夏に雪が降り、夫婦が聖母マリアの幻影の指示に従って雪に覆われたその場所に聖母マリアに捧げた教会を建てたそうです。
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の最大の特徴は、現存する唯一の初期キリスト教時代のローマ・バシリカ様式の建築です。長い歴史の中で何度も増改築をほどこされているため、「古い建築」と感じることはほとんどないでしょう。バシリカはもともと宗教とは関係のない、市民が多目的に使用できる集会所のような意味の言葉でした。多用途な起源を持つバシリカ建築はいたってシンプルで、初期は長方形に伸びた身廊と後陣のみという構造でした。
Dnalor 01, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
そしてサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂で絶対に見逃せないのが、モザイク装飾です。現在でも翼廊と凱旋門部分のモザイクは4世紀の初期キリスト教時代のものが残されており、古代ローマ時代から初期中世への過渡期が感じられる作品です。
MM, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂
Berthold Werner, Public domain, via Wikimedia Commons
4つのサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂は、直訳すると「城壁外のサン・パオロ大聖堂」の意味を持ちます。その名のとおりこの大聖堂は、古代ローマ時代の城壁の外側に位置しています。重要な大聖堂なのに、なぜ城壁外にあるのか疑問に思われましたか?
実はローマでは、歴史ある重要な教会が城壁外にあることは珍しくありません。これは、古代ローマの遺体埋葬の法律を関係しています。古代ローマでは、城壁内に遺体を埋葬することが禁じられており、共同墓地であるカタコンベは城壁外に築かれました。
大聖堂の名にあるサン・パオロは聖パウロを指し、彼の遺体埋葬地の上に建立されたのがこのサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂です。つまり、ローマで遺体が埋葬された土地に建立された教会は、必然的に城壁外にあるということになります。
Herbert Weber, Hildesheim, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ちなみにローマにはサン・パオロ・デントロ・レ・ムーラ教会(城壁内のサン・パオロ教会)もありますが、こちらは19世紀後半に建立された比較的新しい教会です。城壁内よりも城壁外にある教会の方が重要なのは不思議に思われるかもしれませんが、ローマの歴史背景を知ると納得ができますね。
まとめ
ローマには今回ご紹介した場所以外にも重要な教会がたくさんあります。この記事で紹介した「ローマ四大聖堂」のうち3つの大聖堂は、いずれも見事な建築と装飾を備える素敵な場所です。ローマを訪れる際は、ぜひ足を運んでみてくださいね。
教会建築の楽しみ方についてはこちら!
▼【初心者向け!】どこを見ればいい?教会建築を楽しむ3つのポイント
https://irohani.art/study/8327/
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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